2022.11.25

【水野大二郎×Synflux】「今、ファッションには“遊び”が重要だーーファッションデザインとテクノロジーの接続を考える」

京都工芸繊維大学未来デザイン・工学機構教授の水野大二郎氏とお届けする特集企画「ファッションデザインとテクノロジー」。第2回はスペキュラティヴ・デザインラボラトリー「Synflux」の皆さんを迎えたオンライン座談会を実施しました。

先日、水野氏と共に『サステナブル・ファッション ありうるかもしれない未来』を出版したことでも注目を集めている中で、これからのファッションデザインとテクノロジーをどう接続すればいいのか、そこで鍵となるポイントとは何か、それぞれの専門的な観点からお話しいただきました。

PROFILE|プロフィール
川崎 和也(かわさき かずや)
川崎 和也(かわさき かずや)

Synflux株式会社 CEO
1991年生まれ。スペキュラティヴ・ファッションデザイナー。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科エクスデザインプログラム修士課程修了。専門は、デザインリサーチとファッションデザインの実践的研究。 主な受賞に、H&M財団グローバルチェンジアワード特別賞、文化庁メディア芸術祭アート部門審査委員会推薦作品選出、Wired Creative Hack Awardなど。Forbes Japan 30 under 30 2019、WWD JAPAN NEXT LEADERS 2020選出。経済産業省「これからのファッションを考える研究会 ファッション未来研究会」委員。監修・編著書に『SPECULATIONS』(ビー・エヌ・エヌ、 2019)、共著に『クリティカル・ワード ファッションスタディーズ』(フィルムアート社、 2022)、共編著に『サステナブル・ファッション』(学芸出版社、 2022)がある。

PROFILE|プロフィール
佐野 虎太郎(さの こたろう)
佐野 虎太郎(さの こたろう)

Synflux株式会社 CDO
1998年生まれ。スペキュラティヴ・ファッションデザイナー。慶應義塾大学環境情報学部卒。コンピュテーショナルデザイン、バイオデザインを応用した新しい衣服の設計手法を思索する研究開発を行う。近年はアルゴリズミックデザインの専門家らと協働し、微分幾何学や進化的アルゴリズムの考え方を応用して身体や環境に最適化する衣服の設計手法の開発に注力している。主な受賞に、H&M財団グローバルチェンジアワード特別賞、Wired Creative Hack Awardなど。共編著に『サステナブル・ファッション』(学芸出版社、 2022)がある。

PROFILE|プロフィール
岡本 空己(おかもと ひろき)
岡本 空己(おかもと ひろき)

Synflux株式会社 CTO
1987年生まれ。アルゴリズミック・アーキテクト。東京理科大学大学院工学研究科建築学専攻および情報科学芸術大学院大学(IAMAS)メディア表現研究科メディア表現専攻修士課程修了。設計事務所である株式会社ノイズ勤務を経て建築、写真、グラフィック等様々なバックグラウンドを持つメンバーから成るコレクティブv0id(ヴォイド)として活動。映像制作、インスタレーション展示、インテリアデザイン、ファッションデザイン等領域を横断する活動を行っている。主な受賞に、MADD. Award 2019 優秀賞、ADAA(Asia Digital Art Award) 2019入賞、International Talent Support: ITS 2020 Finalistなど。2021年よりSynfluxに参画。

PROFILE|プロフィール
藤嶋 陽子(ふじしま ようこ)
藤嶋 陽子(ふじしま ようこ)

Synflux株式会社 リサーチリード
1988年生まれ。ファッション研究者。東京大学大学院学際情報学府博士課程満期退学。University of the Arts London(Central Saint Martins)にてファッションデザインを学んだ後、ファッションとメディア、日本のファッション産業史を専門に研究。 2019年に株式会社ZOZOテクノロジーズ入社。ZOZO研究所リサーチサイエンティストを経て、「Fashion Tech News」編集長に就任。経済産業省「これからのファッションを考える研究会 ファッション未来研究会」委員。2022年よりSynfluxに参画、明治大学商学部特任講師、理化学研究所革新知能統合研究センター客員研究員を兼務。編著に『クリティカル・ワード ファッションスタディーズ』(フィルムアート社、2022)、共著に『ソーシャルメディア・スタディーズ』(北樹出版、2021)、共訳に『ファッションと哲学』(フィルムアート、2018)など。

『サステナブル・ファッション』への反響

水野

今年の9月に『サステナブル・ファッション ありうるかもしれない未来』という本を皆さんと出版しましたが、本書に対してのSynfluxへの期待や反響はどのようなものがあったのか、まずお聞かせください。

川崎

反響という意味では「実践的である」という意見が多かったと思います。本書では、世界的なサステナブル・ファッションの理論や事例だけでなく、Synfluxが何をやっているのか、どんな技術や手法を実際に使っているのかという内容をたくさん盛り込んだので、そこに注目いただいたのかと考えています。

2008年に、サステナブル・ファッションの研究がロンドン・カレッジ・オブ・ファッションのセンター・フォー・サステナブルファッションで本格的に勃興してから15年経ちました。その中で、社会構想と社会実装、深い思索と実践が分かち難く融合した思想を提示するべきタイミングでもあるので、Synfluxの事業においても、書籍においても重視しました。

水野

なるほど。佐野くんも本書で執筆を担当しましたが、反響はいかがですか。

佐野

本書で僕は主に「ありうるかもしれないファッションの未来」の可視化や言語化を担当しました。第6章でも紹介している「スペキュラティヴ・デザイン」あるいは「デザインフィクション」といった手法は、副題でもある「ありうべき未来」を考えるためのデザイン手法でもあります。

この書籍を通して、未来を思索するためのこれらのデザイン方法論とファッションデザインとの結びつきをイメージできるようになったという声をいただくことが多かったです。

水野

スペキュラティヴ・デザインとファッションデザインが関係しているようには思えない、というのは、意外な感じですよね。アンソニー・ダンが『スペキュラティヴ・デザイン』でファッションデザイナーのフセイン・チャラヤンのことを書いていますし。

ファッションデザインにおける未来志向性と共通する部分があるな、という理解を持つ人は少なかったということなんですかね。

佐野

そもそもファッション産業の「コレクション」という慣習は、常に半年後・1年後の世界を捉えようとするデザインのサイクルですから、ファッションデザインと未来志向は元々近いところにいたと言えると思います。

しかし「テクノロジー」の話になった際、職人による手仕事が今でも重視されるファッションの領域と、科学技術の接続についてはあまり考えられてこなかったのかもしれません。

水野

岡本さんにも話を聞きたいなと思います。岡本さんは建築がバックボーンにある方で、佐野くんと川崎くんが慶応SFC水野大二郎研究会にいた時から色々とご指導いただき、コラボもしていただいたという関係にあります。
 
建築とファッションの関係性でいうと、ファッションデザイナーはSubstance 3DやBlender、Cinema 4Dなど、従来ファッション業界では使用されなかったツールも折り込み、複数のソフトウェアやデータ形式を橋渡ししながらデザインプロセスを組み立てる感じになっていますよね。

岡本さんから見ると、デザインのためのデジタルツールが拡張傾向にある流れをどう捉えているのでしょうか。

岡本

僕は特に、デジタル環境がデザインをどう変えるか、についてずっとやってきています。建築がベースでもあるので、それとの対比で言いますと、建築でデジタルの流れが出てきたのが80年代、90年代でした。
 
その時には「とりあえず何か可能性があるからやってみよう」みたいな感じで、側から見ると「無意味で単に造形物と遊んでいるだけじゃん」みたいな言われ方をされつつも「いや、その先に何かあるかも」という形で、「遊びながら模索していた時期」だったと思います。
 
それが2000年代になると変化が生まれて、「遊び」がいよいよ飽和したことによって、次のステップ、つまり具体的な生産物に結びついたんですよね。目的ありきではなく、それをどうするかについて、遊びながら考えたことで発展した流れでした。
 
ところが、それに対してファッションでは、最初から「遊び」を超えてしまって、目的に向かって突き進んでいったので、スピード感が全く違いました。建築とファッションの関係においては、その点を強く感じましたね。

水野

ということは、逆にファッションデザインの側は「もっと遊んだ方がいい」ということですか。

岡本

僕から見ると遊び倒した方がいいと思います。やはり実践的になりすぎればなりすぎるほど、その他の可能性が落ちる部分があると思うんです。

その中で「遊び」によって、価値観が違う部分からモノを作っていけると思っています。そこを拾えると、近々の話ではなく、未来の話に広がることにつながると考えています。

どんな「遊び」を取り入れるのか

水野

今回の座談会のテーマは「ファッションデザインとテクノロジー」ですけれども、岡本さんからは、「遊び」が重要だというお話が出ました。可能性の探索が商業目的であると、どうしても矮小化してしまうという指摘ですね。

では、いざ遊ぶとして、どこで何のツールで遊ぶのが今、岡本さん的にアツいですか。

岡本

アルゴリズムによってモデリングができ、ファッションに応用できるHoudiniなども、もちろん大事です。でも、それだけではなく、例えばリアルタイム処理に強いTouchDesignerみたいな、プログラムを書く人ではなくて、デザインをベースにやっている人、でもプログラミングできるツールはおすすめです。

特にTouchDesignerは、AV(オーディオビジュアル)の分野でよく使われていて、そこでは音と映像を等価なものとして扱っています。1回デジタルに落とせば、音、映像に限らずどんなメディアだって等価に扱えるという感覚を持つことはすごく重要です。

実は僕もVJをやっていまして、それを見た佐野さんが「服作りにつながる感じがしました」と言ってくれたんですよね。

水野

佐野くんはVJをしている岡本さんを見て、合理的な設計方法ではなく情報を可視化するような自由な表現の応用により、「服の設計につながるかも!」と読み解けたものにはどのような要素がありましたか。

佐野

VJの技術や創造性を、特に「ニット」に応用できるんじゃないかと思ったんです。岡本さんのように1ピクセル1ピクセルをジェネラティブにつくるVJ作品を見ていると、「投影された1ピクセル」とニットマシンがビットマップデータをもとに吐き出す「ニットの1編み目」が同じ構造に見えた瞬間があって、表現手法としてすごく共通点を感じました。

ヴィジュアルプログラミングの世界で、「ドット・バイ・ドット」(画像や映像が1ピクセルにつき1画素の割合で表示されること)という用語があります。それならファッションの世界では「ドット・フォー・ニット」ですかね。

画像: ©︎ Kai Tamaki
©︎ Kai Tamaki
水野

面白いですね。コンピューターの起源を辿ると、パンチカードなどによってプログラミングした「縦糸と緯糸」を制御するジャカード織機に行き着くわけですけれど、それと同じように「ピクセル」から服との共通点を見出したんですね。

藤嶋さんはSynfluxにおいてデジタル技術を拡張した活動を展開するにあたり、「遊び」を取り入れたいポイントにはどのような対象がありますか。

藤嶋

私自身の関心としては、服のつくり方そのものや、つくられたもの自体よりも、それらによって人が服に対して抱く欲望のあり方や、産業構造やそのサイクルがいかに変わっていくのかに主眼を置いています。

こういった試みによって、今までのファッションをめぐる議論で中心的であった「自己表現としての服の選択」「流行との関わり」といった観点に、どのような変化がもたらされるかということも考えていきたいと思っています。

水野

なるほど。岡本さんと佐野くんはアプリケーションに対する「遊び」の考察だけれども、藤嶋さんはインプリケーションに対する人々の「遊び」の考察に興味、関心があるんですね。

特にデジタル環境やテクノロジーの拡張を前提に、人が衣服をまとうことで起こりうるインプリケーションの中で気になっているものはありますか。

藤嶋

私は服を着る個人の自律的な願望や意図に軸を置いて分析するのではなく、プラットフォームの仕組みとの相互関係のなかで、それがどのように形づくられるかといった背景の部分を重視する視座をとっています。
 
デジタルファッションに対しても、例えば個々の作品の展開だけではなく、それらを取り巻くルールがどう整備され、どういうプラットフォームの仕組みができ、どのような目的やインセンティブが設定されて行くのか、そこで生まれるポリティクスや個々のアイデンティティとのインタラクションに、最も関心があります。

水野

Synfluxはシンクタンクみたいになっていくんでしょうかね、非常に興味深いですね。川崎くんは最初の質問に立ち戻ると、どんなことが今気になっていますか。

川崎

「遊び」が1つ大事なキーワードだと思って話を聞いていました。とはいえ、遊びと開発やビジネスを断絶して思考するのは単なるロマン主義であり旧態依然とした二元論です。

むしろ、遊びと事業が一体となった実践を進めていくことが大事で、それはつまりインプリケーションを前提にアプリケーション実装すること/アプリケーションを前提にインプリケーションを思索することを両立させることだと思うんですね。

その意味で言うと、Synfluxも注目しているWeb3やメタバースは、遊びの余地や隙間がたくさんある領域だと思っています。Web3やメタバースが現行依拠する一つの価値観に対して、どう遊びを加えたオルタナティブなインプリケーションを提案できるか。そしてアプリケーションとしてしっかり実装することは、Synfluxがやりたいことです。

具体的には岡本の発案で、社内に「ラボドリブン」の考え方を導入しました。企業とのB2B事業を行うのとはある程度の距離を取って、自分たちで自由に実験するアジールとしての場、ある種の「遊び場」を組織内に作ろうと考えたわけです。そこでは、例えばアルゴリズムの論文を分析したりする基礎研究や、アバターモデリング実験などの応用研究が走っています。

一方で、インプリケーション前提のアプリケーションを実装する試みとして「アルゴリズミック・クチュール」の事業があります。

アルゴリズミック・クチュールは、建築領域で発達したアルゴリズミックデザインの方法論を用いて、衣服の設計時に排出される布の廃棄を極小化させる取り組みですが、その初の量産への応用が、ゴールドウインとのコラボレーション「SYN-GRID」としてローンチされました。

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川崎

ここでは、THE NORTH FACEとNEUTRALWORKS.という2つのブランドから、従来から廃棄が約1/3になった製品が発売されます。

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「ファッションデザイン」と「バーチャルファッションのデザイン」

水野

相互に交換可能な入れ子状の構造にデザインプロセスが構成されている点はSynfluxの特徴ですよね。デジタル→フィジカル、フィジカル→デジタルと何回でも往復が可能になっている。

しかもその相互往復を可能にすることで色んな遊びも出てくれば、製品化に向けた新しい技術開発や、製品も出てくるわけですから、非常に有意義な遊びのプロセスだなと思います。

川崎くんは遊びという観点から、レガシーのフィジカルなファッションデザインと新興のバーチャルファッションのデザインの相互関係をどう見ていますか。

川崎

ファッションにおいては物理環境と情報環境間の共通言語がまだまだ構築されていないと思っています。これは、建築情報学を推進している建築家の豊田啓介さんと同様の問題意識ですが、ファッションは建築と比較して議論が足りないので深めていかねばと思っています。

高度な物理演算ができるゲームエンジンの応用や、CLO3Dのような機能的なシミュレーションソフトウェアは部分的に普及してきたけれど、完全にそこが交通整理されているわけでもありません。設計の話にフォーカスしたとしても、アバターと物理衣服でどちらもデータが活用されているわけだから、もっと最適化された批評的な方法を生み出せるはずです。

ナイキが買収したバーチャルスニーカーなどを手掛けるRTFKTが、リアルの服のコレクションを発表しましたが、旧態依然としたファッション産業を痛烈に批判してきた分散型組織が満を辞して提案する服がプリント柄のTシャツなのだとしたらそれは少し寂しいことだなと。

佐野

RTFKTは、バーチャルワールドにおけるストリートファッションになろうとしている中で、現実のSupremeのように、Tシャツにロゴだけつけて売る「ストリートブランド登竜門」のようなことを地でやっているのかなと思いましたね。

バーチャルとフィジカル、両方の世界に展開するブランドが今後次々と現れる際、その2つの世界観がどのように地続きになっているのかが面白いポイントになる気がしています。

水野

なるほど。ロエベがピクセル化した柄やシルエットの服を2023年の春夏コレクションで発表していますが、それは「デジタル化」の一表現であって、まだまだ「遊び」が必要だということなんでしょうかね。

リアル「と」バーチャルでデザインするための共通言語が脆弱であり、架橋する方法が十分整備されていないなと感じさせます。

岡本

成立していないからこそ遊ぶべきだと思います。その意味では、ロエベもどんどんやってほしい。

Synfluxの作品で言うと「21_21 DESIGN SIGHT」での展示では、小説というある種のバーチャル世界の中で「ケモノ」が着ている服を、私たちが実際に着られるリアルな服にして、この世に出現させました。

画像: ©︎ Kai Tamaki
©︎ Kai Tamaki
岡本

ケモノは小説の中では2mぐらいの背の高さなんですけど、現実の僕たちはそんなに高くない。そこで僕たちが着たら長い袖や裾部分を折り返して、ボタンで止められるようなデザインにしました。

バーチャルの世界からそのまま出現させるのではなく、その出現のさせ方、私たちの世界との接続の仕方をデザインしたわけです。

同じではないけれど全く別の世界ではない、その繋がりをデザインに落とし込むことを実践しています。デザインを担当したのは佐野さんですね。

今はそうやって接続の仕方を色々試している感じです。小説の中の服をそのまま出して着てもつまらないし、接続になっていないですから。

水野

それこそフセイン・チャラヤンのようなコンセプチュアルなファッションデザイナーがかつて取り組んでいた「特定のデザイナーの想像力に基づく特定のコレクションのテーマの中だけで成立する」ような、物語性はあるけれど動かない「ダイジェティック・プロトタイプ」から、SF的な発想で未来を試作する「SFプロトタイピング」みたいな発想へとファッションデザインが拡張している、ということですかね。

ありうべき未来を精緻にデジタルデータドリブンで想像し、それをベースにデジタルファブリケーションを介して実際に具現化し、いざ着てみると何が起こるかを遊ぶという、高度な遊びなのかなと感じます。

藤嶋さんは、一連のバーチャルファッションの動向に関して現在考えていることはありますか。

藤嶋

大学の講義などでバーチャルファッションの話をすると「バーチャルな世界でもファッションは必要ですか」といった疑問が出てきます。それを私なりに考えたとき、人間がある場所に「没入するための導入」として服という存在の意味があるのかなと。

人間は、服を犬にも着せるし、ロボットにも着せますよね。ファッション研究者のアンナマリ・ヴァンスカがペットのファッションに注目してファッションを人間化する行為として論じたように[1]、服を纏う/纏わせることは動物やペットを人間のように捉えることと繋がっていて、服という「人間の痕跡」があることが、コミュニケーションやインタラクションを成立させる上ですごく重要な役割を果たしているのだと思っています。このことが、メタバースにおけるファッションの展開を考える上でもヒントになるかもしれません。

つまり、メタバース空間で活動する際に、会話したアバターがたとえチャットボットであっても分からないような状況になっても、そのアバターがカスタマイズされた服をまとっていたり、服やスタイリングに何か主張があるといったような「人間の痕跡」を見てとれることが、私たちがそこでのコミュニケーションに没入するために、重要なポイントになるのかもしれません。

水野

メタバース空間上のアバターのようなエージェントは、必ずしも人間の姿をしていなくてもいい、ということですよね。建物が擬人化されて人間のような振る舞いをしてもいい。漫画の世界では、これまで非人間でも怒りマークとか汗マークとかを用いて、人間的感情は表現されてきたわけですしね。

藤嶋さんの視点は、服を着せることにより、人間的/非人間的な存在も、コミュニケーションを取り得る存在になるんじゃないかという話かと思います。すると、そうしたエージェンシーがどんな服を着ていると面白いのか、という話になる。それを「遊ぶ」ということなんですかね。

岡本

そういうことですね。今、服の概念が変わってきていて、私たちの服はもう物理的なモノを捨てた世界の中でも、アイデンティティーを出すものとしての意味合いが強くなっていくのかな、と思います。そういう概念が変わるところで、うんと遊ぶといいと思います。

サステナビリティを考えるにあたって必要なこと

水野

最後に、サステナビリティについてお話を伺いたいと思います。Synfluxは先ほど話にも出た生地の廃棄ロスを可能にする「アルゴリズミック・クチュール」などで、環境と情報技術の接合に取り組んできました。

しかし一般的にはサステナビリティが情報技術によって拡張できるという話と、気候変動や環境危機が切迫しているといった話はやや切り離されがちです。なかなか広まらないことについて、難しさを感じるのですが、この点についてどうお考えですか。

藤嶋

私自身が実践に関わっていくうえでは、システムとしていかに組み立ていくのかを考えたいですね。個人の実践や価値観に重きを置き、消費者のリテラシーに依存するような方策でサスナビリティへの取り組みを進めることは、「人々が価値観に共感しないから広まらないんだ」と責任を転嫁する態度へと繋がってしまうようにも思えます。
 
また特に個々人の日々の生活環境を考えると、環境にいいとされるプロダクトを買おうとアクションを起こそうとしても、買いに行く道中で見ているYouTubeには、驚くほど安価なファストファッションの爆買動画が溢れているといったような、ものすごく引き裂かれた環境に、私たちは置かれています。
 
つまり、「1回くらいアクションを起こしても何も変わらないのではないか」と感じてしまう状況が、どうしても存在している。その時に、たとえわずかであっても、自らのアクションの効果を実感しやすいような仕組みをつくることで、面白くなっていくかもしれません。

多様なテクノロジーを活用して、私たちとファッションの関係性を価値にするシステムをつくっていくことが大切だと思います。

水野

グリーンエコノミーは色んな矛盾や課題も孕んでいるものの、どうやって積極的に介入して新しい価値を作り出すかを実践しない限りは脱成長、懐古主義的な前近代への回帰、コモンズとしての環境に対する各利害関係者への責任転嫁、という方向にしか行かなくなるのは困りますね。

地球上の人口は80億を超えており、極端にいえば人口を抑制しない限り環境容量が不足するのは目に見えていますからねえ。

川崎

サステナブル・ファッションの実践には惑星規模の思考が必要です。網状に広がる複雑な製造・流通ネットワークを最適化する必要があるとすると、惑星全体を「テラフォーミング」するような巨大な思考が求められるのだと思っています。

一方で、岡本や佐野のデジタルツールを使い倒すことによる「遊び」の議論や、デジタルプラットフォーム環境下におけるユーザーの日常的実践に持続可能性の問題を位置付ける必要があるという藤嶋の指摘にあるように、惑星規模の問題系であるサステナブルファッションにどのように人々が「参加」するかという課題は、この座談会を通して再認識できました。
 
主に2010年代に勃興したプロシューマーやMAKERS、パーソナルファブリケーションといった、デザインの民主化に関する議論がヒントになると考えていますが、ユーザーや消費者にばかり期待したり責任を押し付けるのではなく、いかにサービスやシステム、アーキテクチャの設計を用意できるかにかかっているのではないかと思うのです。
 
Synfluxは、とりわけこの20年勃興した新しいデザインの潮流とサステナブルファッションを接続し、技術のみならず、文化や、産業、惑星そのものを革新する取り組みに挑戦したいと考えています。

[1] Vänskä, Annamari ,2018, "How to do humans with fashion: Towards a posthuman critique of fashion," International Journal of Fashion Studies, 5(1):15-31.
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