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2023.05.17

熱を加えるだけで自在に変形する布「Steam Stretch」の設計製造技術を開発、一枚の布からあらゆるファッションアイテムを製作可能に:Nature Architects

Nature Architects株式会社が、A-POC ABLE ISSEY MIYAKEとの共同開発により、熱を加えるだけで狙った立体に自動で変形する布「Steam Stretch(スチーム ストレッチ)」の設計製造技術を開発した。
「Steam Stretch」は、布に熱を加えて特定の糸が縮むことで、伸縮性のある布製品を生み出すイッセイミヤケによる製造技術だ。Nature Architectsは、狙った立体に変形させるために必要な布の収縮パターンを計算し、図面を自動生成するアルゴリズムを開発することで、この製造技術を用いた設計プロセスの自動化を実現した。
以下の映像をご覧いただきたい。この技術を活用すると、平面の布を織り機で出力して熱を加えた瞬間に、衣服や帽子などをほとんど完成した製品として生み出せるなど、これまでにない新しい服の概念を具現化することができる。
さらに、アパレル業界はもちろん、さまざまな製造業においても応用可能な画期的な技術になっているという。
そこで今回、Nature Architectsの代表取締役CEOを務める大嶋泰介さんと取締役CROの須藤海さんに、開発の経緯や技術の可能性、今後の展開などについて聞いた。

「折る」という共通点

はじめに、御社の概要について教えてください。
大嶋弊社は、もともと東京大学で設計の技術やメタマテリアルと呼ばれる、構造力学的な学問を研究していたメンバー3人で創業した会社になります。いわゆる機械設計と呼ばれる設計を専門とする会社です。
設計と聞くと、一般的にはプロダクトデザインやインダストリアルデザインなどを思い浮かべる方も多いと思います。しかし、私たちはメタマテリアルを活用した独自の設計技術によって、まったく新しい物理的な機能を生み出しています。
たとえば車でいうと、何かが衝突したときに、衝突のエネルギーを吸収して、車内の人間を保護する衝撃吸収部材などを作っています。そのほか、部品の組み立てをなくすことで部品自体を軽くしたり、音響、振動、熱を制御したりするような構造の設計などをしています。
こうした技術をもとに、アパレル業界はもちろん、モビリティを中心に、建設、航空宇宙、家電などの業界をクライアントとしています。
今回、「Steam Stretch」を開発していたA-POC ABLE ISSEY MIYAKEと協業したきっかけについて教えてください。

大嶋もともと私と須藤は、東京大学時代に館知宏研究室に所属していました。折紙工学と呼ばれる、折紙の考え方を工学的に応用して、新しい構造的な機能材料や建築物などの開発に取り組んでいる研究室です。
折紙工学の世界では、舘知宏教授とマサチューセッツ工科大学のエリック・ドメイン教授により、「一枚の紙に折りを加えていくことで、どんな立体形状も実現できる」ことが数学的に証明されています。
また、その証明のベースとなるアルゴリズムをプロダクトデザインなどに使えるように発展させたソフトウェアを、須藤と弊社CTOの谷道(鼓太朗)が開発しています。
そうした背景があり、「もし紙を自動で折り上げる技術さえあれば、どんな立体でも作れるだろう」と考えていました。研究室では、折紙工学に基づく新しいアプリケーションはありましたが、実際に折紙を自動で折る技術に関しては持っていなかったからです。
そのなかで、今回共同した「A-POC ABLE ISSEY MIYAKE」というチームが、布に熱を加えるだけで自動的に布が伸縮して折り上がる「Steam Stretch」という製造技術を持っていることを知りました。
「Steam Stretch」は、彼らが10年ほど前に確立した技術です。「折る」という共通点があるとともに、熱を加えるだけで自動的に折り上がってしまう技術は衝撃的でした。
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