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【日本未上陸】ただ甘いだけじゃない——南仏メゾン「CHABAUD(シャボー)」が“ミルクの香り”で表現する、無垢とエレガンス
2002年の創業以来、南フランス・モンペリエから静かに香りを届け続けるフレグランスメゾン「CHABAUD(シャボー)」。創業者のSophie Chabaud(ソフィー・シャボー)が幼少期に過ごした庭の記憶から生まれたこのメゾンは、2013年に現代表のMattia Bono(マッティア・ボノ)が加わったことで新たな章を迎えた。香りを“感情”や“記憶”を織りなすアートとして捉え、独自の存在感を放つ。
なかでも、郷愁や無垢な心を香りで表現した“ミルク”シリーズは、ブランドを象徴するアイコンとして世界中で愛されている。その創造の背景や、「香りは詩である」と語るマッティアの美意識について、本人に話を聞いた。
PROFILE

Mattia Bono(マッティア・ボノ)
CHABAUD 共同創業者/ブランドディレクター
イタリア出身。旅先の南仏で「シャボー」の香りと出会い、その世界観に魅了される。2013年よりブランドの展開に携わり、アートや詩情を重んじる独自の哲学で、メゾンを新たなステージへと導いている。
記憶の扉を開く、ひとつの香りとの出会い
モンペリエの穏やかな光の中、ある一本のルームフレグランスが若き感性を動かした。2012年、旅の途中で偶然「シャボー」と出会い、ひとりの顧客としてその香りに触れたマッティア。「ホームフレグランスが持つ“感情の精度”に圧倒され、その静かなエレガンスにすぐさま心を奪われました」と、彼は振り返る。それは、記憶の扉をそっと開くような感動的な体験であった。
「その瞬間、香りが持つ力をあらためて確信しました。感情、記憶、その場に流れる空気——香りは、目に見えないすべてを結びつけてくれます」

その直感に従い、彼はわずか1年後、ブランドの新たな展開を担うことを決意する。
ソフィーが築いた世界観に共鳴したマッティアがブランドの展開に加わったことで、2013年、「シャボー」はフレグランスメゾンとして新たな幕を開けた。以来、「シャボー」は記憶と芸術とをつなぐ、エレガントで心に響く香りを創造し続けている。
“ミルクの記憶”が呼び起こす、無垢と郷愁
数あるコレクションの中でも特異な存在感を放つのが、乳製品をテーマにした“ミルク”のシリーズである。
『Lait concentré(レ コンセントレ)』、『Lait de Vanille(レ ドゥ ヴァニーユ)』、『Lait et Chocolat(レ エ ショコラ)』など、郷愁を帯びた香りは、甘美でありながら心を落ち着かせる静けさをたたえている。
「このシリーズでは、幼い頃の無垢な気持ち、懐かしさ、そして心の安らぎをボトルに封じ込めたいと考えました」
しかし、一般的にグルマン(美味しそうな香り)系のフレグランスは、少しでもバランスを崩すと過剰な甘さになりがちだ。「甘さを保ちつつ、エレガンスを失わないこと。それが最大の挑戦でした」とマッティアは語る。試行錯誤の末に生まれたこの“ミルクの記憶”は、今や「シャボー」のアイコンとなり、ブランドが持つ感情的な奥行きを象徴する存在となっている。
その奥行きは、香りを重ねる「レイヤリング」という提案にも見てとれる。「シャボー」は、香りを重ねて自分だけの物語を紡ぐ楽しみを提案しており、その組み合わせは季節や気分に応じて自由自在である。
たとえば、『Innocente Fragilité(イノセント フラジリテ)』と『Fleur de Figuier(フルール ドゥ フィギエ)』を組み合わせれば、清らかさと果実の瑞々しさが交差する夏らしい印象になる。『Mysterious Oud(ミステリアス ウード)』に『Lait et Chocolat』を重ねると、ビターなウッドノートの中に柔らかな甘さが立ち上り、複雑で官能的な表情が生まれる。
「香りは、感情や記憶を編み上げるための織物のようなものです」とマッティアが語るように、選ぶ香り、重ねる香り、そのすべてが“自分自身の物語”を語るピースとなるのだ。

小さくても、芯がある。静かに広がる“シャボー”の世界
ミニマルでクラシカルなボトルデザインも、香りの個性を際立たせるための余白として、緻密に設計されている。「純白のパッケージは、地中海の光や純粋さを映し出すキャンバス。主役はあくまで香りとその名前だけでいいと考えました」
この潔いシンプルさの中にこそ、ラグジュアリーを感じさせる「シャボー」ならではの美意識が息づいている。
フランスを中心にヨーロッパで展開を広げているが、その道のりは平坦ではなかった。国境を越えてブランドの世界観を伝えるには、文化的な背景の違いを乗り越える繊細なアプローチが求められる。
「私たちが見つけた答えは、規模の大きさではなく、哲学の明確さと人とのつながりでした。言い換えれば、“小さくても芯がある”ブランドであることです」
その言葉通り、彼はブランドのDNAを深く理解し、共鳴してくれるパートナーとだけ丁寧に関係を築きながら、「シャボー」を世界へと向けて育ててきた。フランスの職人技に支えられたその一貫したものづくりもまた、ブランドの“芯”を支えている。
香りから、ライフスタイルへ広がる新章
そして今、新たな香りが静かにその誕生を待っている。まもなく発表される最新作は、「シャボー」の得意とするグルマンに新しい解釈を加えた一本になる予定だ。「香りでありながら、まるで詩のような存在にしたい」と語る意欲作は、ブランドの次なる章を示すものになるだろう。
さらにマッティアの視線は、香りの枠を超えた“ライフスタイル”という領域にも向けられている。
「これからは、香りを軸としながらも、ファッションや文化、五感すべてに語りかけるブランドへと進化していきたいと考えています」
日本での展開に向けて新たなパートナーシップも模索しており、その歩みは静かに、しかし確実に世界へ広がっている。香りは、誰かの記憶と結びつくことで初めて完成する——。そう信じるメゾン「シャボー」は、今日もまた、一人ひとりの物語にそっと寄り添う香りを届けている。
Text by ELIE INOUE







