

Articles
【日本未上陸】オランダ発の「GABI(ガビ)」が伝える、エチオピアの伝統織物の魅力
幼少期に、人生の初めての親友のように手放せなかったブランケットやぬいぐるみ。幼い頃の記憶が薄れていても、家族が愛をもって包み込んでくれた柔らかな生地の感覚が、どこか脳裏に残っている人も多いだろう。
オランダ発ブランド「GABI」は、幼い頃に愛着を抱いたブランケットを思い起こさせる、どこか懐かしく温かなタッチのテキスタイルが魅力である。エチオピアにルーツを持つ設立者ルース・ロナー(Ruth Ronner)は、エチオピアの民族衣装として用いられ、新生児の"おくるみ"や日常生活の一部として浸透している手織りの綿織物・ガビからインスピレーションを得て、その伝統を現代へと継承している。
パーソナルな思い出から「GABI」の誕生まで、ルースが紡ぐ物語に迫る。
PROFILE

ルース・ロナー(Ruth Ronner)
GABI 設立者
豊かな歴史を持つ、エチオピアの伝統織物"ガビ"
「ガビは織物というだけでなく、世代を超えて受け継がれてきた物語、思い出、伝統を運んでいるのです」とルースは語る。彼女はその織物の名称"ガビ"をそのままブランド名に採用し、独特の質感や色彩を再現しながらも現代的なニュアンスを加えることで、エチオピアの美学をスカーフやブランケットへと昇華させている。
特徴は、伸縮性のある雲のような柔らかな肌触りだ。ガビは、性別を問わず着用する伝統的な民族衣装として親しまれ、現代では冠婚葬祭や教会へ行く際の正装、赤ん坊のおくるみ、そして自宅ではブランケットとして日常生活に溶け込んでいる。
手織りの綿織物は、自然なままのオフホワイトまたは漂白した白が基本だが、エチオピア正教の影響を受けた十字架や幾何学模様が織り込まれることもある。「つまり"ガビ"には、エチオピアの伝統と精神性、そして自然の美しさが反映されているのです」とルースは説明する。

.jpg?w=902&fm=webp)
オランダ人の父とエチオピア人の母のもと、アムステルダムで生まれ育ったルース。「母は世界各地に散らばる大家族の出身なので、私は常にさまざまな言語、伝統、視点に囲まれて育ちました。幼少期はとても穏やかでしたが、旅行や大家族の集まりで常ににぎわいの中にいたのを覚えています」と振り返る。
ロッテルダム経営大学院で国際ビジネス管理を学び、しっかりとした国際マーケティングの基礎を身につけたルースだったが、次第に伝統や工芸といった異なる分野に興味を持つようになった。ファッションとラグジュアリーの世界を探求するため、ミラノのボッコーニ大学院に交換留学し、ファッションとラグジュアリー企業の経営に関するコースを受講。高校と大学院を通じて戦略的起業家精神の修士号を取得し、アムステルダムに拠点を置く国際的なファッションブランドでインターンシップを経験した。
「就職という選択肢もありましたが、大学卒業と同時に『GABI』のビジョンを実現したいという強い思いが湧き上がってきたのです。何年も心の奥底に秘めていた情熱を、具現化させるときが来たと感じました」
"ガビ"を通して知る、エチオピアの日常と祖父母の存在
エチオピア人である母は、DNAに刻まれた伝統に倣い、生まれた瞬間に"ガビ"でルースを包み込んだ。それ以来、この綿織物は彼女の人生の一部として日常に存在している。長い歴史を持つ"ガビ"を通して、ルースは直接会うことのなかったエチオピア人の祖父母や家族との絆を見出したと、彼女は個人的な物語を語ってくれた。
「祖父母は私が生まれる前に亡くなっているので、母と親戚が語ってくれた話からしか彼らのことを知りえません。おそらくそれが、私が祖父母の人生、暮らし方、儀式的な行いにずっと興味を持っていた理由でしょう。
幼い頃、ブランケットの"ガビ"にくるまりソファで心地よく過ごしている祖母や、自宅に家族や友人を招待してコーヒーを飲みながら、膝掛けとして"ガビ"を共有して談笑している写真を眺めては、会うことのない祖父母に思いを馳せていました。
エチオピアの新生児がみんなそうであるように、赤ん坊だった母や親戚も"ガビ"にくるまれ、抱っこ紐としても使いながら祖母の背中で眠っていたのです。もちろん私自身も、"ガビ"にくるまれながらそんな写真を眺めていました」

物心がついた頃には、祖先の土地から遠く離れたオランダで育ったことで、多くの伝統が失われていたことに気づいたという。"ガビ"の存在は、身近すぎてその文化的価値に気づいていなかったとも語る。
「高校生のとき、母がエチオピアから新しい"ガビ"の毛布と布の山を持って帰ってきた日のことをはっきりと覚えています。干してあるのを見て、その柔らかさ、職人技、そこに込められた愛情まで、すべてに再び恋に落ちるようでした」
転機となったのは、大学の最終学年でエチオピアの男女のビンテージ画像を集めてコラージュ作品を作っていたときだった。
「私には自分のルーツに息づく遺産を取り戻し、文化的アイデンティティの豊かさを再発見するチャンスがあるという、希望と可能性を感じたのです。"ガビ"の伝統を尊重しながら、今日の世界に共鳴する新しい美的言語を形作るものを届けたいと思い、ブランド『GABI』のアイディアが生まれました」

「GABI」を通して、人々に安らぎを
ルースは身近なエチオピア人女性たち—母、叔母、祖母に関する話や写真、そして現地の街で見かける女性たちからインスピレーションを得ている。「GABI」のスカーフは伝統的な使い方である頭や首、体に巻いてファッションアイテムとして、またブランケットは自宅での寛ぎの時間はもちろん、ラップドレスのようにアレンジすることも可能だ。個性を引き立てるというコンセプトを核に、「GABI」の作品は無地のシンプルなデザインで、自然なままのオフホワイトか、自然染料による一枚ずつ異なるユニークなカラーパレットを展開している。「少しの懐かしさを織り込み、人々に安らぎとインスピレーションを与える、魅力的で多機能なデザインを作るのが大好きなんです」とルースは目を輝かせる。
「装いや家の飾り付けなど多くの要素から着想を得る『GABI』は、私を含めエチオピア人が日常でどのように暮らしているかを反映しています。これらの作品は文化や伝統との繋がりを持っており、その背後にある物語を共有したいと思っています」

今春には、韓国ソウルのコンセプトストアで初の海外ポップアップを開催。今後は、室内外で使える多機能なアイテムにこだわりながら、慎重にゆっくりと製品ラインナップを拡大していく予定だという。
ルースの家族との絆とエチオピアの美学が織り込まれた、現代生活に寄り添うファッション&ホームウエアとして世界へと広がる「GABI」。彼女の作品もまた、着用者のユニークな人生と家族の何気ない瞬間を包み込み、無限の物語を紡いでいくことだろう。
Text by ELIE INOUE







.jpg?w=328&fm=webp)

