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照明デザイナー・石井リーサ明理が語る、服飾展示を照らす美学
光は物にさまざまな表情をもたらす。美術館に陳列された作品。来館者の前で、傑作をさらなる高みへと運ぶのも光である。
その光の魅力について、ディオールやサンローラン、エルメスなど数々の服飾ブランドの企画展において、照明デザイナーという立場で関わってきた石井リーサ明理さんにお話をうかがった。
PROFILE

石井リーサ明理(いしい りーさ あかり)
照明デザイナー
多くの制約の中で作られる服飾照明
「服飾は光に敏感です。布や糸、染色が光によって変色するため、使える照度の制約が非常に強い。その中で展示会全体の雰囲気も絡めて演出を行う難度が高い仕事です」パリ市内、エトワール凱旋門から徒歩圏内にある石井さんのオフィス。オスマニアン様式の建物の一室で、石井さんは自身の仕事について丁寧に語ってくれた。
「展示ではマネキン1体に対して照明を3灯くらい当てるんです。絵画の場合は1 つの作品に対して1灯、もしくは2灯。そのため服飾の展示は、照明器具をより多く調整しなければなりません。いろいろな技術を多々組み込みながら細かく行う必要があるため、作業期間も長くなる。その分、うまくできたときはうれしいですし、達成感はすごくあります」
服飾でも細かなものだと難易度はさらに増す。たとえばアクセサリーの展示。2024年から2025年にかけて、パリ市モード美術館で開かれた「スティーヴン・ジョーンズ:アーティストの帽子」展を振り返る。
「帽子は小さいじゃないですか。それがショーケースの中にたくさんあって、異なるデザインや素材、色になっています。それら一つ一つに光を当てることも難しいですし、ショーケース全体の調和やそれぞれのテーマ性もある。ゆえに、表現には苦心しました」

これまでに石井さんは、美術館などでの展示照明の他に、都市、建築、イベント、舞台、インテリアなど多岐の分野で照明デザイナーとして携わってきた。対象物やテーマが千差万別であるように、光の使い方も毎回変わる。
「展覧会の場合、まずキュレーターによる企画書があり、今回の展覧会はどのようなメッセージ性があるかが書かれています。それをセノグラファーが空間化し、私はその空間化されたところに、光でどのように演出していくかを考えます」
数々の現場をこなしてきた石井さんだが、特に記憶に残っている仕事があるという。2017年にパリ市内ブールデル美術館で開かれた「バレンシアガ、黒の作品」展だ。

「バレンシアガの黒いドレスを集め、彫刻家ブールデルの作品との対話をコンセプトにした展示でした。黒い衣装に加えてケースの背景も黒。ブールデルの作品は黒のブロンズ。黒は光を吸収してしまうため、光を当ててもあまり作品が浮き上がってこない。黒の上の黒にどうやって光を当てたらいいのか大変でした」
しかしその苦労は、展覧会が終わった後のファッション業界内における話題で報われた。業界内の人々の間で好評を博したからだ。
「展覧会を覚えていてくださったファッション業界の方に何人もお会いしたんです。話の中で偶然その展覧会の話題が出たりして、『私が照明をしたんです』と言うと、『あなただったの? とても良かった』と言われる。すごくうれしいですね」
興味が全て集まった先が照明デザイン
石井さんが照明の道に進んだきっかけは、美術史と美学への興味からだった。「アート全体に興味があり芸大に行きました。進学した東京藝術大学の美術学部芸術学科というところは、美術史や美学の他に、絵も描くし彫刻もやる、とても幅の広い学科でした。
ただ、私自身デザインをもう少し勉強したかったということと、建築と都市にも興味があったため、大学院では実技と学科を両方学ぶため東京大学大学院総合文化研究科に進み、その間にパリのデザイン学校へ留学しました」
転機はフランス。大学院在学中に1年間滞在した、パリのデザイン学校で必修だった照明器具デザインのカリキュラムが、石井さんの進路を決めた。実際に学んでみたらおもしろく、留学中のスタージュ(インターンシップ)でも、照明デザイナーであるルイ・クレア氏の下での研修を積むことを選んだ。
当時のパリは、ミッテラン大統領によるグラン・プロジェが推し進められていた時代。アメリカの建築家イオ・ミン・ペイによるルーブル美術館の前庭のピラミッド、カナダの建築家カルロス・オットーによるオペラ・バスティーユ(新オペラ座)など、1980年代後半から建築の力でパリという街がダイナミックに変わっていた。

「クレアさんは照明デザイナーの先駆けのような方。ラ・デファンスにある新凱旋門の照明を担当するなど非常に活躍をしていました。そこで、照明一つで都市が生まれ変わるというようなことを教えていただいたんです。それは私にとって、目を見張るような体験でした」
光は空気と同じ、あって当然だけどないと困る
照明デザイナーは表現者であり技術者だ。創造性と論理性の両立が求められる。「画家は絵の具で描きますが、私は光を使って描きます。どう表現して、どう見せたいのか、そしてそれは見て美しいのか。フランスでは『目を持っている』と言うのですが、それに加えて、その表現を形にできる技術的バックグラウンドもしっかりしていないといけない。両輪がないと前に進めません」
技術的なことは体系的に学ぶことはできるが、感性は長い時間を通して培っていくしかない。あわせて照明デザイナーとしての仕事は、対象物とのバランスも求められる。照らすべきものがある以上、自身の価値観の押し付けだけでは、仕事は成立しないからだ。
「対象物との対話なので、その対象物が何で、どういう機能があって、どういう役割を果たして、どういう人が来て、どういう歴史があるということを探りながら、コンセプトを紡ぎ出します。歴史ある建物や物語性が多い展覧会は、ストーリーテリングに特化しますし、街の照明であればコミュニティ作りに注力することもあるでしょう。
ブランドであれば、そのブランドイメージを各国共通で展開することがミッションです。手がける媒体、一つ一つの異なるプロジェクトに合わせて、最適解を光で見つける作業です」

石井さんが営む事務所では、常に40件ほどのプロジェクトが世界各地で同時進行しているという。今後携わってみたいプロジェクトを聞いてみた。
「光が空間を定義する素材になって、光だけで成立する空間みたいなものを作ってみたいです。または砂漠の遺跡みたいなものを照らして、そこに人々が集まるということをしてみたいです。そこへ行くために、その場所で採れたヤシの木のオイルランプのような、その土地ならではのものも取り入れます。ツアーガイドさんや宿泊施設など、いろいろなものが光で活性化され、コミュニティが作られるような、ロマンスのあるプロジェクトをやってみたいです」


そんな石井さんにとって光とは何か。
「都市に暮らしていると、スイッチを押せば光はつくし、街は光であふれています。あって当然と思われがちなんですが、空気と同じでなくなったら大変なことになります。
おいしい空気を吸いに山に行ったりすると、皆さん気持ちが良くなるじゃないですか。それと同じように、いい光を作ることによって、心も生活も豊かになります。そのお手伝いをしているという感じですかね」
今もどこかで、石井さんによって作り出された光が、人々の営みを照らしている。
ヘッダーキャプション:「クリスチャン・ディオール 先見的デザイナー」展の様子。©I.C.O.N.
Text by 守隨 亨延







