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針と糸が紡ぐミニチュアの世界 ─ マイクロクロシェ作家と世界最小の日本製かぎ針の出会い

2025.01.25
SNSで話題を呼んだマイクロクロシェ作家、ルチア・ドルゴポロヴァ(Lucia Dolgopolova)をご存知だろうか。
クロシェとは、フランス語「crochet(かぎ針・かぎ針編み)」に由来する伝統的な編み物技法で、専用のかぎ針を用いて創作される。そんなクロシェを使い、5mm以下の編み物を紡いでいるのが彼女である。
彼女の作品は、わずか1.5mmのアヒルや、マッチの先に乗るフクロウなど、小さな世界に大きな楽しさと驚きをもたらしている。興味深いことに、実は日本製のかぎ針を使い、日本の歴史や書物からも着想を得ているという。
そんな彼女に作家としての目覚めから作品に込める想い、今後の展望について伺った。

PROFILE

ルチア・ドルゴポロヴァ(Lucia Dolgopolova)

マイクロクロシェ作家

芸術家の両親を影響を受け、クロシェ作家の道へ

ルチアが日本製のかぎ針に出会ったのは約10年前のこと。芸術家の両親のもとに生まれ、幼少期から芸術や工芸に関心を寄せ、音楽にも親しみを持ちチェロを長く学んできた。
その中で特に夢中になったのが、母が教えてくれた編み物だったという。
「編み物は幼い頃からの趣味でした。洋服を編んだり、アクセサリーをデザインしたりするのが大好きで、自分で編んだテディベアやミニチュアのかぎ針編みのおもちゃは、私にとってまるで妖精のような存在でした。一緒に遊び、想像の世界を広げていったのです。
かぎ針編みと編み物は、私の人生そのものといえます。独自の編み方を開拓するようになってからは、新しいものを創造するアーティストになりたいという夢を抱くようになりました。その方向へ一歩を踏み出した瞬間は、今でも鮮明に覚えています」
大学では言語学と経済学の修士号を取得。職業の選択肢はいくつかあったが、彼女は自分の心に従ってクロシェ作家としての道を歩み始めた。
通常サイズのかぎ針編みの洋服や毛布、アクセサリーをデザインして、オンライン販売するところからスタート。過去に作った一番大きな作品は、50cmのテディベアと毛布で、1.5cmや3cmの小さめの人形を作ることもあるが、現在の活動の中心は5mm以下のマイクロサイズである。
「マイクロクロシェ作品は、一つの実験から始まりました。もっと小さなかぎ針を使ったらどうなるか、縫い糸を使ったらどうなるか、と考え、すぐに試してみたのです。そして、その過程で日本生まれの世界最小のかぎ針と出会いました」
彼女は目を輝かせながらこう続けた。
「マイクロクロシェに欠かせない0.35mmのかぎ針を作ったのは、日本人なのです。座ってかぎ針編みをするたびに、この信じられないほど小さなかぎ針を作った方々への感謝の気持ちが湧いてきます。
もし日本人によってこのかぎ針が作られていなかったら、私のマイクロ作品は存在していなかったでしょう」

ミニチュアの世界に投影する創造的なストーリー

マイクロクロシェ作品をSNSに投稿し始めると、予想を超える反響があった。
「人々は信じられないほど小さなものを見るのが大好きなようで、とてもうれしいです。私の作品は作るのが不可能に思えるくらいミニチュアなので、ある意味ナンセンスに思えるからこそ、人々は私の作品を高く評価してくれるのだと思います」
人々を惹きつけるのは、そのミニチュアサイズの繊細さだけではない。彼女が生み出す作品には、一つ一つにストーリーが息づいているのだ。愛らしい表情を浮かべる動物たち、今にも音色が聞こえてきそうな躍動感あふれるチェロ奏者、キャラクター同士の温かな会話。そしてその先に広がるエンディング。それぞれの作品が、見る者の想像力を優しく刺激する物語を紡いでいる。
「私の作品には必ずストーリーが込められています」と彼女は語る。
チェロ奏者でもある彼女の着想源は多岐にわたる。動物や木々、山々といった自然の風景、人生の物語、そして音楽からもインスピレーションを得るという。また、読書と執筆を愛好する彼女は、作品制作の前にストーリーを書き留めることもある。
「たとえば、ある夜の夢がきっかけで生まれた作品があります。咲き誇る桜の木の下に、一人の侍が佇んでいました。
侍は少し頭をこちらに向け、何も恐れていないかのように凛として立っていたのです。風が吹き抜けるなか、船を待つ侍の姿。その一瞬を切り取り、マイクロクロシェ作品として表現しました」
一方、非常に小さな黄色いアヒルの子の背景には、別のストーリーが存在する。それは、生と死の間にあるストーリーだとルチアは話す。
「アヒルの子はとても小さく、わずか1.5mmで、おそらく世界最小です。小さすぎて、まるで存在していないかのようですが、よく見ると目があり、頭の形もわかります。若いアヒルであると同時に、一瞬の動きで台無しにしてしまうほど壊れやすいのです」
ルチアはSNSを通じて、次々と湧き上がるアイディアを発信し続けている。彼女の創作プロセスには、驚くべき特徴がある。アイディアが浮かんだ瞬間に、編み方の全工程が頭の中で完成するのだ。
形やサイズに応じた編み目の数も、その豊富な経験と類まれな才能により、瞬時に計算できるという。驚くべきことに、スケッチも拡大鏡も使用せず、5mm以下の作品でさえ、わずか2〜3時間で仕上げてしまうのである。
そのプロセスについて彼女は、「平和で、終わりがなく、無限の創造力」と表現する。
「私の創作は、バランスを大切にした世界観の表現です。次々と湧き上がるアイディアを信じ、それを形にしていきます。『なぜこれほど小さな作品を作るのか』と不思議に思う方もいらっしゃるでしょう。
一方で、作品に込められた感情に共感してくださる方もいます。もちろん、私の作品を好まない方もいますが、それもまた一つの感情表現として受け止めています」

果てしなく広がる、ミニチュアの物語世界

これまで数々の展覧会で作品を発表してきたルチアだが、作家としての最終目標は特に定めていないという。
「人生は日々続いていくもの。インスピレーションを感じ、アイディアが浮かび、それを形にする。そして、また次のアイディアが生まれるのを待つ。2025年は、私の中で温めているいくつかのストーリーをマイクロクロシェで表現していきたいと考えています。
創作に終わりはなく、どんなアイディアが芽生えるか予測することもできません。ですが、閃きが訪れたらそれを大切に受け止め、作品として皆様にお届けしていきたいと思います」
繊細な日本製のかぎ針と糸を操る巧みな指先から生まれる、ルチアのミニチュアの世界。その豊かな創造性は、私たちの想像力をますます刺激してくれることだろう。

Text by ELIE INOUE

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