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アーティスト兼ファッションデザイナー:異色のキャリアを歩む雪下まゆが描く「上品な棘」

2025.02.14
写実的でありつつ、どこかダークな雰囲気を持つイラストで知られるアーティスト・雪下まゆさん。2020年にはファッションブランド「Esth.(エスター)」を立ち上げ、デザイナーとしての活動もスタート。ブランド活動は一時的に休止していたものの、2025年に再始動する予定だという。彼女は、イラストとファッションの領域でどのような世界を描くつもりなのか。その胸の内に迫った。

PROFILE

雪下 まゆ(ゆきした まゆ)

アーティスト/ファッションデザイナー
1995年12月6日生まれ、多摩美術大学デザイン卒。写実的でありながら、個性的なデフォルメとラフなタッチを残した個性的な画風で人気を集める作家。装画・音楽業界などからの注目も高く、タイアップ作品も多く手掛ける。
これまでに、2022年本屋大賞受賞作品「同志少女よ、敵を撃て」本屋大賞候補作品「6人の嘘つきな大学生」、東京モード学園TVCM、SUMMERSONIC2022オフィシャルグッズ、
TOKYO CREATIVE SALON (東急電鉄)、といった広告・装丁などその活動は多岐に渡る。
又、2020年に立ち上げたファッションブランド「Esth.」のデザイナーを務める。

活動の原点は「模写」

はじめに、イラストを描き始めたきっかけを教えてください。
明確なきっかけはなく、物心ついたときから絵が好きで、小学生の頃には将来は絵を描く仕事をしたいな、と漠然と考えていました。
最初は動物の図鑑などを見ながら模写していたのですが、小学生から中学生の頃に、漫画家の田島昭宇さんの作品に影響を受け、漫画の模写もするようになって。もともと好きだった写実的な絵を、漫画のように少ない線で描く、といったことを始めました。
大学に進学してからはグラフィックデザインを専攻しながら、独学でデッサンや油絵を学びました。その頃から、漫画の2次元的な要素と油絵の写実的な要素が入っている作品を作るようになっていきました。
イラストレーターとして本格的に活動を始めたのはいつ頃のことなのでしょうか?
大学1年生くらいからイラストをSNSで発信し始めたところ、作品を見てくださる方が徐々に増えていき、2年生になった頃からだんだんとお仕事がもらえるようになっていきました。一時期は就職も考えたのですが、結果的には大学卒業後すぐにフリーランスのイラストレーターとして活動するようになり、今に至っています。
活動当初から現在のような作風だったのでしょうか?
SNSで発信を始めた当初は、パステル調のかわいい感じの作風でしたね。そこから仕事をいただくなかで、自分に求められるものの解像度が上がっていきました。特にクリープハイプさんのアルバム『泣きたくなるほど嬉しい日々に』のトレイラー映像の仕事は、自分の中でも何かがハマった気がしていて、今の作風に繋がるきっかけになったように思います。
クリープハイプ『泣きたくなるほど嬉しい日々に』トレイラー画像

誰もが抱えているコンプレックスを隠すための服

イラストの分野で活動の幅を広げるなか、2020年にはファッションブランド「Esth.(エスター)」を立ち上げていますが、何かきっかけがあったのでしょうか?
大学の卒業制作で、油絵をシルクスクリーンでプリントした洋服を作ったことが始まりでした。当時はあくまで作品として作ったのですが、展示を見た洋服やものづくりの生産管理をしている友人から「一緒にブランドをやらないか」と誘っていただいたんです。
大学入学時からファッションには興味があり、特に「HELIOT EMIL(エリオット エミル)」や「alexanderwang(アレキサンダーワン)」といったブランドが好きだったのですが、まさか自分がファッションブランドを手がけることになるとは思ってもみなかったですね。
ブランド初のコレクションとなる2020SS
「エスター」のブランドコンセプトを教えてください。
ブランド名はホラー映画の『エスター』から付けています。映画内に登場する女の子・エスターは、大きなコンプレックスを内に秘めているのですが、それを隠すようにまとう服は上品で鋭く、どこかかわいらしさがある。そのスタイルやムードが素敵だなと思い、ブランド名に決めました。
人によって内容は違えど、コンプレックスは誰もが抱えているものだと思っています。イラストでも私の作品を見た人がそこに共感して、安心してくれればいいな、と思いながら私自身のコンプレックスを描いているんです。「エスター」では、そうしたみんなが持っているコンプレックスを隠すための“上品な棘”になるような服を作れるといいなと思っています。
"The Mental World and Anonymity"をテーマに置いた2023SSコレクション
デザインを考える際、どのようなところからインスピレーションを受けているのでしょうか?
音楽や映画がメインです。音楽では、クラブイベントなどに来ているお客さんのファッションや、好きなアーティストのMVで使われている衣装から着想を得ることが多いです。特にレイブミュージックグループであるダイ・アントワードのヨーランディのファッションは「エスター」のコンセプトに近い印象があり、バランス感などを参考にしています。
映画では、色合いの観点でブランドのルック撮影やイラストを描く際に参考にすることが多いです。特にデヴィッド・リンチ監督の作品が持つ、紫っぽい色調や緑のフィルムっぽい色調からくる、悪夢的な世界観は高校生の頃からすごく好きで、影響を受けていますね。

「エスター」が広げた表現の世界

イラストの世界で活動していた経験が、ファッションデザインに生きたことはありますか?
写実的なイラストを描いていることもあってか、デザイン画の時点で縫い目などの細かい部分まで描くので、具体的でイメージしやすいとパタンナーさんに褒めていただくことがあります。ただ、裏を返すと具体的過ぎて幅が広がりづらいという見方もできるので、今後はデザイン画を抽象的に描くことを試してみてもいいかもしれないな、とも思っています。
雪下さんのデザイン画。初期のラフながら、詳細にイメージが記載されている
反対に、ファッションデザイナーとしての経験が、イラストにも影響を与えたことはありますか?
新しい表現の方法が見つけられたような気がしています。特にルック撮影で、スタイリストやカメラマンといったプロの方々から学ぶことはとても多いです。
また、ブランドをスタートしてから、私自身の考え方も変わりました。イラストの世界でフリーランスになった当初は、自分には絵しかない、と思っていたのですが、それが自分で自分の首を絞めているような苦しい感覚を覚え始めていました。
そんななかで、ファッションブランドという絵以外での表現を始めたことで、世界が広がった気がしたんです。今ではDJに挑戦してみるなど、興味を持ったことはなんでも取り組んでみようと思っています。それが結果的にイラストにもいい影響を与えてくれる感覚もあります。
「エスター」は2025年から再スタートする予定かと思いますが、新たにやってみたいことはありますか?
2年ほど活動をストップしていたなかで、考え方も変わってきているので、表現はこれまでとは少し違うテイストにしたいですね。具体的には、活動初期は尖った印象のデザインが多かったのですが、今年スタートするコレクションはもう少し大人な雰囲気にしていくつもりです。
現在は3月の個展に向けて準備をしている最中ですが、その後「Esth.」のデザインの詳細を詰めて、できる限り早い段階で発表できたらと考えています。ゆくゆくは「もっと自分を表現したい」と考えている人たちに着てもらえるとうれしいですね。

雪下さんは、自身の今後について「今後の目標を設定しても、良くも悪くも思い通りに進むことはほとんどありませんでした。だからこそ、目の前のことに全力を尽くしたいし、それが結果的に未来に繋がっていくんだと思います」と語った。自分の未来をあえて決め込み過ぎず、関心を持った領域へと積極的に活動の幅を広げていく彼女は、これからも自分自身の成長を楽しみながら活躍していくのだろう。

■個展情報
会場:銀座 蔦屋書店 FOAM CONTEMPORARY   
住所:〒104-0061 東京都中央区銀座6-10-1 GINZASIX 6F銀座蔦屋書店 FOAM CONTEMPORARY  
会期:2025年3月8日(土)~2025年4月2日(水)  
営業時間:11:00~19:00
定休⽇:⽉曜⽇

グッズ展開会場:GINZA ART SQUARE  
住所:〒104-0061 東京都中央区銀座6-10-1 GINZASIX 6F銀座蔦屋書店 GINZA ART SQUARE
会期:2025年3月8日(土)~2025年3月22日(土)  
営業時間:10:30〜21:00
定休⽇:会期中無休

入場:ともに無料                                                                               
主催:ともに銀座 蔦屋書店

Text by 石塚 振

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