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未来の買い物をいま体験する Apple Vision Proが可能にした「Spatial Commerce」開発の舞台裏【前編】

2025.07.23
2024年に始まった新たなショッピング体験の創造プロジェクト。その第二弾として、ファッションブランド「meanswhile」とタッグを組み、Apple社のApple Vision Pro上で、ユーザーが自由に服をスタイリングし、遠隔で接客まで受けられるという画期的なアプリケーションが開発された。
前例のない挑戦の裏側には、どのような困難と発見があったのか。企画・開発を担当したプロジェクトチームに詳しくお話を聞いた。
左から玉村 雄大、Pablo Trabajos、伴 潤、池上 夕貴

PROFILE

玉村 雄大(たまむら ゆうだい)

IT系メガベンチャーにてゲーム関連の映像制作や3DCG分野の業務に従事したあと、2020年に株式会社ZOZOテクノロジーズ(現:株式会社ZOZO NEXT)に入社。2023年5月より現職。XR/AI部にて主にデジタルファッション領域のプロジェクトを推進。

PROFILE

Pablo Trabajos(パブロ トラバホス)

ソフトウェアエンジニア。2022年に入社し、XRプロジェクトに従事。当プロジェクトでは、動画配信とリモートコントロールを活用したカスタマーサービス機能の開発、UX開発を担当。以前はウェブフロントエンドとiOSアプリの開発に従事。

PROFILE

伴 潤(ばん じゅん)

株式会社ZOZOにて、iOS領域に専門性をもつテックリードとしてZOZOTOWN iOSアプリの開発をリード。その後株式会社ZOZO NEXTのSkeuomorphic Engineeringチームにて、現実の質感をソフトウェア領域に持ち込むことを目指しつつ、visionOSアプリの開発に従事。

PROFILE

池上 夕貴(いけがみ ゆうき)

アパレルブランドにて企画やパタンナーを経験後、2020年に株式会社ZOZOテクノロジーズ(現:株式会社ZOZO NEXT)に入社。XR/AI部にてデジタルファッションやXR領域を扱うプロジェクトのPMや3Dデータ制作を担当。

きっかけは前回の成功体験。さらなる体験拡張へ

まず、今回のプロジェクトが始動した経緯について教えてください。
玉村 この取り組みの第一弾は、2024年6月に始動しました。同年11月にはファッションブランドのANREALAGEとともに、未来のショッピング体験としてVision Proアプリを開発し、一般のお客様向けに、同ブランドの新作コレクションの受注イベントという形で体験していただきました。そこで得られたポジティブな反応を通じて、Spatial Commerce(空間コマース)という領域に新たな可能性を見いだすことができました。
前回は一つの商品を3Dでじっくり見る体験が中心でしたが、今回はその第二弾として、そこから一歩進み、新たな機能を加えることで体験を拡張しよう、というのがプロジェクト開始の経緯です。
具体的にはどのような体験が拡張されたのでしょうか。
玉村 今回はユーザーがより能動的に操作ができる「スタイリング機能」を追加しました。コラボレーションした「meanswhile」の25A/Wアイテムを使い、ユーザー自身が自由にコーディネートを作れる機能です。これにより、個々の商品を吟味するだけでなく、全体のコーディネートを試しながら購入を検討できるという利便性と、自分で作るという創作的な楽しみが加わったと考えています。
接客画面
池上 もう一つの大きな新機能が「接客機能」です。前回は、ユーザーがVision Proで見ている画面をスタッフが隣で確認することはできましたが、今回はスタッフがiPad上で操作した内容を、ユーザーが見ているVision Proの画面上に表示できるようにしました。これにより、スタッフがユーザーに合わせてその場でスタイリングを組み、それをVision Pro内に反映してコーディネート提案を行うといった、より質の高いインタラクションが可能になりました。

前例なき、開発現場のリアルな挑戦

企画内容を最初に聞いた時、開発者としてはどのように感じましたか。
Pablo 大変ですが、乗り越える価値のある挑戦だと思いました。スタッフがiPadを使ってVision Proをリモート操作するというアイデアは、企画の初期段階で聞いていましたが、最初の印象は「Vision Proでそんなことはやったことがない!」でした。長年のエンジニア経験のなかでも類似のプロジェクトはなかったので、未知の要素が非常に多いと感じました。
最も困難だった技術的課題はどの部分でしたか。
Pablo 私が担当したiPadとVision Proの連携、まさにiPadの操作をVision Proに反映させる部分が最も困難でした。適切な技術の検証・選定から始まり、Apple社が提供するエンタープライズAPIとその拡張機能の使い方を理解する過程では、度重なる検証が必要で本当に大変でした。
例えば、拡張機能の実行には重い負荷がかかる一方、メモリには厳格な制限があり、コードが約50MBを超えるとクラッシュしてしまいます。そうした制約のなかで動画エンコードのような重い処理とのバランスを保つのにとても苦労しました。
ただ、この機能の成否に、アプリの目玉の一つである「接客機能」の実現が懸かっていたので、「これはできない」とは言いたくなくて。検証と最適化には多くの時間を費やしました。

3D空間特有の壁、試行錯誤で探る最適なバランス

スタイリング一覧(スタッフがおすすめするスタイリングが表示)
Vision Pro内の機能開発を主に担当された伴さんはいかがでしたか。
伴 今回、一つ一つが明確な課題というよりは、3D開発における、より本質的な課題に直面しました。それは、3DオブジェクトをMacの画面上で設計し、Vision Proで表示できると分かっていても、実際に実機で見てみると想像と違う、ということが頻繁に起きる点です。
色味の印象もそうですし、大きさや距離感も、実機で試さないと分からないことが本当に多い。そのズレを修正する際に、手元の数値を少し変えるだけで済むのか、モデル自体を作り直す必要があるのか、その判断が難しかったです。どこまで遡って何を修正すべきかという試行錯誤のループは、今回のプロジェクトでもかなり大きなものとなり、大変だったと感じています。
過去のプロジェクトで培った知見が活かされた場面はありましたか。
伴 以前、個人的な実験や「Ambient Weaving Ⅱ」のVision Proアプリをリリースしたプロジェクトでテキスタイルのシミュレーションなどを内部的にテスト実装した経験が役立ちました。そのおかげで、パフォーマンスを維持しながら色やテクスチャを変化させるあたりの実装の勘所が分かっており、素早く適用できたと思います。
また、一度Vision Proのアプリ開発を経験していたことで、何ができて何ができないかの見極めがついていたのは大きかったです。これにより、最初から実現不可能なアイディアに時間を費やす無駄を省き、開発に集中できたと思います。
オープニング空間
ユーザー体験を最大化するために、実装で工夫したことは何でしょう。
伴 特定の機能というよりは、全体的なバランス感を整えることをかなり意識しました。例えば、ユーザーがVision Proを装着してからアプリの体験に至るまで、シーンの切り替わるアニメーションの速度や動きが心地よいと感じられるように、実際に何度も体験しながら調整しました。
また、Vision Proは制約が少ない分、どんなインタラクションでも設計できます。しかし、将来的に多くの人が使うことを見据え、あまりに独自すぎる操作方法は採用せず、誰もが直感的に使える標準的な操作性の範囲に抑えることを意識しました。

単なるアプリを超え、MRとVRを繋ぐ一貫した体験設計

ショッピング画面
このアプリは、他のデバイスのアプリと何が決定的に違うのでしょうか。
伴 一つのアプリのなかで、現実空間に情報を重ねるMR(複合現実)の状態から、だんだんとVR(仮想現実)への没入度を高めてショッピング体験ができる。この一連の流れを一気通貫で提供できる点は、やはりVision Proだからこそ実現できたことだと考えています。前回は完全にバーチャルな空間でしたが、今回はMRとVR両方の体験が含まれており、デバイスの特性を最大限に活かせているのではないでしょうか。
このプロジェクトを通じて、Spatial Commerceにどのような可能性を感じていますか。
Pablo このアプリ体験が、スタッフとお客様の双方にとって有益なものになることを願っています。今回の接客機能によって、ブランドの表現力も向上することを期待しています。そして将来的には、この機能が改善・導入されていくことで小売業界が抱える人手不足の問題に対しても、業界全体の負担軽減に貢献できるかもしれません。
伴 開発者としては、今回最終的に採用しなかった技術も実験段階ではいくつも作っているので、それらを将来的に実装していくチャレンジができたら面白いですね。体験としては、実物を見ずに購入するというECが持つ大きな課題に対し、このVision Proでの体験は、現時点で可能ななかでは非常に優れたソリューションの一つだと考えています。これが将来、自宅で誰もができるようになれば面白いですが、まずは体験会や実店舗でこの価値に触れる人が増えていくことを期待しています。
最後に、開発者として今後挑戦してみたい技術やテーマを教えてください。
Pablo 今後はXcode以外の言語や技術、例えばUnrealエンジンのような、より豊かな視覚表現が可能なものを活用してみたいです。また、バーチャルな体験と物理的な空間を連携させることにも興味があります。例えば、アプリ内の操作が現実の照明を変化させたり、香りを噴射したり、あるいは二次元バーコードなどで物理的な生地サンプルとアプリ内の製品を同期させるといった体験です。
伴 私達が扱うファッションというテーマでいえば、まだ布自体の動きといった表現は加えられる余地があると思っており、そうした物理シミュレーションを動かせたらもっと楽しいだろうなと考えています。また、バーチャルならではの体験として、膨大な商品から効率的に一つを見つけ出すための新しいインターフェースや、選んだ商品をより深く掘り下げて楽しめるような、現実にはできないことをもっと追求していきたいですね。
この新しい技術と体験の片鱗に触れられる機会として、2025年7月25日(金)から30日(水)まで、下北沢の( tefu )loungeで体験会が開催されます。
今回のインタビューで語られたプロジェクトチームの挑戦によって完成した未来のショッピング体験を、是非機会にご体感ください。

<イベント概要>

ZOZO NEXT "THE SPATIAL STORE" Experience the Future of Shopping with meanswhile

期間 :2025年7月25日(金)~30日(水)

 -7月25日(金) 13:00~20:00(19:00最終受付)

 -7月26日(土)~7月29日(火) 11:00~20:00(19:00最終受付)

 -7月30日(水) 11:00~17:00(16:00最終受付)

場所 :( tefu )lounge shimokitazawa(〒155-0031 東京都世田谷区北沢2-21-22)

申し込みページURL :https://zozonext.com/project/the-spatial-store 

後編は、空間デザインや3D商品モデル制作・開発を支えたプロジェクトチームにお話を伺い、未来のショッピング体験の魅力とその裏側に迫ります。

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