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伝統工芸と最新技術の融合:ZOZO NEXTのテキスタイルチームが語る「Path in Trace - 轍 -」展の舞台裏

2025.09.11
スタイリスト三田真一氏がキュレーションを手がける展覧会「Path in Trace - 轍 -」が、今年4月にラフォーレミュージアム原宿で開催された。
本展は「もし、江戸時代に人類が宇宙に到達していたら」という壮大な仮説を起点に、伝統工芸と現代テクノロジーを融合させ、「纏うとは何か?」という根源的な問いを探求するプロジェクトだ。2023年に福岡・太宰府天満宮で開催された「in - Spire - 呼吸」の続編として、時空や生命といったテーマをさらに深く掘り下げる。
今回、ひときわ異彩を放つ作品を出展したZOZO NEXTのテキスタイルチームに取材を実施。作品たちの誕生秘話や、制作の裏側に迫る。

PROFILE

中丸 啓(なかまる さとし)

2019年、株式会社ZOZOテクノロジーズ(現・株式会社ZOZO NEXT)入社。新規技術開発とその事業化を担うMATRIX本部 IoT/Textile部にてディレクターを務める。柔らかな機能性素材やデバイスの開発とそれらを活用したインタラクション・UX設計を専門とする。ACM DIS 2019 Best Paper, Ars Electronica Festival Starts Prize Honorary mention などを受賞。

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川田 雅輝(かわた まさき)

2024年、株式会社ZOZO NEXT 入社。IoT/Textile部にてテキスタイル作品の実装などを主に担当。製造工程、化学分析、研究開発、品質保証、リチウムイオンバッテリー、デジタルカメラといった多彩な経験と引き出しの多さを活かして独創的な作品に挑戦する。またフリーランスカメラマン・写真家としても知られる。

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彭 梓涵(ほう しかん)

2024年、株式会社ZOZO NEXTに入社。IoT/Textile部にて、作品プロトタイプのデザインおよび製作に従事。専門はプロダクトデザイン。

PROFILE

宮崎 良兼(みやざき りょうけん)

2019年、株式会社ZOZOテクノロジーズ(現・株式会社ZOZO NEXT)入社。アパレル製品の自動生産や物流倉庫向け装置などの自動化技術の研究開発に従事。IoT/Textile部ではロボット工学関連技術によるテキスタイルの機能拡張を推進。専門は流体制御およびロボティクス。

三田真一氏との協業と出展経緯

まず、今回の展示に参加することになった背景と経緯についてお聞かせください。
中丸三田真一さんとは、ZOZO NEXTの新規テキスタイル素材の研究開発活動の中で出会いました。我々が素材を服にしていく次のステップを模索していたところ、衣装設計や衣服の魅力的な表現に強い三田さんに関心を持ち、こちらからアドバイザリー契約をお願いしたのが始まりです。
「変形する衣服」というテーマを扱っていましたが、すぐに服にするには駆動装置などのパーツが多くハードルが高いという課題がありました。そんななか、三田さんの個展が開催される機会をご紹介いただき、作品に参加させていただくことになりました。
今回の展示の「江戸時代に宇宙へ」というテーマに対し、どのようにアプローチしたのですか。
中丸はじめに三田さんから前作「in - Spire - 呼吸」から続く世界観を共有いただき、具体的な仕様ではなく「宇宙」というキーワードを頂戴しました。それを元に、我々の技術やメンバーのアイデアを持ち寄り、「この技術が展示の世界観にはまりませんか」とプロトタイピングしながら提案していきました。

生き物のように鼓動するオブジェ『納簡』

まずは『納簡(のうかん)』についてお聞きします。空間に浮かぶ和紙のオブジェが独自のリズムで鼓動するように形を変え続ける様子は、非常に印象的でした。この作品が生まれた背景を教えていただけますか。
中丸もともと「服の形状や剛性などが大きく変わるもの」というアイデアから始まりました。たとえばロングスカートがミニスカートになるような、視覚的にも機能的にも大きな変化を持つものです。
Perfumeなどのアーティスト衣装を手がける三田さんの視点も踏まえ、演者が着用することを考え、安全で軽量な空気圧で動かす方式を採用しました。
そこで、我々ZOZO NEXTと、デザインスタジオのnomena、そして素材を提供してくださった名尾手すき和紙と共同で制作を進めることになりました。
素材として和紙を選ばれたのは、どのような経緯だったのでしょうか。
中丸当初は布での変形を試みていたのですが、より大きな伸縮変化を生み出すためには、折り紙の構造を応用する必要がありました。そこで注目したのが「ミウラ折り」です。
中丸これは宇宙工学者の三浦公亮氏が考案したもので、人工衛星の太陽光パネルをコンパクトに収納し、宇宙空間で一気に展開する際にも活用されている技術です。一方向の力で瞬時に大きく広げたり、逆に小さく折りたたんだりできるのが特徴で、我々が目指すダイナミックな変形に最適でした。
この構造を活かすために紙という素材に行き着き、最終的に耐久性に優れる和紙を選びました 。三田さんにご紹介いただいた、佐賀県の名尾手すき和紙と連携し、今回のための素材を相談しながら進めていったのです。
実は、今回使った和紙には蓄光材料を混ぜ込んでもらっています。展示空間のライトが消えると、蓄光和紙がほのかな青紫色に発光し、宇宙の神秘的な一面を表現する仕掛けになっていました。
あの生命感のある動きは、内部の「空気圧型人工筋肉」によるものだと伺いました。具体的にはどのような仕組みなのでしょうか。
宮崎「空気圧型人工筋肉」とは、空気の出し入れを利用して、人間の筋肉のようにしなやかに収縮するソフトアクチュエータです。
『納簡』では、外側の折り紙と同じ構造で作ったチューブ状の人工筋肉を、円筒の内側に12本配置しています。どのチューブを収縮させるかを個別に制御することで、全体として複雑で有機的な形状変化を生み出しているんです。
内部チューブは12本。展示としては稀な多点制御で複雑な変形を実現した
たしかに、動作音は全く気になりませんでした。静音性にはかなり苦労されたのではないでしょうか。
宮崎一番の課題は、空気を出力する真空ポンプとコンプレッサーの騒音でした。掃除機を足元で回しているような大きな音がするため、美術館のような静かな環境では許容されません。
川田そこで、4つの装置(真空ポンプ3つとコンプレッサー1つ)を、内側に吸音材を張り巡らせた一つの大きな箱に収めて密閉しました。しかし本番1週間前の試運転で、密閉空間で装置がフル回転した結果、内部がものすごい熱を持ってしまったんです。
温度を測ってみると想定温度を超えていて、これは危ないと。大急ぎで小型のスポットクーラーと送風ファンを組み込んで冷却機構を作り、なんとか内部温度を70度くらいに抑えることができました。火事になったら洒落にならないぞと、あの時は背筋が凍りましたね(笑)。

「江戸人が見たブラックホール」を物語るランプ『宙灯』

続いて、彭さんがメインで担当された照明作品『宙灯(そらあかり)』についてお聞かせください。
彭この作品は、「江戸時代の宇宙飛行士が宇宙へ行く」というプロットから発想しました。
宇宙で太陽や月が“ただの石”だと知った飛行士が、不可解な天体「ブラックホール」を発見します。そこから地球に戻り、「ブラックホールという神のような天体がある」と伝えたことで、それが民衆の新たな信仰となり、その信仰に基づいて作られたものがこのランプ、というストーリーです。
造形や素材には、どのようなこだわりがあるのでしょうか。
彭これは和紙を伝統的な張り子の技法で成形したランプです 。円盤のような形は、ブラックホールの「事象の地平線」、つまり光さえも抜け出せなくなる境界線をイメージしています。
素材には、江戸時代という設定に合わせ、かつ天体の柔らかな雰囲気を表現できる和紙を選びました。実はこの和紙も、『納簡』と同じ蓄光材料を漉き込んだ特別なもので、明かりを消すと、それ自体が青紫色にほのかに光るようになっています。
この作品を通じて、和紙という素材に新たな可能性を感じることはありましたか。
彭それは強く感じました 。和紙は、粉末状の繊維を水中で漉いて層にして作ります。その制作過程で、繊維の間に何か別のものを入れることができるんです。

新たな表現を拓く『立体ニット素材』

「探宙」や「探宙装」に使われていた立体ニット素材についても、開発に携わっているとお聞きしました。どのような技術なのでしょうか?
探宙装
中丸これは、島精機製作所様が開発していた特殊な立体ニット素材です 。編みの構造の中の特定の部分にだけ収縮する糸を編み込むことで立体形状を形成し、スチーム処理を加えることで、硬化するという技術です。
立体生地には三田さんも興味があったのでご紹介し、今回「探宙」や「探宙装」として作品化していただきました。
どのようにして生まれた素材なのでしょうか。
中丸我々はユニークな素材が出てきた際には、三田さんにご紹介し、プロの視点からどう見えるかというご意見を伺うことがございます。
この素材は、別件の万博関連のプロジェクトで音響テキスタイル用にカスタムをしていこうと考えていたシーズ技術でした。今回はその立体的な表現性を三田さんが非常に面白いと評価してくださり、「別の作品に使ってみたい」とご相談いただいたのがきっかけです。
作品のコンセプト自体は三田さんと他の作家さんが作られており、我々はその中で「最終的にどういう素材で作るか」という一つのピースを、この立体ニットでご提供した、という経緯になります。
作品として完成したものを見て、いかがでしたか。
中丸布単体で見るのとは全く違う見え方がしました 。他の工芸品と融合することで、技術の新しい表現としても非常に魅力的でした。
素材を提供してくれた島精機製作所の方も見に来てくださり、「自分たちの素材がこうやって使われるんだ」と驚かれていたのが印象的でした。
我々が新しいことをしようとしている作り手と、新しい素材を持つ企業との間にうまく入ることで、業界全体にとって良い効果を生み出せるのではないかと感じています。
探宙
この素材は洋服などにも応用できそうで、今後の可能性を感じます。
中丸島精機製作所様も、この素材ができた後、使い道を模索されている状況でした。今回のような場でプレゼンテーションを続けることで、「この素材を使いたい」というデザイナーや企業様が現れるといいなと思っています。
我々も今後、様々なデザイナーさんとコラボレーションする際に、過去の実装例としてご紹介差し上げることで、彼らの想像力を刺激し、新たな用途が見つかるのではないかと期待しています。
伝統と技術の交差点に、新たな「轍」を刻んだZOZO NEXTのテキスタイルチーム。当初の「変形する衣服」というアイデアから始まり、本番直前のトラブルさえも乗り越えて生み出された作品群は、彼らの探求心そのものだ。
作り手と素材メーカーを繋ぎ、和紙やニットといった素材の可能性を拡張する彼らの挑戦は、「纏う」ことの概念をアップデートしていく。その先に広がる未知の領域に、これからも期待したい。

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