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Projects
“音を発する布”が大阪・関西万博で響いた ──ニットファブリックスピーカー『紋響』の開発記録
2025年7月14日(月)~20日(日)まで、大阪・関西万博の関西パビリオン京都ゾーンにて、ひとつのインスタレーション作品が出展された。
その名は「紋響(もんきょう)」。ZOZO NEXTとPoiesis Labs(ポイエーシス・ラボ)の共同開発による“ニットファブリックスピーカー”を使った作品は、布が生み出す立体的な音響によって来場者に没入体験を提供するという先鋭的なものだった。
展示が終了した今、注目を集めるのが“音を発するニット”のこれから。開発を手がけた中丸啓と佐々木伽耶人が想い描くニットファブリックスピーカーの未来とは?
PROFILE
中丸 啓(なかまる さとし)
2019年、株式会社ZOZOテクノロジーズ(現・株式会社ZOZO NEXT)入社。新規技術開発とその事業化を担うMATRIX HQ IoT/Textile Deptにてディレクターを務める。博士(政策・メディア)。柔らかな機能性素材やデバイスの開発とそれらを活用したインタラクション・UX設計を専門とする。スマートテキスタイルの研究開発や事業化に従事。ACM DIS 2019 Best Paper, Ars Electronica Festival Starts Prize Honorary mention などを受賞。
PROFILE
佐々木 伽耶人(ささき かやと)
制作会社での広告プロモーションを中心に体験型インスタレーションやインタラクティブコンテンツ、Web制作などのディレクション経験を経て、2022年に株式会社ZOZO NEXTに入社。スマートテキスタイルの研究開発や事業化を行うMATRIX HQ IoT/Textile Deptにて新規テキスタイルの開発やプロジェクトの進行補佐に従事。
紋響で使われたニットファブリックスピーカーは、どのようにして生まれたのでしょうか?
中丸ニットファブリックスピーカーは、ZOZO NEXTとPoiesis Labs(ポイエーシス・ラボ合同会社)による共同プロジェクトの一環として生まれました。
テキスタイルでどんな表現ができるかを探っていたとき、一枚の布が“静的な存在”から脱却し、“動的な体験”を創出できるものに進化させられないだろうか? というアイデアが浮かびました。音響機能と融合させることができれば、テキスタイルそのものが感覚に訴えかけるメディアとなります。
開発パートナーとなったPoiesis Labsとは、どのような活動をしている会社なのでしょうか?
中丸京都を本拠地とするPoiesis Labsは、テキスタイル設計や体験デザインに強みを持つ会社であり、ZOZO NEXTが持つ先端素材やデバイス開発技術との高い親和性がありました。協業により、素材からUX(ユーザー体験)までを一貫して設計できる体制が整いました。
紙一枚ほどの薄さで音を鳴らす布の中のフィルムの正体
そもそも、なぜ布が音を発するのでしょうか?
佐々木電圧を加えることで振動し、音を発する機能を持つ特殊なフィルムを組み込んでいるからです。
このフィルムは有機圧電フィルムという素材で、電気をかけると薄膜全体がわずかに歪むことで振動し、空気を押し出すことで音を発生させます。
有機圧電フィルムは、電圧を加えるとわずかに歪む特殊フィルム を厚み数十~数百µm(マイクロメートル)の薄いシート状にしたものです。その厚みは紙一枚分くらいです。
中丸 とにかく薄く、さらに柔らかいため、裁断してちょうどいい形状に仕立てることができます。さまざまな素材に組み込みやすく、布地にもスピーカー機能を持たせられます。
布地によって音は変わるのでしょうか?
佐々木私たちはさまざまな布地にこのフィルムを組み込みました。中でも印象的だったのは編み物、つまりニットが発する音でした。
ニットに組み込むことで、編地特有の立体感や凹凸が音の広がり方や指向性に影響し、空間全体での音の響き方が変化することがわかりました。これは表面がフラットな織物の布帛とは異なる特性でした。
中丸ベースとなるニットの生産は、コンピュータ横編機の技術を持つ和歌山県の株式会社島精機製作所に依頼しました。
大阪・関西万博にインスタレーション作品を出展
大阪・関西万博に出展することになったきっかけを教えてください。
中丸 開発パートナーであるPoiesis Labsさんにお誘いいただいて、出展することになりました。ニットファブリックスピーカーを知ってもらうのに、未来社会の実験場というコンセプトを掲げる万博は格好の舞台でした。
大阪・関西万博にインスタレーション作品を出展
大阪・関西万博に出展することになったきっかけを教えてください。
中丸開発パートナーであるPoiesis Labsさんにお誘いいただいて、出展することになりました。ニットファブリックスピーカーを知ってもらうのに、未来社会の実験場というコンセプトを掲げる万博は格好の舞台でした。

それが紋響というインスタレーション作品ですね。
佐々木はい。タイトル名は、“紋様”と“音響”を組み合わせた造語に由来します。
紋響に足を踏み入れると、和柄のニットファブリックスピーカーから、波紋のように広がる音が体験者を包み込みます。空間には伝統的な和柄の布壁や水流をモチーフにした布のオブジェが配され、音が流れるように水盤に滴り落ちていく──そんな非日常の没入感が味わえます。
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和柄を選んだ理由を教えてください。
中丸Poiesis Labsさんが京都の企業ということもあって、展示場所は関西パビリオン京都ゾーンになりました。和柄を選んだ理由もこの地の文化と関係があります。また、展示空間は“禅”の世界観をベースに設計し、静寂と響きを感じながら自己や環境と対話するような空間を目指しました。
佐々木布から発せられる音に包まれることで喧騒から離れ、自己の内側や外界と静かに向き合う──そんな体験は“禅”にも通じるものがあります。
構成の特徴を教えてください。
佐々木インスタレーションは2つの「間」によって構成されています。
「京紋の間」は複数のテキスタイルによってさまざまな音響を体感できる空間で、七宝や井筒割菱、麻の葉などの和の伝統柄のニットが壁面を彩ります。
これは島精機製作所の特殊なコンピュータ横編機で伸縮性のある糸を編み込むことで、繊細な和柄を立体的に表現したニット素材です。ニットの裏面に圧電フィルムを貼付けているため、柔らかなテキスタイルでありながらスピーカーとして機能します。柄の形状によって振動方向が変わるため、一枚ごとに異なる音響特性を生み出します。

一方の「水紋の間」は、透け感のあるニットファブリックスピーカーで水流を表現された空間です。
青海波のパターンをあしらったパンチレースニットをくぐると、水流をモチーフとした透け感のあるテキスタイルが現れます。水のかわりに音が滴り落ち、水盤の中の実際の水面上に波紋が作り出されます。
このテキスタイルは透け感のあるニットの内部に透明な圧電フィルムを組み込んだもので、光を通しつつ、空間に音を重畳させることができました。
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作品のコアとなる音のこだわりを教えてください。
佐々木独自の自動演奏プログラムによって常に音を生成し続け、さらに個別のチャンネルに独立制御することで、空間ごとに精緻な音環境を設計しました。
京紋の間では、音響特性の異なる8チャンネルのテキスタイルがプログラム制御され、それぞれが独立した響きを奏でることで、空間全体との共鳴を生み出しました。
水紋の間では、24チャンネルのフィルムスピーカーを個別に制御することで水の滴り落ちる音と感覚を表現し、かつ水面に広がる波紋と同期させることで、視覚と聴覚が溶け合う没入体験を創出しました。
開発のキーマンが語る、ニットファブリックスピーカーのこれから
紋響の評判はどうでしたか?
中丸音が布から出てくるという体験に驚いたという声が多かったです。あちこちの布から音が出るので、お子さんたちも驚き、楽しんでもらえたようです。
では、ニットファブリックスピーカーは将来的にどのように活用されていくのでしょうか?
中丸イメージが浮かびやすいのは、インスタレーション作品やホテルやオフィスなどの空間への応用でしょう。ただ、美術やファッション以外のジャンルにも幅広く活用できると思います。
たとえば、カーテンや家具カバー、壁材などに組み込むことで、臨場感のある音響を実現できます。また、騒音を打ち消すノイズキャンセリングの機能も期待できそうです。薄くて軽く、空間に溶け込みやすいため、室内デザインとの融合も容易です。
佐々木病院やホテルの壁面を音の演出装置として活用することも可能です。駅の案内装置に組み込めば、視覚に頼らないガイドも実現でき、福祉の分野でも役立つでしょう。さらに、布をひねったり動かしたりすることで音響特性が変化するため、より直感的に音と触れ合える楽器や装置としての可能性も広がります。
現在も研究が続けられ、アップデートされているとのことですが、今後の目標を教えてください。
佐々木汎用性を高めるために、制御機器のさらなる小型化を進めています。同時に、フィルムの耐久性や音質の向上、低コスト化、電源供給の効率化にも取り組んでいます。
中丸インスタレーション作品から、プロダクト、店舗、サービスまで、アイデア次第で幅広い用途に活用できるテクノロジーであると自負しています。ご興味を持っていただけたら、お声掛けいただきたいと思います。
音を発する布地という未踏の領域に挑んだニットファブリックスピーカー。技術と文化の間にある“響き”を捉えたこのプロジェクトは、衣服や空間、暮らしにさえ新たな表現手段を付与する可能性を秘めている。この響きは、大阪・関西万博から未来へと広がり、テキスタイルのあり方そのものを変えていくだろう。
Text by Ryota Osujo














