

愛着界隈
服とメカの間で、愛着は育つか ──“ウェアラブルロボット”という新しい界隈
ファッションの楽しさは、決して“最新が最高”とは言い切れないところにある。何年も着続けて身体に馴染んだ一着や、どこの誰が袖を通したかもわからない古着の色落ちや傷さえも、服を着る味わいを深めてくれる。
つまり、モノに刻まれた時間の経過が、着る人の記憶や想像力と結びつき、価値へと変わるのだ。「愛着」と呼ばれるそうした価値観を、この連載「愛着界隈」ではさまざまな角度から取材してきた。 ──では、未来のファッションについてはどうだろうか。今回は、「ウェアラブルロボット」という最先端の界隈を覗いてみよう。

「身に着けるロボット」は道具なのか、身体の一部なのか。身体感覚にはどんな変化を起こすのか。そして「愛着」は生まれるのか……。 3名の開発者に聞いた。
PROFILE
きゅんくん
ロボットクリエイター / アーティスト
2014年よりファッションとしてのウェアラブルロボット「METCALF」を開発。ウェアラブルロボットと人のインタラクションを研究しながら、アート作品・音楽活動など含め幅広く活動。
https://kyunkun.com/
PROFILE
幅崎 昌平(はばさき しょうへい)
株式会社SHIN-JIGEN
パナソニック発のベンチャー「ATOUN」にて、作業補助用ウェアラブルロボットの企画・開発から流通までを手がけ、2022年よりSHIN-JIGEN COO。
https://shin-jigen.co.jp/
PROFILE
阿嘉 倫大(あか ともひろ)
株式会社ロボットライド
エンターテインメント特化型の搭乗型外骨格スーツ「スケルトニクス」を2013年より開発。文化庁メディア芸術祭などで受賞多数。
https://skeletonics.com/
ロボットを着ると人間はどうなるのか?
取材に協力してくれたのは、ファッションとしてのロボットを制作するきゅんくん、作業用アシストスーツを開発・事業化支援するSHIN-JIGENの幅崎昌平さん、エンターテインメント用外骨格スーツ「スケルトニクス」を展開するロボットライドの阿嘉倫大さんだ。全員が開発歴10年以上の“ウェアラブルロボット界隈”の重鎮が集まった。 ──まず「ロボットを着る」と何が起きるのか? 3人の設計思想はまったく異なる。ひとつは「力が強くなる」ということだ。SHIN-JIGENが設計する装着型ロボットは、人間の運動をセンサー・モーター・ワイヤーなどの電動でサポートする機能を持つ。服で言えば、“テックウエア”の究極形だ。

「動きが大きくなる」ロボットもある。ロボットライドが開発する「スケルトニクス」は高さ2.7mで、着ている人の動きをワイヤー等でロボットに伝え、自力で巨大な機体を動かす。別の姿に変身するという意味では、優れてファッション的だ。

この2つのロボットは用途こそ異なるが、自分の身体をロボットで“拡張”するシステムと言える。逆に、きゅんくんの「METCALF(メカフ)」が目指すのは「他者」としてのロボットだ。

人間をサポートする機能を持たず、必ずしもユーザーの動きと同期しない。アクセサリーのようでもあるし、別の生き物が肩に乗っているようにも見える。きゅんくんは、「身体の拡張や改造ではなく、“別の個体としてのロボットと人間がゼロ距離で接触している”ことに意味がある」と開発のコンセプトを話した。
道具でもあり、自分の一部でもあり、自分ではないものになれる装置でもあり、そしてまったくの他者でもある ──。一口にウェアラブルロボットと言っても、その多様さにあらためて驚かされる。それと同時に、普段着ている「服」と私たちの複雑な関係にも気づかされる。では、「着るロボット」は将来的にファッションになれるのか……。
素材・重量・制御システム 装着型ロボのテーラリング

そもそも「着るロボット」の開発は非常にハードルが高い。スケルトニクスは現在7世代目だ。常に重量との闘いだという。
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「スケルトニクスはあえて電気の動力でなく、人力で動かすパッシブ(受動的)な仕組みを採用しています。そのため、課題はいかに操縦者の負担を減らすか。現在は30kgまで軽くなりました」(阿嘉さん)
「METCALFは1.5kgほどで、ランドセルにヒントを得た肩のストラップで装着感を高めています」(きゅんくん)

軽量化とフィット感 ──。素材は異なるが、ウェアラブルロボットと服づくりはよく似ている。なかでも最高難度は幅崎さんが手がける“量産機”の設計だ。
SHIN-JIGENの前身はATOUN(アトウン)というパナソニック発のベンチャーで、工場・農業・介護などの力作業をサポートする装着型ロボットを量産・販売していた。

「とにかく不快感を減らさなくてはなりません。肩や脇のベルトがフィットしなかったり、装着する際にテープがチクチクしたりするだけでも一気に操作性が落ちます。しかもユーザーそれぞれ身体の動かし方が違います」(幅崎さん)
コストやロットの問題などで使える資材も限られるなか、開発者たちは“着れる”ロボットにするため試作を繰り返している。だからこそ「愛着」も生まれるという。
「ユーザーは使い込むなかで操作に慣れて、身体と機械の動きが一致し馴染んでいきます。そこからロボットに愛着が生まれていくのではないでしょうか」(幅崎さん)
ヴィンテージ・ロボットと“愛着”の時代

もし将来ロボットを着ることが当たり前になったら、私たちは古着のような愛着を持てるのだろうか。阿嘉さんは、「将来的には十分ありうる」と答える。
「スケルトニクスでも、外装も大きく重い前モデルのほうが迫力の面では勝ります。新しい、というのは何かの機能に特化している状態で、すべてが優れているわけではないのです」(阿嘉さん)

「素材使いやデザインは典型的ではないでしょうか。最初に作ったアルミ製で加工跡が残ったMETCALFのほうがロボットらしくて好きだというユーザーもいます。さらに『愛着』という意味だと、密着した状態で音と振動を感じることはとても重要だと思います」(きゅんくん)

「その点は当社も同じです。最新機はモーターが静音化されていますが、旧世代モデルの大きなギアの唸りを聞くことで、『ロボットが働いている』と実感するユーザーもいます。ほかにも制御の部分がマニュアルかオートマチックかという好みは分かれてきそうです」(幅崎さん)
どこか、ヴィンテージカーの世界にも似ている。旧型のウェアラブルロボットを愛好し、修理とカスタムを繰り返しながら使い込む時代が来るかもしれない。最後に、きゅんくんの研究論文を紹介したい。それはウェアラブルロボットが人間に与える、ある変化についての実験だった。

「カメラとマイクでユーザーと対話できるウェアラブルロボットを開発し、それを『身体に装着した』状態と、そうでない状態でコミュニケーションをとりました。その結果、装着した状態のほうが、利用者の好感度が明らかに上がっていたんです」(きゅんくん)
この研究は、ウェアラブルロボットが“友人”や“相棒”のように振舞う未来をも示唆している。
「着るロボット」が日常に入りはじめたとき、私たちはスペックだけでなく、「身体との一致」という観点からロボットと関係を結ぶようになるだろう。肩や腰に馴染むベルトや、指に伝わるワイヤーの重さ、モーターが駆動する音や振動に「愛着」を抱く新たな感性は、すでに芽生えはじめている。
Text by GANTAN














