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なぜ今「デジタルアパレル」なのか? コトブキヤ×ブックリスタが仕掛けたデザインコンテストの狙い

2026.01.13
株式会社壽屋(以下、コトブキヤ)と株式会社ブックリスタが主催する「デジタルアパレルデザインコンテスト」が開催された。それは単なるクリエイターの発掘イベントにとどまらず、急速に拡大するメタバース市場における「ファッション」の在り方を問い直し、異なる産業間の断絶を技術で繋ごうとする野心的な試みがあった。
今回、コトブキヤの新業態開発チームの飯嶋瑞生さんと、ブックリスタの新規事業開発室の中谷祐太さんへの取材を通じ、ホビーメーカーが直面したデジタルファッションの課題、アバター文化の変遷、そして3Dモデリングツール「CLO」がもたらすアパレル産業とゲーム産業の融合の可能性を探った。

PROFILE

飯嶋 瑞生(いいじま みずき)

株式会社壽屋
木更津工業高等専門学校機械工学科卒。ものつくり大学大学院修士課程修了。3Dデータを用いた設計、造形に関する技能を活かし、株式会社壽屋で「3Dデータの実売」をテーマに、商品開発や事業開発を実施。現在はVRChatユーザー向けのアバター製品の企画開発やクリエイター向けWEBサービス「自在視点マンガ素材集-ジザイテン-」の開発を担当。

PROFILE

中谷 祐太(なかや ゆうた)

株式会社ブックリスタ(新規事業開発室 プロデューサー)
ヤフー株式会社・REALITY株式会社等の複数社にて新規事業開発や経営企画を担当した後、2024年3月に株式会社ブックリスタへ入社。クリエイターに関わる新規事業のプロデューサーとして「YOMcoma」等を担当。2024年10月にマッチングポートフォリオ「ENRAI」を立ち上げ、運営・事業開発に従事。副業として、漫画原作や脚本も書いていたりもする。

ホビーメーカーが直面した「ファッションの壁」

プラモデルやフィギュアの企画・販売で知られるコトブキヤは、2017年の上場を機に自社IP(知的財産)創出への注力を強化してきた。その一環として、製品開発プロセスで蓄積された3Dデータの活用を模索し、2018年にはアバター販売事業を計画、2020年に製品展開を開始した。VTuberブームの到来とともに、VRChatなどのソーシャルVRプラットフォームが注目を集め始めた時期だった。
しかし、2021年から2022年にかけて、市場の潮目が大きく変わった。飯嶋さんによると、ユーザーの関心は「アバターそのもの」から「アバターが着用する服」へと移行していったという。
「アバターを出しても、お客様からは『着せられる服の種類が少ないから買わない』という声が上がるようになりました。逆に、『服の対応数が多いからこのアバターを買う』という逆転現象さえ起き始めたのです」
ここでコトブキヤが直面したのは、ホビーメーカーとしての造形力と、ファッション目線のデザインニーズの乖離だった。アバター向けに服を制作する個人クリエイターたちのファッションセンスの高さを目の当たりにし、飯嶋さんは「ファッションやアパレルの領域に取り組まなければならないが、社内にその専門知識がない」という課題から、外部の技術や知見を取り入れる必要性に迫られた。

アバター文化の変遷と「着せ替え」需要の爆発

デジタルファッションの需要が爆発した背景には、日本独自の3Dデータ創作文化の変遷がある。その源流のひとつは、ニコニコ動画などで発展した「MMD(MikuMikuDance)」文化だ。有志のクリエイターが創作したキャラクターモデルやモーションデータを用いて動画を作成する文化が土壌としてあり、3Dモデリングにまつわる技術情報の蓄積や交流があった。そこから2017年末のVTuberブームを経て、VRChatなどのプラットフォームへ技術が拡散していった。
2019年頃からは、既存のキャラクターではなくオリジナルのアバターで個性を表現する動きが活発化する。2020年にはアバター作家が台頭し、ユーザーは髪色を変えたりパーツを付け替えたりする「改変」文化を楽しむようになった。そして2021年頃、服作りに長けたクリエイターたちが本格的にファッションへのアプローチを開始し、現在のアバターファッション市場が形成された。
この流れの中で、VRChatのユーザーたちは、PCへの負荷が高まったとしても、より高精細で美しい表現を追求していった。その変化を中谷さんは次のように語る。
「ゲーム産業からすれば許容しがたい重いデータであっても、ユーザーは『自分の美』を追求するためにそれを受け入れます。市場が求めるのは、圧倒的なクオリティと表現力でした」
このユーザー心理の変化は、デジタル空間におけるファッションが、単なるゲームのスキンを超え、アイデンティティ表現の核心へと進化したことを示していた。

「CLO」が繋ぐパタンナーと3Dの接点

「ファッションの壁」を乗り越えるためにコトブキヤが着目したのが、3Dモデリングツール「CLO(クロ)」だった。CLOは本来、アパレル産業向けに開発されたソフトウェアであり、2Dの型紙(パターン)データから3Dの衣服をシミュレーション作成する機能を持つ。
飯嶋さんは、CLOの導入理由について次のように語る。
「CLOは、服飾の知識がある人でないと使いこなせないツールです。逆に言えば、パタンナーのように服の構造を理解している人が触れば、ファッション的に正しい、確かなクオリティのものが作れます。我々が持っていない『服作りの機能』を調達するための最適解でした」
これにより、服飾学生やアパレル技術者が、自身のスキルをそのままデジタル領域で生かせる可能性が生まれた。今回のコンテストでも、多くの服飾専門学校生が参加しており、彼らはデジタルネイティブであると同時に、専門的な服飾知識を持つ層だ。
「若い学生たちが、自分たちの能力をデジタルデータとしてアウトプットし、それが即座に評価されるサイクルを経験することは、彼らの能力を拡張し、新たなキャリアを切り拓くきっかけになるはずです」
CLOは、これまで交わることが少なかった「アパレル産業の技術」と「ゲーム・メタバース産業」を接続する共通言語としての役割を果たしつつある。

リアルとバーチャルの境界を溶かす受賞作品

最優秀賞受賞作「叛逆ロマンス」
こうした背景から、コトブキヤとエンタメ×テックを進めるブックリスタが主催となった第1回デジタルアパレルデザインコンテストが開催された。今回のテーマは「VR世界で映えるカクテルドレス」。審査において重視されたのは、単にVRならではの奇抜なデザインではなく、「ファッションとしての説得力」だ。
「VRだからといって、現実離れして良いわけではありません。VRにおけるファッションの役割も現実と同様、自分が何者であるかを表現し、コミュニケーションを生み出すことに変わりありません。シルエットが美しく、構造として破綻していないか。その上で、VRならではの視覚的なフックがあるかどうかが評価の分かれ目でした」
受賞作品のひとつである「叛逆ロマンス」は、そのバランスが高く評価された。会場ではCLOの3Dデータから実際に制作された実物のドレスも展示され、デジタルとリアルの境界が曖昧になるほどの再現度が示された。
3Dデータから実際の衣服を製作し、リアルの「叛逆ロマンス」を展示
3Dで作られた服を「着る」という体験を提供できる場所は、現状ではVRChatなどのソーシャルVRプラットフォームに限られるが、自分自身の身体をもってファッションを感じられる没入感こそが、デジタルアパレルの真価なのだ。

アパレル技術者がゲーム業界で輝く未来

授賞式では、アバターが「叛逆ロマンス」を着用し、ランウェイを披露
今回の取材を通じて浮き彫りになったのは、アパレル産業とゲーム産業の間にある深い溝と、それを埋めることにより生まれるビジネスチャンスだ。
現状、アパレルブランドのデジタル進出は、主にリアル商品の販売促進の一環として行われることが多い。一方、ゲーム産業においてキャラクタースキンの販売は、すでに巨大な収益源となっている。しかし、両者の連携は容易ではない。
「アパレル企業と話をすると、ゲーム開発の現場とどう連携すればいいか分からないという声を聞きます。ブランドのロゴやデザインを貸し出し、ゲーム会社がそれらしく作ることはできますが、それではアパレルのプロフェッショナルが持つ『服作りの技術』は生かされません」
飯嶋さんは、CLOのようなツールが普及することで、アパレル技術者がゲーム開発の作法を1から学ばずとも、デジタルファッションの制作に参画できる未来を描いている。
「技術として服を作れる人が、ゲーム産業やアニメ産業で活躍できる土壌を作りたいです。これまでは、ゲーム制作の技術を持ち、かつファッションセンスがある人だけが活躍できる世界でした。しかし、ツールの活用によって相互にデータが行き来できるようになれば、純粋な服作りの技能を持つ人が、デジタル領域でその能力を発揮できるようになります」
アパレル産業が持つ「型紙作成」や「縫製仕様」のノウハウは、デジタル空間におけるリアリティの向上に不可欠な要素となり得る。一方で、ゲーム産業側も、多様化するユーザーのファッション需要に応えるために、外部の専門知見を求めている。中谷さんは、そうした状況すら共有されていないことも問題だと指摘した。
このコンテストは、単なるデザインの優劣を競う場ではなく、異なる産業の橋渡しができる新たなクリエイターを創出するための実験場でもあった。第2回以降の開催も視野に入れているという本プロジェクトは、アパレルDXの新たな指針となるだろう。リアルとデジタル、アパレルとゲーム。それぞれの境界線が溶け合う地点に、次世代のビジネスチャンスが眠っている。

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