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2023.03.31

ポリエステルの代替を目指す、次世代サステナブル素材「ハイラクト」の可能

化学商社のハイケム株式会社が、生分解性のバイオマスプラスチックである「ポリ乳酸(以下PLA)」繊維を使用した、次世代のサステナブル素材「ハイラクト」を開発するとともに、同素材で衣服を製作し大きな注目を集めている。
生分解性とは、最終的にCO2と水となって自然に循環していく性質のこと。PLAは生分解性プラスチックの中でも、環境負荷が少ない代替素材として知られている。
ハイラクトは、トウモロコシ由来のPLAから生まれた素材で、バイオマスを使用しているため、カーボンニュートラルも実現している。原料の製造過程で排出されるCO2は、ポリエステルと比較して約7分の1に削減できるという。今後は既存のポリエステルの代替を目指す考えだ。
もし、日本のポリエステル製の服をすべてハイラクトに置き換えた場合、CO2を年間約200万トン削減できるとのこと。これは日本人の約100万人が、年間に排出するCO2量に匹敵するとしている。
そこで今回、ハイラクトの開発を担当したハイケムの取締役でサステナベーション本部長の高 裕一さんに、サステナブル素材を開発するきっかけから、素材としての特徴、今後の可能性まで聞いた。

サステナブルな素材「ハイラクト」の開発背景

繊維メーカーではないハイケムが、サステナブルな素材を開発しようと考えた背景には、どのようなきっかけがあったのだろうか。
「理由は大きく3つあります。一番大きい理由としては、世の中でサステナビリティやSDGs、カーボンニュートラルというキーワードが広がり、ビジネスの中で取り組まなければいけないという潮流が高まってきたことです。
そして2つ目は、この潮流の中でファッション産業が抱える大量生産・大量消費・大量廃棄が問題となってきたこと。そして3つ目は、中国で生分解性プラスチックの生産能力が劇的に上がってきたことです。
これまで中国は、環境に対する配慮が伴っていない発展をしてきましたが、それではいけないということで、環境配慮型の素材に切り替えようとする大きな流れが急速に進んでいます」
PLA樹脂
PLA樹脂
これまでも、PLAを繊維化しようという取り組み自体は繊維メーカー各社によって行われていたが、具体的に事業化することはなかったという。
「約10〜15年前に、日本の繊維メーカー各社がPLAの繊維化に取り組んでいたのですが、コストが一番大きな問題となりました。当時、PLAの価格は、ポリエステルの10〜20倍もしたのです。
さらに、現在と比較してサステナブルなファッションに対する関心も低かったため、『コストが合わないし、ニーズもそれほどない』という状況でした。
ただ、先ほど申し上げた3つの理由が揃ってきたことから、まずは中国で拡大しているPLA生産能力を活用して洋服にしたら面白いのではと考えて、開発をスタートしました。
その当時、中国ではPLAを使った洋服を作る試みがありました。しかし、実際に見て触れてみると、すごく粗い製品で、質感はパリパリで硬いし、形も色も洗練されていませんでした。これは売れない、と一目で思ってしまうほどです。
しかし、曲がりなりにも服にできていたことは、過去に繊維メーカーが取り組んだ時代とは条件が異なっている証拠と言えます。そこで、本気で頑張ればいけるのではと思ったのです。
なぜこの事業を始めたのかといえば、私自身がサステナブルな素材を作りたかったから、ということが一番です。経済性とかビジネスチャンスを計算したわけでも、成功する確たる根拠があったわけでもまったくありません(笑)」
PLAからできた糸
PLAからできた糸

「ハイラクト」の特徴と可能性

2020年9月、ハイケムはPLA事業を次世代素材の開発や繊維化にフォーカスすることを決定し、それから2年以上にわたり開発を進めた。
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#Sustainability
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