カナダの「gym master(ジムマスター)」というスウェットブランドを知っているだろうか。定番とされるインポートスウェットブランドが生産国をアジアや南米に移すなか、昔ながらのスウェット作りを今もカナダで続けている。今回は、ジムマスターの日本代理店である株式会社グランド・ワンの吉川昌輝さんに、ブランドの歴史やカナダ製の定番アイテムについてお話を伺った。
「創業は1916年、カナダのノバスコシア州ウィンザーという街で始まりました。当時は『NOVA SCOTIA TEXTILES(ノバスコシアテキスタイル)』というアンダーウエアなどの工場であり、gym masterというブランドはまだ存在していませんでした。創業から100年以上を経て、現在では老舗メーカーとして知られています。
gym masterは、アスレチックウエアとして展開されたブランドですが、その名前からもわかるように、ジムで着用することを想定しているとされています。また、カナダは寒冷地域であることから、消防士の防寒用のインナーとしても使用されていたという伝承が残っています」
1980年代~1990年代のgym masterを知る人は生地の話をする。まずはその歴史ある生地づくりからお話を伺っていこう。
「最大の特徴として、トンプキン機と呼ばれる編み機で作られたスウェット生地が挙げられます。この生地は古い編み機で作られ、1時間に1メートルしか編めないため、大量生産には向いていません。しかし、今でもこの編み方で生地を作り続けており、柔らかい9オンス生地で裏地は起毛のあるものが一般的です。
また、軽量かつ暖かいという特徴を持っています。さらに、縫製はフラットシーマと呼ばれる4本針ステッチで縫われています。この4本針ステッチは、1950年代頃からヴィンテージスウェットと呼ばれる製品に多く使われていましたが、1970年代からは徐々にフラットシーマ仕様の製品が減少していったとされています。しかし、gym masterは昔ながらの縫製方法を変えずに製品を作り続けています」
希少性の高い生地について伺ったところで、次はディテールについても聞いていこう。gym masterといえばラグランスリーブが印象的だがそれだけではないようだ。
「ディテール的に、クルーネックもフーディーもすべてにおいて、ラグランスリーブなのが昔からの特徴です。サイズ感はややタイトめで、当時のスウェットとしてはスタイリッシュだったと思います。着心地の軽さも当時からの特徴の1つなのですが、昔の北米のスウェットは生地が分厚くて重さがあって、ボックス型シルエットのものが多かったと思うので、gym masterは画期的だったのかもしれません。
そんなディテールですが、長い年月をかけてシルエットは少しずつ変わってきていますが、少しバランスを変えてきただけで、アームや身頃が細いという特徴はgym masterの個性なので大幅に変えてはいません。
このレトロ感といいますかヴィンテージっぽいシルエットや首の形状などは、オーセンティックなシルエットを崩さないようになっています。パーカーやスウェットパンツの白い紐や、スウェットパンツの細身なシルエットで股上が深い感じも昔のままです。
1990年代は比較的昔のアメカジ的なスタイルで、タイトな着こなしをしていた人が多かったと思いますが、最近はオーバーサイズというかワンサイズ上ぐらいで選ぶ人が増えています。長い歴史の中で、その時代時代でマッチする着こなしをしていただいて構わないと思います。それだけ長く愛用されているブランドだということだと思います」
ここからは実際のアイテムについて伺っていこう。変わらず守り続けているところ、時代に合わせて変わっていくところなどアイテムを見ながらお話を進めよう。
「ラインナップはラグラン スウェットトレーナー、スウェットラグランプルオーバーフード、スウェットラグランフルジップフード、スウエットパンツの4アイテムで展開しています。
昔はハーフジップのポロ襟のスウェットや半袖スウェット、キッズアイテムなど、他のバリエーションもあったのですが、現在は厳選された4アイテムのみになっています。
日本では1990年代初頭から半ばにかけて、セレクトショップなどでgym masterのアイテムが買えるようになりましたが、1990年代後半から私たちが日本代理店になり、日本での展開が本格的にスタートしました。現在では別注というわけではありませんが、この歴史あるスウェットの生産分のほとんどが日本に送られており、日本向けに作られるために、古い編み機や昔ながらの技術も残されているような感じです。
カラーバリエーションもたくさんあるのですが、数年に一度必ず新色をリリースするよう、日本からカナダに作ってほしい色を発注しています。アイテムによって異なりますが、現在は11色展開でラインナップしています。
昔はラグランに沿って袖から切り返しで2トーンのカラーバリエーションもあった時代もありました。グレーボディーにネイビーの袖やバーガンディーの袖など、でも今はすべて単色での展開となっています。
色のお話になったので、もう1つ。gym masterのオックスグレーは他にはあまりないミックスが特徴で、黒が多い粗挽きな見え方が独特なものになっています。『このグレーじゃなきゃダメ』という方もいるぐらい、昔から特徴的なグレーになっています。レッド杢や近年発売されたブラウン杢も、他のスウェットブランドにはないgym masterならではのカラーリングになっています」
gym masterのネームタグにはフクロウのマークが付いている。これは日本にgym masterが入って来た時にはすでにトレードマークとして使われていたそうだ。最後にこの話を聞いてみよう。
「先ほどの古いカタログにはタグのマークよりもリアルなタッチでフクロウの挿絵が描いてあります。フクロウがトレードマークなのは間違いないのですが、なぜフクロウで、いつ頃から使われていたのか日本側では知る者がいないんです。同じくカタログにもあるように、昔は白タグでしたが、今はオレンジタグになっています。私たちが日本代理店になった1990年代後半に日本のみの規格としてオレンジタグを採用しました。
そもそも、弊社の会長がアメリカの大型展示会でgym masterのブースを訪れたのがきっかけで、日本代理店になったのですが、その当時は、このカナダ製のスウェットを輸入してきて売っていただけだったのですが、その後私たちがインラインと呼んでいる、日本企画のアイテムもたくさん作られるようになっていきました。
こちらも同じgym masterであり、生産国もコンセプトもオリジナルとは違いますが、カナダ製のこのラインは昔と変わらず、これからも大切に続けていきたいアイテムたちだと思っています」
gym masterのインラインは全国でたくさんのお店が取り扱っているが、カナダ製のラインは限られた店舗でしか取り扱っていない。昔ながらのものづくりを続ける歴史ある名品を求める方は、ぜひ一度、gym masterを手に取ってみてはいかがだろうか。
株式会社 グランド・ワン
文化服装学院を卒業後、2017年に株式会社 グランド・ワンに入社。gym masterセールスやインラインの企画などを担当する。