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2023.06.07

洋服が家具に生まれ変わる? 新素材「パネコ」が作るファッションロスを減らす持続可能な未来

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サステナビリティ、SDGsといったワードが浸透し、多くの人たちが地球環境に配慮した取り組みに関心を寄せている現在。私たちが抱える大きな問題のひとつでもある「ファッションロス(英:Fashion Waste)」に対する新たな取り組みとして注目を集めているのが、廃棄衣類繊維を原料とした繊維アップリサイクルボード「PANECO(パネコ)」だ。
先日、株式会社ユナイテッドアローズが行っているサステナビリティ活動「SARROWS(サローズ)」の一環として、このパネコを活用したスツールを製作し、ユナイテッドアローズ グリーンレーベル リラクシングの16店舗に設置することを発表するなど、大手企業のサステナビリティへのアクションにも一役買っている。
今回は、パネコの開発元である株式会社ワークスタジオで代表取締役を務める原 和広さんにインタビューを行い、パネコという素材やその特徴について、さらには、同社の環境問題に対する姿勢や取り組みなどを詳しくうかがった。

店舗什器の会社が「廃棄衣類を活用した什器を作りたい」という発想で開発

サステナブルな“繊維アップリサイクルボード”であるパネコは、アパレル企業などから回収した廃棄衣類や製造工程で発生する端材などを使用し、硬質ながら加工しやすく、しかも美しいボードに再資源化したもの。店舗什器やオフィス家具など、さまざまなプロダクトに再利用されている。まず、このパネコはどのようにして誕生したもので、どういった素材なのだろうか。
「弊社の創業は1998年で、以来、店舗のディスプレイ什器などのデザイン・設計・製作などを請け負っているのですが、クライアントからさまざまな案件をお受けしていくなかで『廃棄される洋服を活用して什器ができるのではないか?』という発想に至り、それがパネコ開発のきっかけとなりました。
ですが弊社はリサイクル業者でも素材の開発メーカーでもなく、その方面ではまったくの素人だったので、開発には苦労しました。試行錯誤を繰り返すなかで、店舗什器でよく使う木質繊維板という木の繊維を固めた材料のように、洋服の繊維もまとめて固められるのではないか? というアイディアが生まれ、トライを続けることで製品化に成功しました」
廃棄衣類を再利用したいという思いで誕生した繊維アップリサイクルボードのパネコ。現在では、ファッションアイテムの素材感がそのまま表現された廃棄衣類繊維90%の『マテリアルボード』と、ファッションアイテムと木材の素材感の両方が楽しめる廃棄衣類繊維50%、再生木材40%の『ウッドボード』の2種類を生産している(ウッドボードは受注生産)
廃棄衣類を再利用したいという思いで誕生した繊維アップリサイクルボードのパネコ。現在では、ファッションアイテムの素材感がそのまま表現された廃棄衣類繊維90%の『マテリアルボード』と、ファッションアイテムと木材の素材感の両方が楽しめる廃棄衣類繊維50%、再生木材40%の『ウッドボード』の2種類を生産している(ウッドボードは受注生産)
2019年に開発をはじめ、2021年には販売を開始。エコなパネルという意味から「パネコ」と名付けられたこの素材は、廃棄衣類を原料にするという新しい取り組みから注目を集め、導入実績を伸ばしながら2022年にはグッドデザイン賞を獲得した。
「リサイクルで一番大変なのは、回収した際の仕分けです。衣類の繊維には天然繊維と化学繊維があり、一般的なリサイクルでは、それを細かく分類する必要があります。ですが、パネコを作る上では、素材の分別や色の分別は一切不要です。だからこそ、原料によっていろいろな模様が出てくるユニークな見た目のボードになっています」
廃棄衣類を素材として使用していることで、ユニークな柄のボードになる。そして、見た目が美しいからこそ、什器としてデザインされたパネコはさまざまなシーンで利用されているのだという
廃棄衣類を素材として使用していることで、ユニークな柄のボードになる。そして、見た目が美しいからこそ、什器としてデザインされたパネコはさまざまなシーンで利用されているのだという
一般的なリサイクル製品は、再利用化する技術ばかりが注目されがちで、その出来上がりの見た目まではフォーカスされないこともある。しかし、ファッションアイテムをリサイクルするからこそ、美しいものを作りたいというのがワークスタジオの強いこだわりだ。

この技術を広めさえすれば、世界の廃棄衣類はその国で再資源化できるように

パネコはその製造工程も非常に特徴的だ。企業などから回収した衣類は、まず提携している福祉施設に集められ、同施設で働くハンディキャップのある人たちの手で、ボタンやファスナーなどが外される。そして、それを粉砕工場で粉砕した後、プレス工場でプレス加工されてパネコが出来上がる。
このように、一工程ごとに作業拠点がバラバラになっていることも、パネコにとってはひとつの強みなのだという。
「製造工程が分かれていることで巨大な設備や施設を必要としないため、既存の設備、インフラをそのまま使用して製品を作ることができます。そのため、私たちが確立したこの技術(パネコを成形する技術は国際特許として出願中)だけを、そのまま世界中に広めることができます。そうすれば、巨額の設備投資がなくても、それぞれの国や地域で出た廃棄衣類を現地で再資源化することができます」
既存の設備やインフラを活用して製造することができるため、ファッションロスの問題を抱えるそれぞれの地域で、同じ取り組みを行うことが可能になる
既存の設備やインフラを活用して製造することができるため、ファッションロスの問題を抱えるそれぞれの地域で、同じ取り組みを行うことが可能になる
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