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2023.03.06

「女性の体の成長・変化を前向きに」株式会社ワコールの下着教室「ツボミスクール」とは?

1946年に「和江商事」という会社名で創業した株式会社ワコールホールディングスは、「画一的な外見美ではなく、内面も含めた自分らしさの実現をお手伝いする」と同時に「環境や人権などさまざまな社会課題の解決に努める」ことをミッションに掲げている。
女性の下着メーカーといえば「ワコール」を連想する方も多いのではないだろうか。

ワコールホールディングス傘下の株式会社ワコールでは2001年から「ツボミスクール」を開催している。小学4年生~中学3年生の女の子や保護者などを対象にした無償の下着教室だ。

下着教室を始めるにあたり、どのような想いがあったのだろうか、株式会社ワコール 宣伝部の上地朋子さんにお伺いした。

PROFILE|プロフィール
上地 朋子(うえち ともこ)
上地 朋子(うえち ともこ)

株式会社ワコール 宣伝部 
1999年入社。一男一女2児の母。
ワコールが保有する成長期のからだの変化やエイジング研究のデータをもとに下着の基礎知識や選び方など情報発信を担う。

女性の声に応えてツボミスクールが設立。「変わっていくことを前向きに捉えてほしい」

まず、ツボミスクールはどのような経緯で立ち上がったのでしょうか?

「ツボミスクールを始める前から、18歳前後の短大・大学生に、下着の歴史・選び方などをお話していました。すると彼女たちから、『もっと早くこの情報を得たかった』『胸が膨らみ始めた時期に、誰にも相談できなかった』という意見が多く上がってきたのです。

それならば、思春期を迎える女の子たちに何かできないかなということで、スタートしたのがツボミスクールです。ワコールの研究データから以前より初経や胸が成長し始める時期が早くなってきていることが、分かっています。最近では小学校2年生あたりから胸まわりがチクチクする、しこりのような違和感を覚える子もいるようです」

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ツボミスクールのネーミングの由来はなんでしょうか?

女の子の体の成長をお花にたとえて『つぼみから変化してお花を咲かせていく』=『変わっていくことを前向きに捉えてほしい』という願いがまず1つ込められています。

体に変化があるのは当たり前で、胸が膨らむことも下半身がしっかりしてくる事も将来赤ちゃんを産んで育てられる体に変わっていくためという理由がある事をポジティブに伝えたいです。たとえばアサガオの色もそれぞれ違うように『成長も人と違って当たり前』ということを伝えたいなという2つ目の想いもあります」

女の子は10歳前後に胸の変化が始まりますが、初経・月経も始まって体型も丸くなり、ぽっちゃりする時期があるじゃないですか。
実際に子どもたちは『太ったな、これ以上胸が膨らむのも嫌だな』と感じる、『大人になる=おばさんになる』というイメージを持つなど成長に対して前向きに捉えられていない傾向があります。正しい知識がないため、不安に感じるのだと思います。

お母さんからは、子どもの成長は昔より早くなってきているのに『何をどういうタイミングで選んでいいかわからない』『実際ブラジャー着けなさいよと声をかけても、小学校5・6年生の娘に拒否される』という声があります。

このようにお母さんが上手くアドバイスできない場合もあるので、保護者向けのスクールもあります。養護教諭の方からも、『保護者からは悩みを聞くけど答えられない』という理由でツボミスクールの開催をお願いされるケースもあります。

スクールでは、体・胸の成長ステップ・下着について丁寧に説明。オンライン開催も

スクールでは具体的にどのような流れでお話をされているのでしょうか?

「子どもたちには、45分間の授業の中でお話をします。まず体の第二次性徴についてイラストを使って話します。『骨盤が広がって、お尻が大きくなることも太ったわけじゃないよ、太ももに脂肪がつき始めるのも子宮を守るためなんだよ』という形で、できるだけ成長に対して前向きに捉えてもらえるように。その中で成長には個人差があること、『人と成長の早さが違うことは個性だよ』と伝えます。まずは体、次に胸の成長について説明します。

ワコールでは『ワコール人間科学研究開発センター』で女性の体を研究しています。子どもの胸は初経前後の約4年間で3つのステップで成長することがわかりました。ステップ1は乳頭周辺が膨らみチクチクムズムズする、しこりを感じる時期、ステップ2は膨らみが横に広がり初経を迎える時期、ステップ3になるともう見た目は大人のようで、丸く立体的に膨らみます。ステップごとにその時期に合う下着があるので、実際にそれを見てもらいます。

ステップ1は胸にあたる部分が2重のシャツで、敏感な胸を守ります。ステップ2はブラジャータイプで、胸の膨らみに合わせて立体的なものに切り替えます。その他、サイズの測り方やサニタリーショーツのお話をします。

保護者コースは約60分です。実際の成長段階の胸の画像や、写真データなどを見ていただきながら、説明をしていきます」

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ツボミスクールには講師派遣型出張教室とオンライン型がありますが、講師派遣型の今までの実績と開催エリアを教えてください。

無償の出前教室なので、ワコールの本社(京都)に近い関西と関東の2つのエリアで行っています。コロナ前は年間約300校実施していました。2022年は120校伺っていますので、ピーク時の3分の1ぐらい戻ってきています。

また、コロナ禍をきっかけに始めたオンライン型は、エリアが限定されたツボミスクールとは異なり北は北海道、南は沖縄までインターネットを通じて全国どこでもお話させていただいています。

養護教諭の方が指導する際に活用いただけるように、教材として下着を貸し出すことも行っています。教材提供、講師が派遣される出張型出前教室、オンライン型教室の3つの手法でアプローチしています。

ツボミスクールは基本的に学校が主催で、学校に所属している子どもたちが参加しますが、オンラインは2020年からワコールが主催する『ワコールの学ブラ講座』という親子で一緒にZoomを見ながら学べる講座を開催しています。
学校が主催のツボミスクールとは違って、ワコールのホームページから個人でお申し込みいただくことができます。

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ツボミスクール開催の反響とは?

実際に参加された方の声をお聞きしたいです。

「子どもたちからは『胸が膨らんできて、 太ったと勘違いしていたけど、太ったわけじゃないということを初めて知った』『今まで親とこういう話ができなかったけど、今日は家に帰って相談してみようと思いました』『人と違うことはいけないっていうわけじゃなて、それは個性だということを知った』などポジティブな意見を多く頂いています。

お母さんたちからは『通ってきた道ですけれども、 知らないことがあった』『今日得た情報をもとに、改めて子どもと身体とか下着の話をしたいです』という声を頂いています。

ファッションを楽しむうえでも、下着の存在は非常に大事なものだと感じます。年齢を重ねていく上で体の変化も影響してくると思いますが、貴社は正しい下着を選ぶ事をどのように捉えていますか?

下着は他人には見られない、自分だけが着けているものですが、下着でボティラインをきちんと整えると、おのずとアウターのシルエットも綺麗に整うと思います。 もちろん30代後半、40代以降になると子育ても一段落して、体も変わり『どうでもいいや!』と感じてしまう方もいるかもしれませんが、逆に変化を楽しんでいただきたいと思います。体の肉質が柔らかくなってきたからこそ、下着でメイクできますし、年齢による変化を前向きに捉えて頂きたいと思っています。下着選びでボディラインを整えて、活き活きしていく事に繋がってほしいですね」

男女一緒に学べる講座、男性の保護者向けのオンライン講座も

今後ツボミスクールは、どのような方向に進まれるのでしょうか? 構想などがあれば、可能な範囲で教えてください。

「ツボミスクールは女子向けに行っていましたが、学校現場でも男女で分けることが難しくなってきています。実は2021年から第二次性徴のお話など男女一緒に学べるコンテンツ開発を進めています。

ただし男女一緒では伝えられることに限りがあるので、『詳しくはツボミスクールで』というフォローが必要かと思います。またオンラインの学ブラ講座は親子で一緒に参加するパターンと保護者がビデオオフで聞くだけのものを用意しています。男性の保護者も参加しやすい講座となっています。」

最後にお伝えしたいことがあれば、お聞かせください。

私はツボミスクールに10年以上携わっていますが、 子どもたちから『自分の体を大事にしたい』『体の成長が楽しみです』という声をいただくことが一番嬉しいです。

一般的に情報が広まり、胸が膨らみ始めたら恥ずかしがらずにブラジャーを着けられるようになったら良いと思っています。ツボミスクールや学ブラ講座を通して、体の変化を前向きに捉え、これからの成長を楽しみにポジティブに捉えてほしいなと思います。親子の関係では言いにくい、相談できないというお悩みについては、このスクールを上手く活用して、親と子どもの潤滑油にして頂ければと考えています」

ツボミスクールや学ブラ講座は同社のミッション「画一的な外見美ではなく、内面も含めた自分らしさの実現をお手伝いする」と「環境や人権などさまざまな社会課題の解決に努める」を体現した企画といえるだろう。多様性も取り入れたツボミスクールや学ブラ講座の今後に注目したい。

Text by Asami Tanaka

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