Fashion Tech News symbol
Fashion Tech News logo
2024.02.14

第3の繊維?ポリエステルとナイロンを融合した帝人フロンティアの「ミクセルNP」

以前取材した帝人フロンティア株式会社の開発した素材「オクタ」からも、同社が有する技術力の高さを窺うことができるだろう。そして今回、同社がまた新たな素材を開発したと耳にした。
リリースを見ると、「ミクセルNP」というポリエステルとナイロンのいいとこ取りをした素材らしい。これまで繊維メーカー各社はポリエステルやナイロンを扱い、さまざまな機能性を持たせるために開発を続けてきたと思われるが、ここに来て第3の勢力となる素材が誕生したのだろうか。
さっそく開発担当の尾形暢亮さんから「ミクセルNP」の開発秘話、そして将来的な展開についてお聞きした。
PROFILE|プロフィール
尾形 暢亮(おがた のぶあき)
尾形 暢亮(おがた のぶあき)

技術開発部 衣料テキスタイル・製品開発課 課長
1993年帝人株式会社入社。繊維研究所に配属。その後、帝人加工糸株式会社(現帝人フロンティアニッティング株式会社)や帝人株式会社加工技術部機能衣料開発グループに所属。2014年からは現職である帝人フロンティア株式会社の技術開発部機能テキスタイル開発課現 技術開発部衣料テキスタイル・製品開発課)課長として、一貫して高機能素材の開発を担当している。

ポリエステルとナイロンのいいとこ取り

「ミクセルNP」の開発背景を教えてください。
一番の理由として、スポーツ市場の拡大が挙げられます。これまでのスポーツ衣料では、化学繊維の生地がたくさん使われてきました。主にポリエステルとナイロンですね。それぞれ特性が異なるので、両者が対立することはありませんでした。
ダウンジャケットを例に出すと、ナイロンを使ったものは軽く、耐摩耗性に優れているという特徴があります。それに対して、ポリエステルは多様な糸種を利用して伸縮性を持たせたり、柔らかい風合いの商品に使われたりします。
このように素材によって特徴が異なるので、目的に応じて使い分けができます。
そのようななかで、最近の衣料分野の流れを見てみると、スポーツ分野で新しい素材が登場し、それが次第にカジュアルな衣料でも使われるようになってきました。以前にご紹介した「オクタ」も、最初はスポーツ分野で使われていたものですが、いまではファッション、カジュアル用途にも使われるようになっています。
スポーツ市場で新たな素材を生み出せれば、結果的にさらなる市場の拡大が見込めると判断し、次のステージに進むためにも、これら2つの素材を組み合わせて、いままでとは違う生地を作りたいという発想がありました。
これまでポリエステルとナイロンを掛け合わせた素材の開発はなかったのですか。
今回のように新しい質感や機能性を持たせた素材を作ろうというアプローチはなかったと思います。
従来では、ポリエステルとナイロンを生地のなかで組み合わせる手法が一般的でした。糸の加工のレベルで絡めようとしたこともありましたが、それぞれは細い糸を束ねたマルチフィラメントという構造のため、結果的にはマクロな次元でしか混ざり合わなかったのです。
ところが今回の「ミクセルNP」はそれぞれの特性の違いを利用するのではなく、それらを共に生かすという視点から取り組んだものになるので、まったく新しい試みだったと言えますね。
素材の特性が異なるものだから、初めから組み合わせようという発想がなかったのでしょうか。
僕らが扱っている化学繊維は、ほとんどがポリエステルです。そこで新たに市場開拓を考えた場合、ナイロンの取り扱いを始めればいいだけなんですね。先程お話ししたように、ポリエステルにはポリエステルの、ナイロンにはナイロンの良さがあるからです。
ですが、本当にただナイロンを扱うだけでいいのかという迷いがありました。僕らが持っているポリエステルの技術を全面に出さなくていいのか。そう考えたときに、ナイロンをそのまま扱うのではなく、すでにあるポリエステルにナイロンを融合させ、新たな素材として提供していこうとなりました。
ポリエステルを扱ってきたからこそ取り組むことができた素材だと思います。
原糸イメージ
原糸イメージ

ミクロなレベルでの異素材の融合

「ミクセルNP」の開発には、どのような技術が用いられていますか。
今回の「ミクセルNP」の特徴は、ミクロなレベルでポリエステルとナイロンが混じり合っている点です。手法としては、両者を同時に紡糸しています。
そのためには、最初に機械の改良が必要でした。そもそもポリマーが違うので融点も違いますし、糸の作り方も異なります。仲の悪いもの同士なので、最初は糸にすることすらできませんでした。
さらに、それぞれの素材の特性を生かすために、異型断面化技術を用います。この技術自体は昔からあるものです。通常、糸を引くとその断面は丸い形になるのですが、そうすると糸自体の見た目がプラスチックのようになってしまいます。そこで差別化を図るために、各メーカーさんが丸断面を変えようと必死になって技術開発した経緯があります。
写真のような異型断面が可能になったことで、風合いが変わったり、吸水性や速乾性を持たせたりすることができるようになっています。
原糸断面図
原糸断面図
できた糸を糸加工するのにも、苦労はありました。成形だけでなく、染料や染色温度も異なります。まったく条件が異なる素材を同時に紡糸から加工までするという難しさを克服できたのは、僕らが持っている技術力や知見の賜物だと思っています。
1 / 2 ページ
この記事をシェアする