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2023.03.15

ファッション小物からランプシェード、アート作品まで――フィッシュレザーの可能性

漁業文化が息づく富山県氷見市を拠点に、フィッシュレザーの製造を行う株式会社シンクシー。「生命の恵みを無駄にしない持続可能なものづくり」を大切にしたフィッシュレザーづくりを行っているというが、魚の皮をどのようにしてレザー生地にしているのだろうか。
今回は株式会社シンクシー代表の野口 朋寿さんにフィッシュレザー開発の背景や、環境に配慮したものづくりについて話を聞いた。
PROFILE|プロフィール
野口 朋寿
野口 朋寿

株式会社シンクシー 代表
1993年、香川県出身。 2016年、富山大学芸術文化学部卒。
子供のころから魚が好きで、大学時にフィッシュレザーの研究を始める。 2018年、富山県氷見市地域おこし協力隊としてまちづくりに関わりながらフィッシュレザーの事業化を目指す。2020年にブランド「tototo」を立ち上げ、2022年に株式会社シンクシーを設立。

魚の廃棄物を有効活用したい

まずは、フィッシュレザーに着目した背景について教えてください。
私が芸術文化学部に在籍していたときに、伝統工芸の漆の勉強をしていたことから、牛皮などに漆を塗って、新しい表現方法を模索していました。そこで、もともと魚が好きだったこともあり、魚の皮に漆を塗ってどんな表現ができるか試してみようと思ったのがきっかけでした。
そのような実験を行うなかで魚屋さんに皮を貰いにいくと、バケツから溢れるほどの皮をいただくこともあり、その廃棄量の多さにとても驚きました。
魚は寿司などで身だけを食べる場合、頭や内臓、皮といった部位は捨てられることが多く、実は魚1匹のうち半分ぐらいが廃棄部分になります。現状、魚の廃棄物の約91%は焼却処分され、残りの約9%が動物の餌や畑の肥料として利用されています。特に日本では多くの魚が消費されているため廃棄される量も多く、その皮を加工することで活用できないかと考えたのです。
魚好きとしては、命の恵みを無駄にしてしまうようなこの現状を変えたいと思い、大学卒業後も地域おこしに関わる仕事をしながら今のフィッシュレザーの事業化を目指しました。そして、現在のフィッシュレザーブランド「tototo」を立ち上げることになったのです。
どのような製造工程を経て、フィッシュレザーがつくられるのでしょうか。
まずは鮮魚店や水産加工会社から回収した魚の脂身を取り除き、塩漬けにして乾燥させます。その後、皮の中の油分を洗浄し、色を漂白して白くします。
その後、植物に含まれる成分であるタンニンを浸透させることで丈夫な革となります。最後に染色して、1枚のレザーが完成します。この工程全体を通して約1ヶ月かかりますね。
動物の皮を、丈夫でしなやかな革へと変化させるには「鞣し(なめし)」と呼ばれる作業を行います。この作業は主に「クロム鞣し」か「タンニン鞣し」という2通りの方法で行われています。
私たちが製造工程で特にこだわっているのは、このクロムという化学物質を使わないことです。クロムは廃棄されると有害物質になるため、環境に悪影響を及ぼすことがあります。代わりに植物性のタンニンを使用することで、コストはかかりますが環境に配慮したものづくりができるのです。
他の動物のレザーと比べて、質感や色などの違いはいかがでしょうか?
やはり魚ならではのウロコ模様が特徴ですね。たとえば、ブリのレザーは細やかなウロコ模様が生み出す、優しく滑らかな手触りと艶があり、逆にマダイのレザーは生命の力強さが感じられる、大きく凹凸のあるウロコ模様が特徴的です。見た目の部分でもそれぞれ異なる唯一無二の美しさがあるのです。
また、魚特有の繊維がクロスハッチ構造になっているため、力強く引っ張っても切れることはなく、魚の皮の薄さからは想像できないほどの強度があります。しかし、動物の革と比べるとフィッシュレザーは生地が薄いという特徴があります。そのままでは扱いづらいため、通常は裏地に布や紙、牛革などを貼り合わせて商品にします。一方、薄い生地なので家庭用のミシンでも縫いやすいというメリットもあります。
ひとえに魚といっても、種類によってレザーの見た目や質感が異なるということですね。他にもウツボやウナギ、アナゴなどツルツルとした質感の魚は、動物の革に近い感触になります。
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#Sustainability
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