

Articles
『名探偵コナン ハイウェイの堕天使』の警察服はどこまでリアル? 製造メーカーが語る制服の裏側
興行収入112億円を突破した、劇場版『名探偵コナン ハイウェイの堕天使』。神奈川県警の白バイ隊員である萩原千速をメインキャラクターとする本作には、多くの警察服が登場する。
普段目にすることが多い一方で、詳しく知る機会は少ない警察服。劇中でキャラクターが着用する制服は、実際はどう作られ、どのような機能を備えているのだろうか。
今回は、官公庁の制服を多く手がけ、全国の警察服を製造している新陽株式会社の倉持さんに、警察服の裏側を伺った。
厳重なセキュリティのもとで作られる警察服
最初に、警察服がどう作られているのかをお聞きかせください。
まず警察服は、デザインや使用する素材が法律ですべて決められています。現在の制服は平成6年に定められた法律にのっとったものです。その上で、都道府県ごとに一部のみ変更することが可能です。たとえば、警察服の上着は火災現場で燃えにくい「ウール」を使用する必要がありますが、暑い地域はウールだと着られないため、ポリエステルを混ぜて製造しています。
製造は都道府県単位で行っているのでしょうか。
そうですね。警察服にはいくつか種類がありますが、もっとも基本的な警察服の場合、まず都道府県から発注を受け、その後サンプルを作成します。確認が取れたら、3〜4ヶ月で納品し、入隊した警官全員に一式を「貸与」するという流れになります。価格は都道府県によって異なりますがそこまで高いものではなく、上着で2.5万、ズボンで1.5万円程度が多いです。
貸与ということは、警察官に支給するわけではないのでしょうか。
その通りです。すべて警察官に貸し出しているもので、辞職の際は返却することになります。貸し出した枚数なども記録されており、最近は流出防止のためのICチップを仕込んだ警察服の開発も進められています。非常に厳しく管理されているんですね。
流出すると犯罪に使われる可能性が高いため、セキュリティ面はかなり厳重です。製造する我々も厳しく管理されており、工場のセキュリティが万全な状態か、指定の方法で納品できるかなど、安全項目を満たしていないとそもそもメーカーとして警察服を作ることができません。
特に厳しいのは、服の肩につけられているエンブレムの管理です。エンブレムは警察服以外につけることは禁止されており、民間の警備服やドラマの衣装でも使用することはできません。常に金庫で保管し、製造から納品まで厳しく管理する必要があります。
また、このエンブレムは都道府県で異なり、各地域のシンボル等を基にしたデザインが用いられています。

エンブレム以外に、警察服ならではのポイントがあればお聞きしたいです。
見た目の違いでいくと、警察の制服はワイシャツのポケットの下の部分に縦に切り替えが入っています。これは警察服以外ではあまりない仕立て方なので、我々は偽物かどうかをよくここで見分けていますね。機能面のほうでは、警察官は民間人と違って拳銃を所持できます。そのため制服には「貫通孔」と呼ばれるポケットがあり、上着を着ていてもいざというときにすぐ拳銃が取り出せるようになっています。
その他にも、ポケット内に警察手帳を落とさないためのヒモが取りつけられていたり、現場で血が付着するのを防ぐため撥水加工されていたり、さまざまな工夫が施されています。
白バイ隊員服が忠実に再現されている、萩原千速の制服
ここからは『名探偵コナン』に登場する警察服についてお聞きします。まずは劇場版『名探偵コナン ハイウェイの堕天使』のメインキャラクターである萩原千速の制服です。

千速さんが着ている制服は「乗車服」と呼ばれるものです。白バイや車に乗る警察官のための特殊な制服ですね。
バイク転倒に備えた厚いパッドや、バイク乗車時に履くブーツもひっかけられるヒモなど、他の制服にはない機能がつけられています。

作中に登場する千速の制服と、実際の制服に違いはありますか?

見た目についてはよく再現されていると思います。あえて違う点を挙げるなら、右肩の白い飾りヒモは式典など正式な場以外ではつけないもので、普段見かけることは少ないです。
それから、実際の警官が外を出歩く際は、この制服に加えて「耐刃防護服」と呼ばれる鉄板が入ったベストを着る必要があります。これを上から着ると、より現実の白バイ隊員に近い見た目になると思います。

千速さんはタートルネックを着ていますが、これは実際の隊員も着るものでしょうか。

通常の警察服はインナーにはワイシャツを着ると決まっているのですが、乗車服の場合はご自身でインナーを準備します。なので実際の隊員でもタートルネックを着られる方はいると思いますし、スカーフで首を覆う方もいますね。
千速は腰のベルトにさまざまなアイテムを身に着けています。
これは「帯革」と呼ばれる荷物を運ぶためのものですね。現場に行く際は、両手を空けるためカバンではなく帯革に荷物をつって運ぶんです。運ぶのは警棒、手錠入れ、拳銃などで、千速さんも同じものを持っていますね。千速の制服は胸にも警部補を表す階級章がついています。
階級章は、職種と位を示すものです。すべての制服の胸に必ずつける必要があり、階級が変わればその都度つけ直します。今後は動きやすく、酷暑対策された警察服が主流に
続いては千速の弟で爆発物処理班の萩原研二です。

彼が着ているのは「出動服」と呼ばれるもので、機動隊などの特殊部隊の制服です。立てこもり事件のような凶悪な犯罪現場に突入する際に着るもので、歴史が長く、昔から同じデザインで統一されています。
『名探偵コナン』では、萩原研二など制服を着用しているキャラクターと、横溝重悟などスーツを着用する警官が登場します。実際の警官はどう使い分けているのでしょうか。

警察官は「交番や現場に出るときは制服を着なければいけない」という決まりがあり、それにしたがって着用しています。
一方、署内であれば制服を着る必要がないので、本部勤務の方はスーツが多くなりますね。

『名探偵コナン』には宮本由美・三池苗子のようなスカートをはいた交通課の女性警官も登場します。女性の制服は男性のものと異なるのでしょうか。

女性と男性で素材や作りを変えることはないですね。唯一違うのは、男女で慣習が違う「前たて(ボタンを左右どちらにつけるか)」です。
スカートの制服については、現在ではほぼ廃止になっています。かつては同じ警察官でも性別によって仕事が違ったのですが、現在は男女ともに現場に向かうため、活動しやすいスラックスが一般的となっています。
公安に所属する安室透(降谷零)の制服はいかがでしょうか。
公安の方は通常、制服を着ることはありません。外部だけでなく警察内部でも公安だと知られてはいけないので、基本スーツで活動しています。最初に貸与される制服自体は持っているのですが、公安に配属されて以降は制服を着る機会はないと思います。機動隊、交通課、公安など所属している部署によって、同じ警官でも制服を着る頻度に差があるとわかりました。現場の方はどうメンテナンスしているのでしょうか。
少し前までは3年に一度、一律で新しいものが貸与されていました。現在は隊員それぞれに予算が与えられており、その予算内で「今年はワイシャツを新しくしよう」などと本人が決められる形になっています。現場を見ていると警察服の消耗が特に激しいのは交番勤務の方々で、やはり毎日着ていることが大きいと感じます。
今後の警察服はどうなっていくのかお聞かせください。
ここ最近注目されるようになっているのは酷暑対策です。昨年から、ワイシャツよりも涼しいポロシャツタイプの制服が導入され、今後は現場でも普及していくと思われます。それから、通常の制服よりも動きやすい「活動服」と呼ばれる制服も人気が高まっています。活動服は裾の後ろ側がゴムになっているブルゾンタイプのもので、この服ならネクタイをしなくてよいということもあり、現場では制服よりも増えてきていますね。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
『名探偵コナン』で描かれている制服は、細部までよく再現されていると感じます。キャラクターたちが身に着けている帯革や階級章、そして都道府県ごとに異なるエンブレムなど、一つひとつに意味や役割があります。ぜひそうしたディテールにも注目しながら、作品を楽しんでみてください。ヘッダーキャプション:©2026 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
PROFILE
倉持 豊(くらもち ゆたか)
新陽株式会社で全国の警察官制服に携わり24年、官公庁を中心に、高機能・高性能な素材を使用した製品を企画から納品に至るまでトータルでサポートしている。好きな名探偵コナンのキャラクターは怪盗キッド。
Text by まいしろ












.jpg?w=328&fm=webp)

