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1%単位で処方を最適化! コーセーが挑む、iPS細胞を使った「究極のパーソナライズ美容」
大阪・関西万博で注目を集める「iPS細胞から作られたミニ心臓」。このiPS細胞の美容分野における実用化に向け、実証実験に取り組んでいるのがコーセーだ。自身の細胞から美容成分を作り出し、肌状態に合わせて1%単位で処方を調整する、前例のない構想である「究極のパーソナライズ美容商品」開発の裏側を、コーセーで本プロジェクトを担う大成宏樹さんに聞いた。
自分自身のiPS細胞を用いた「パーソナライズ美容商品」
昨年、iPS細胞を用いた「パーソナライズ美容商品」の開発に向けて、異業種の企業や医療機関との技術提携を発表されました。
はい、我々コーセーはこれまで幅広い化粧品群を開発してきました。そのなかで、本当の意味での“お客さま一人ひとりに合う”製品とは何かということ、さらに、ウェルビーイング領域も見据えた新たな価値創造を考えた結果、このプロジェクトは誕生しました。具体的には、どのようなサービスを提供するのですか?
お客さまご自身の細胞からiPS細胞を作製し、iPS細胞由来の美容成分を抽出します。そこにコーセーの化粧品技術を融合し、医療機関にて「美容商品」を最終的に調製・提供するサービスです。【パーソナル美容商品提供の仕組み】

資料提供/コーセー
今の時代、個人でもiPS細胞の作製が可能なんでしょうか?
技術の進化によって、従来数億円の作製費用がかかったiPS細胞も、数百万円の価格で製造することが可能となりました。個人向けのiPS細胞バンキングサービスも出始めています。ただし、iPS細胞の作製及び培養には高度な技術が必要ですので、この部分は専門性の高い企業と技術提携する形をとっています。医療機関との連携含め、一般的な化粧品の開発とはまったく違う試みですね。
確かに弊社の事業からすると、新たな挑戦ですね。その一方で、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)とコーセーは、2013年より共同研究を行ってきた経緯があるんです。iPS細胞を用いた皮膚研究には、すでに10年以上の実績があります。iPS細胞を用いた研究を通して、肌の老化プロセスに迫る
そんな背景があったのですね。では改めて、iPS細胞とはどのようなものなのか教えていただけますか?
iPS細胞は、すでに分化した人の体細胞を「初期化」した人工多能性幹細胞です。無限に増殖することが可能で、骨や筋肉などさまざまな臓器に分化できます。【iPS細胞とは】

資料提供/アイ・ピース社
大阪・関西万博で展示されている「拍動するミニ心臓」も、iPS細胞から生まれたんですよね。
そうですね。臓器の再生など、iPS細胞は医療分野での活用が期待されていますが、コーセーでは「美容分野における可能性」を多面的に探ってきました。そのひとつが肌の老化プロセスの研究です。肌の老化プロセス……! どのような研究か気になります。
一例として、同一人物の36歳~67歳の線維芽細胞(コラーゲンなどをつくり、肌を健康に保つ細胞)をiPS細胞によって初期化し、比較検証しました。元の細胞が何歳の時であっても、初期化した細胞は、老化の指標となる「テロメア」の長さが回復することが確認されました。さらに、細胞のエネルギー産生を担う「ミトコンドリア」の機能が向上することも分かっています。【iPS細胞を用いたコーセーの基礎研究例】

資料提供/コーセー
年齢に関わらず、細胞の若返りが可能ということでしょうか?
「実年齢が何歳であっても細胞の初期化が可能」というiPS細胞の特性が証明された形です。iPS細胞技術はタイムマシーンの様に年齢を遡り、受精卵に近い性質のまるで生まれたての0才のような細胞を沢山作ることができるということになります。ただし、この研究が即「人体の若返り」に繋がるかというと、まだまだ多くのハードルが存在するんですね。我々にとって重要なのは、このような研究の過程でiPS細胞のさまざまな知見を得たことです。パートナーシップから実現した iPS細胞抽出成分の活用
その知見が、今回の「パーソナライズ美容商品」に繋がるわけですね。美容商品について、詳しく教えてください。
まずお客さまには、医療機関で血液を採取していただきます。採取した血液中の体細胞から「アイ・ピース社」がiPS細胞を作製します。同社は世界各国の製薬会社などに、医療グレードのiPS細胞を提供する企業です。
資料提供/アイ・ピース社
完成したiPS細胞を培養するのが、アイ・ピース社のグループ会社「レジュ社」です。iPS細胞は増殖する過程で、成長因子などのさまざまな代謝物を放出するんですね。この代謝物中の有用成分を抽出したものが「iPS細胞抽出成分」です。
iPS細胞そのものを、使うわけではないんですね。
そうです。培養液から抽出された成分を使います。同様の成分はすでに存在していますが、レジュ社では培養期間や成分濃度を厳密にコントロールし、精製の過程を経て肌に有用なものを濃縮しています。
1%単位で処方を調整できる究極のパーソナライズケア
このiPS細胞抽出成分に、コーセーの化粧品技術を組み合わせている?
はい、最高峰ラインに相当する乳化技術など、最先端の化粧品技術を用いています。さらに特長的なのは、「その時の、その方に合った」処方を提案することです。一回一回処方が違うということですか?
お客さまは2ヶ月に1度医療機関を訪問し、肌状態を診察していただきます。さまざまな機器を用いて、水分量、たるみ、シワなどを多面的に分析し、最終的に医師のカウンセリングを経て、毎回その場で調合するんですね。処方は1%単位で調整できるので、組み合わせは無限といっていい。iPS細胞抽出成分自体もパーソナライズ素材ですが、処方においてもパーソナライズを目指しました。iPS細胞がもたらす未来のビューティとは
二重の意味で「究極のパーソナライズ」ですね。もっとも苦労された点とは?
数多くの課題がある中で、特に重視したのは安全面への配慮です。iPS細胞の作製、培養に関しては、厳密な管理を行う企業と提携し、完成品の美容商品に関しては、パッチテストなど一般的な化粧品の安全性テストを実施しています。最終的にドクターがその方の肌状態を確認するのも、安全性配慮の一環です。
二重三重の配慮を重ねているんですね。安全面ももちろん大切ですが、個人的には「効果」も気になります。
現在このサービスは、第1期の実証実験中で、エビデンスの報告にはもう少し時間が必要です。ぜひ、報告にご期待いただけたらと思います。最後にiPS関連事業の、今後の展望を教えてください。
まず、今回の美容商品に関してですが、現在は美容液を提供しており、今後はさまざまな剤型に広げたいと考えています。さらにiPS細胞事業全般を通じて、人生100年時代をより健やかで豊かに過ごせる未来を創れるよう、ロンジェビティ社会の実現に貢献していきたいですね。美容と医療の架け橋になるような、新規サービスとして育てていければと思っています。PROFILE

大成 宏樹(おおなり ひろき)
コーセー 経営企画部 新事業企画室
兼 研究所 研究戦略室所属
2008年入社。スキンケア製品などの開発に従事した経験を元に、サイエンスに基づいた美容理論の開発を手がける。2024年より経営企画部にて、新規事業の企画・推進を担当。提携企業と連携しながら、iPS細胞関連事業をはじめとする「未来志向の事業開発」に挑戦している。
Text by 宇野 ナミコ









