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愛着界隈

仮面舞踏会に誘われたら、どんな服を着る?秘密の一夜を共有するファッションの作法

2026.02.06
服を着ることを愛する人々のコミュニティを取材するスペシャルコンテンツ「愛着界隈」。今回は、どこよりも服が自分を語る場所へ出かけよう。そこは、仮面舞踏会──。素顔を隠し、本名を伏せて、見知らぬ相手と語り、ワルツを踊る。
©仮面舞踏会ポラリア
「仮面舞踏会ポラリア」は、そんな謎めいた夜会を現代のこの日本で続けている。会場にスマホは持ち込めず、腕時計もつけてはいけない。持ち物は仮の名前が書かれた「招待状」と、舞踏会のドレスコードに合わせた服とアクセサリーだけ──。
あなたはそこに何を身につけていくだろうか? ふだんは着ることのない絢爛豪華なドレスだろうか。それともお守りのようにいつも肌身離さないリングや髪留めだろうか? チケットが予約開始日に完売するという、憧れのパーティの主催者と参加者たちに取材した。

PROFILE

仮面舞踏会ポラリア

運営者・トキノネが2024年に開始した仮面舞踏会イベント。非日常の「居場所」を提供するべく、関東近郊を会場に開催を続けている。

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名前からも肩書からも自由な一夜限りの「界隈」

©仮面舞踏会ポラリア
「仮面舞踏会」は、もともと16世紀以降のヨーロッパ貴族社会で流行した特殊なパーティだ。ほとんどの仮面は宗教儀式とむすびついているが、仮面舞踏会はもっぱら享楽のための場所だった。
貴族たちは顔を隠すことで肩書を脱ぎ捨て、思う存分遊んだ。ファッションは人の姿を変え、心躍らせるものだが、その中でも特に仮面は欲望を解放する道具だっただろう──。では、21世紀の私たちにとってはどうだろうか?
「仮面舞踏会ポラリア」を主催する団体「トキノネ」はこう語る。
©仮面舞踏会ポラリア
「誰でも日常では、ペルソナという”見せる顔”を被っています。仮面舞踏会では、仮面をつけることで、日常のその顔をそっと外せる。私たちは仮面舞踏会を、そこから新しい自分を見つけられる場所にしたいのです」(トキノネ担当者)
ポラリアの構成はとてもシンプルだ。会場は千葉県にある美術館のホールや、埼玉県の結婚式場を貸し切り、夕方から夜の時間帯に行われる。会場の中心には舞台があり、周囲にいくつかの不思議な出し物がある。占いや、即興詩人、仮面をつけた自分を描いてくれる似顔絵描き......。
©仮面舞踏会ポラリア
それらを自由にめぐりながら、仮面をつけた人々が、一定の時間をそれぞれのペースで過ごし、そして解散する。では参加者はポラリアで何を経験したのか聞いてみよう。もちろん、仮面舞踏会へ着ていった服のことも。

参加者に届いた “非日常”への招待状

©仮面舞踏会ポラリア
今回、匿名で取材に協力してくれたのは男女それぞれ1名。Kさん(男性)は、2024年の秋にはじめてポラリアに参加した。きっかけは、何度か一緒に仕事をしたことがあるクリエイターからの紹介だった。
「どんなイベントなのか想像もつきませんでしたが、彼がすごく発想豊かなクリエイターだったので、『この人が薦めるなら面白いだろう』と申し込んでみたんです」(Kさん)
興味本位だったが、開催日が近づくにつれてだんだんと緊張してきた。1週間ほど前にポラリアから届いた招待状には、本名禁止のイベント中に使う「仮の名前」と、入場に必要な「鍵」が同封されている。そして、舞踏会のドレスコードも。ポラリアは開催回ごとに異なる「服の色」が設定される。
ポラリアの参加者あてに届く招待状。謎めいたプロローグも入っている ©仮面舞踏会ポラリア
「その回のドレスコードは白・黒・濃い青。せっかくだからふだんは着ないファッションを楽しもうと思いました。珍しい色ではないにもかかわらず......服を選ぶのにこんなに悩んだことはないですね(笑)。タキシードをレンタルしようかとも思いました」(Kさん)
考えたすえに、仕事着でもあるオーダースーツを着ることにした。ブラックのシャツを合わせ、首にはネクタイのかわりにブルーのスカーフを巻いた。
「会場に行ってみて、驚きました。ドレスコードの色に沿って、男性も女性も思い思いの服を着ているんです。特別にあつらえたプリンセスドレスや、着物の方もいました」(Kさん)
©仮面舞踏会ポラリア
仮面の向こうに非日常がある。着飾ったゲストたちに交じり、インスピレーションが湧くのを感じたという。もう一度ここに来ようと決めたKさんが、次にポラリアに参加したのは2025年の春だ。
「次のドレスコードは『緑』でした。困ったのは、緑色の服やアクセサリーを持っていなかったことです。ビジネスシーンでもなかなか身につけない色ですから。
でも偶然、父が古い緑のネクタイを持っていて、実家から借りることができたんです。コーディネートのポイントになるアクセサリーに悩みましたが、自分で作ることにしました。書店で見かけた美しい栞を組み合わせて......」(Kさん)
ポラリアで着用したネクタイと自作のアクセサリー(Kさん私物)
──もし仮面舞踏会がなければ、Kさんは本の栞の美しさに気づくことなどなかったかもしれない。素顔を隠し、装いで自分を表現するこのパーティは、訪れる人の感性を開かせてくれる。
もうひとり、Mさん(女性)は、2024年の「ポラリア」開始のころに参加した。
©仮面舞踏会ポラリア
「会場には男性よりも女性のほうが多くて、雑談したり、はじめてのワルツを踊ってみたりして、私にとっては落ち着く場所でした。あまり話が得意じゃない人でも、同じドレスコードで集まっているので会話をはじめやすいのもいいですね」(Mさん)
©仮面舞踏会ポラリア
Mさんにとっても、仮面舞踏会はファッションで語り合う場所だ。
「会場には衣装を自作して着飾る人もいましたが、私はバーニーズ・ニューヨークで買ったシンプルな黒のワンピースに、大好きなハンドメイドのジュエリーを選びました。どれもいつも身に着けているお守りのような存在です」(Mさん)
ポラリアで着用した作家もののアクセサリー。バングル:OLIMACHI、髪留め:Ayulry、チョーカー:Sugar Valentine、イヤリング:croix(すべてMさん私物)
特別な空間だからこそ、愛着あるものを静かにたずさえていたい人もいる。けれど、ちょっとした例外も生まれたという。
「ポラリアのためだけに買ったアクセサリーもあります。ドレスコードが『月』だったときに、月のかたちのバングルと髪留めを。実は、普段は月モチーフのアイテムをほとんどつけないんです。宝塚歌劇団のファンで、どうしても自分の『贔屓の組』のマークを意識してしまって......」(Mさん)
そう笑うMさんの話を聞いていると、服やアクセサリーは日常と非日常の世界をつなぎ、ともに行き来してくれる友人のような存在にも思えてくる。

いま「仮面舞踏会」を開演するということ

©仮面舞踏会ポラリア
いつもの自分からかけ離れて思いっきり目立ったり、自分だけがわかる好きなものを見つめなおしたり──。仮面舞踏会はファッションのさまざまな魅力がまじりあう、とても面白い“界隈”だ。インタビューの最後に、「仮面舞踏会ポラリア」主催のトキノネに話を聞いた。
「ポラリアは、もともとある人の誕生日を仮面舞踏会で祝うという、プライベートなパーティからはじまりました。当時から、着飾って集まる・スマホを持ち込まない・ワルツやコンサートがある、といった形式がすでに完成していました。それがとても面白い会になったので、トキノネという団体を立ち上げて展開することになったのです」(トキノネ担当者)
トキノネ ©仮面舞踏会ポラリア
取材に答えたトキノネのメンバーは、「いままで体験してきたイベントの中で、仮面舞踏会は最高レベルに満足度が高かった」と、前身の仮面舞踏会を振り返る。
ポラリアと名前を変えてスタートした当初は、静かな集まりだった時期もあったというが、SNSを中心に反響が広がっていった。思えば、匿名で参加し、スマホも持ち込めないイベントはとても拡散しにくいはずだ。それでも周囲に教えずにはいられないこだわりが詰め込まれている。
©仮面舞踏会ポラリア
「トキノネは、複数のクリエイターが集まって活動している団体です。空間やビジュアル、音楽など、それぞれの表現を持ち寄りながら、ポラリアという一夜の体験を形づくっています」(トキノネ担当者)
「仮面舞踏会」というインパクトの大きさに隠れて見えにくいが、ポラリアはトキノネの偏愛的ともいえる緻密な制作に支えられている。イベント告知から招待状の発送、当日の進行、終了後のダイジェスト映像まで、すべてのコミュニケーションを自前で設計・コントロールしている。
仮面はヴェネツィアの職人によるハンドメイドを現地で探し出して輸入している。招待状とともに参加者に届く「仮の名前」は約100種類、すべてに由来があるという。
それだけではない。ポラリアにはクリエイティブをまとめる裏コンセプトがある。
「ほんの一部しか見せてはいませんが、定例で開催している千葉と埼玉の会場ごとに『ある物語』が紐づいています。イベント内容や出し物は、すべてそのストーリーを表現したものです。開催回によってエピソードが変わるため、訪れるたびに違いがわかると思います」(トキノネ担当者)
©仮面舞踏会ポラリア
そう──。ゲストを悩ませ楽しませる「ドレスコード」も、シナリオの一部だ。開演中、そこに集まった人は気づかないうちに「ポラリア」というストーリーの一員になっている。
現代に蘇った仮面舞踏会は、一夜限りの出会いと別れを繰り返す。服を身に纏うことで、ひとときの物語を共有しながら……。

Text by GANTAN

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