

Articles
洗えて、型崩れしにくく、動きに馴染む:Right-on発“日本製ニット”の機能を解剖
株式会社ライトオン(以下、ライトオン)が2025年11月から展開を開始した「MADE IN JAPANニットシリーズ」。ファストファッションとは一線を画す品質と、手に取りやすい価格のバランスを追求したこのシリーズは、日本のニット産地が持つ高度な技術力の結晶だ。
本シリーズが追求したのは、単なる「良い素材」だけではない。「洗濯に強い耐久性」「型崩れしにくい形状安定性」、そして「動きに馴染む快適な着心地」──。 これら3つの機能を同時に実現するための素材設計と縫製技術について、株式会社ライトオン商品部生産管理の尾見紀明さんと、生産を担う株式会社マルキンの久保田真右さんに話を聞いた。
PROFILE
尾見 紀明(おみ のりあき)
株式会社ライトオン 商品部 生産管理チーム リーダー
2001年株式会社ライトオン入社。店舗を経て商品部に配属され、バイヤーやMDを経て現職。
PROFILE
久保田 真右(くぼた しんすけ)
株式会社マルキン 本社営業部 課長職
ニットメーカー4年勤務、ニット工場4年勤務を経て、2004年株式会社マルキンに入社。
市場ニーズとリードタイムへの回答としての「日本製」
アパレル業界において、企画から店頭に並ぶまでのリードタイムは常に大きな課題である。特に海外生産の場合、物理的な距離や通関手続きなどが障壁となり、市場のトレンドを即座に反映させることが難しい。ライトオンが今回あえて「日本製」に回帰した背景には、単なる原点回帰以上の戦略的な理由があったと尾見さんは語る。
「弊社ではこれまで、長いリードタイムを取って商品開発を行うことが一般的でした。海外生産の場合、平均して3ヶ月から4ヶ月、長いものでは半年ほどかかります。しかし、お客様のニーズをすぐに商品化するには、消費者との距離が物理的に近い日本での生産が有利だと考えました」
これに対し、生産現場を統括する久保田さんも、国内生産のスピード感を強調する。
「海外で作る場合、半年前に流行色などを予測して生産しますが、実際に店頭に出たときにはお客様が欲しい色とズレが生じることがあります。日本であれば、初回の生産こそ2ヶ月強かかりますが、追加のフォロー生産に関しては1ヶ月以内で対応可能です。これにより、お客様が欲しいものをタイムリーに供給でき、在庫ロスの削減にもつながります」
また、消費者の意識変化も開発の後押しとなった。現在ライトオンが目指すのは、「価格対価値のベストバランス」だと尾見さんは話す。
「日本製だから良い、という単純な話ではありません。今のトレンドやお客様が重視するポイントを商品に落とし込みながら、プライスとのバランスをどう取るか。そこが常に悩む部分であり、挑戦するところでもあります」
素材の選定から始まるエンジニアリングとカットソー発想の縫製
本シリーズの最大の特長は、素材の選定から縫製に至るまで、徹底的に計算されたエンジニアリングにある。まず注目すべきは、使用されている糸の選定だ。表地には「セミ梳毛(そもう)」と呼ばれる糸が採用されている。「冬のニット素材には、滑らかな『梳毛』と、ふっくらとした『紡毛(ぼうもう)』がありますが、セミ梳毛はその中間に位置し、上品な光沢がありながら柔らかく暖かいという、両者のいいとこ取りをしたような素材です」(久保田さん)

このセミ梳毛を表糸に使いつつ、裏糸にはポリエステル100%の糸をジャガード編みで編み込んでいる。これが、本シリーズの独特なハリ感と「軽く、洗えて、型崩れしにくい」という機能性を支える鍵だ。
「裏にポリエステルを編み込むことで、適度な厚みと伸度(ストレッチ性)が生まれます。着用時に生地が伸びるためストレスが少なく、軽量に仕上がっているのが特徴です。また、裏糸を変えることで、肌に触れる部分の強度や形状安定性も向上します」(久保田さん)

この素材構成により、家庭での洗濯が可能になった点も見逃せない。第三者機関による検査では、40度の温水で5回洗濯しても寸法変化や外観の変化が少ないという結果が出ているという。

「アクリル混の素材などは、着用を重ねるとリブが伸びてしまうことがありますが、今回の素材は検査結果も良好です。家庭で気軽に洗えるイージーケア性は、現代のライフスタイルにおいて必須条件だと考えました」(尾見さん)
そして、この素材の特性を最大限に生かすために採用されたのが、「ニットソー」と呼ばれるカットソー発想の縫製技術である。一般的なニット製品の多くは、パーツごとの形に編み上げる「成型編み」で作られるが、本シリーズでは編み上がった生地をパターンに合わせて裁断し、縫製する手法をとっている。
「成型編みの場合、機械の制約でシルエットのラインが出しにくいことがありますが、ニットソーであれば、型紙に合わせて裁断するため、繊細なカーブや立体的なシルエットを表現しやすくなります。また、生産スピードの面でも有利です」(久保田さん)
ここで重要となるのが「ロック始末」という技術だ。裁断したニット生地の端がほつれないよう、ロックミシンを使用して縫い合わせるのだが、単なる端処理ではない。
「ロックミシンはカットソーでも使われる機械で、生地の伸縮に追従して縫い目が伸び縮みするように調整されています。これにより着脱時や動作時は、カットソーのように動きに合わせて縫い目が伸縮するため突っ張り感がなくなり、快適な着用感が実現します。一方で、襟ぐりなどの重要な部分には、『リンキング』という編み目を一目ずつ拾ってつなぎ合わせる高度な職人技も併用しています。本縫いで縫い付けてしまうと縫い代がゴロつき、突っ張ってしまいますが、リンキングならスッキリと仕上がり肌当たりが良く、伸縮性も損なわれません」(久保田さん)

最新の素材設計と、効率的なカットソー縫製、そして伝統的なリンキング技術。これらを的確に組み合わせるハイブリッドなアプローチこそが、このニットの品質を支えているのだ。
現代のライフスタイルに馴染むボックスシルエット

こうした技術的な裏付けは、デザインにも色濃く反映されている。今回のシルエットは、男女問わず着用できる現代的なバランスを目指した。
「メンズLサイズの着丈を、一般的なものより少し短い約70センチに設定しました。その分、身幅にゆとりを持たせ、肩を落としたデザインにすることで、リラックス感と品格を両立させています」(尾見さん)
素材特有のハリによって、着用した際に身体のラインを拾いすぎず、立体的なフォルムが綺麗に出るのも特徴だ。
「尾見さんからいただいたスペックをもとに、サンプルを数回作り直し、フィッティングを繰り返しました。襟ぐりの詰まり具合や前下がりの微調整など、細部までこだわり抜いています」(久保田さん)
パターンの完成度を高めるための試行錯誤が、シンプルなデザインの中に隠されている。
新潟と大阪のニット産地で職人が担う、20以上の工程
本シリーズの生産を担うのは、日本有数のニット産地である新潟県と大阪府の協力工場だ。どちらも古くから繊維産業が盛んな地域であり、熟練の職人たちが在籍している。
一つのニットが完成するまでには、糸から編み地を作る「編み立て」、風合いを出す「洗い」、「裁断」、ロックミシンによる「縫製」、「リンキング」、そして「仕上げ」「検品」と、細かく分けると20ほどの工程を経る必要がある。
「たとえば、編み上がった生地はそのままではガサガサしているので、一度洗いをかけて風合いを出します。その後、裁断するために生地を綺麗に整える工程も必要です。どの工程も重要ですが、特にリンキングは熟練の技が必要です」(久保田さん)
機械化が進む現代においても、この工程だけは人の目と手に頼らざるを得ない。
「リンキングは本当に熟練した方でないとできません。高齢化や後継者不足が課題となるなかで、こうした技術を持った職人さんがいることは非常に貴重です。慣れた職人さんであれば、1着の襟ぐりを7〜8分で仕上げますが、それでも1日にできる数は限られます」(久保田さん)
自動化できる部分は機械に任せつつも、品質の要となる部分には惜しみなく人の手をかける。短納期で仕上げるためには、各工程の職人同士の連携と、個々の高い技術力が不可欠なのだ。
技術の集積が拓く、次世代のスタンダード
ライトオンが目指すのは、単なる懐古主義的な「日本製」への回帰ではない。日本の素材、機械、そして職人の技術を現代的なサプライチェーンに組み込むことで、新しい価値を創造することだ。尾見さんは、今後の展望について次のように結んだ。
「日本製であること自体が目的ではありません。日本の技術や素材、そして生産背景を活用することで、お客様にとって価値のある商品を適正な価格で提供する。それが結果として、日本のモノづくりを守り、次世代につなぐことになると信じています。長く愛用できる服を通じて、ライトオンの本質的な価値を伝えていきたいですね」
トレンドの移り変わりが激しいファッション業界において、「変わらない価値」を提供し続けること。それは、最新のテクノロジーと熟練の職人技、そしてそれをつなぐ企業の意志があって初めて実現する。ライトオンの日本製ニットシリーズは、そんなアパレルの未来に向けた一つの回答なのだ。















