Fashion Tech News symbol
Fashion Tech News logo
2022.09.14

アダストリアがメタバースに参入した背景と今後の展開とは

昨今では、ファッション大手のメタバース参入も珍しくない。1953年に紳士服小売店として創業し、グローバルワーク、ニコアンド、ローリーズファームなどを展開する株式会社アダストリアも、メタバースへの参入も開始したことで注目を集めている。
今回、同社がメタバース参入を決めたのは、7月23日〜8月21日に開催された阪急阪神ホールディングスが主催の「JM梅田ミュージックフェス2022 SUMMER」だ。このイベントは、大阪梅田の街がメタバース空間で再現され、来場者はアバターを通じて参加し、音楽ライブや出演者とのバーチャル握手会やトークショー等の各種イベントのほか、ブース展示、グッズ販売など、様々なコンテンツを楽しむことができるというものだ。
そのなかで同社は、「RAGEBLUE(レイジブルー)」と「HARE(ハレ)」のアイテムをアバター化。来場者に対して、無料で着せ替えできるアバター用の洋服として提供した。
日本を代表するファッション企業がどのような背景からメタバース業界に参入を決めたのだろうか。アダストリア広告宣伝部の島田淳史さんに話を伺った。

デジタル顧客接点とサービスを広げるために

島田さんによると、そもそも今回のメタバースへの参入は、同社の「成長戦略の一環」だった。
「2025年に向けた成長戦略の一つに『デジタルの顧客接点・サービスを広げる』ことを掲げています。アダストリアのミッションである『Play fashion!』という想いのもと、メタバースの世界でも、私たちの日常のようにファッションを楽しむきっかけを作るために、メタバースファッションアバターを制作いたしました」
アバター化にあたり、数々のファッションブランドを展開している中でRAGEBLUEとHAREを選んだ理由については、「すでにメタバースでファッションを楽しんでいるユーザー視点で、アダストリアブランドの中で魅力的に感じてもらえるコーディネイトを展開したいと考えました。アダストリアブランドの中でも、男女共に楽しめ、個性や特徴的なデザインを持つブランド、新しい試みをしているブランド、かつZ世代を中心とした若者に支持されるブランド、という観点でRAGEBLUEとHAREから展開する事を決めました」と語ってくれた。

業界の垣根を超えた企業とのメタバース戦略

「JM梅田ミュージックフェス2022 SUMMER」への参加は、バーチャル・エイベックス株式会社をパートナーに迎えることで実現した。
「ファッションと音楽は切っても切り離せない関係性であり、共に手を取り合うことで相乗効果が生まれ、お客さまにその楽しさを提供できるのでは」との期待から取り組むことになったという。
エイベックスと連携した背景には、同社が人と情報が行き交うオープンなコミュニティをつくり、新たな価値を生み出す「グッドコミュニティ共創カンパニー」を目指していることも挙げられる。
「グッドコミュニティづくりには業界を超えた他企業との連携や、業界内でも利益をシェアしながらファッション業界を盛り上げることが重要と考えています。今後も様々な事業者と連携しながら、メタバース領域で事業を拡大していきます」
今回のアバターアイテムの作成も、バーチャル・エイベックスとの共同で行われた。アイテムの作成においては、「洋服のテクスチャ感やレイヤー、デザインの再現性において、リアルに存在する洋服をどこまでのクオリティで再現するかが苦労した点」と島田さんは語る。
なぜなら、「精緻に作り込みすぎるとアバターの容量が重くなるので、クオリティを担保しつつ、容量が重くならないように工夫する必要があった」からだ。このようなバランスを調整しながらアバターは制作された。
今回のメタバース参入を皮切りに、メタバースファッションの商品提供、販売から展開を始めていきたいと島田さんは語る。
その上で、同社はメタバースの世界と生活者の日常が地続きにつながるものと考え、同社が持つ6つの資産「ブランド」「商品」「店舗」「スタッフ」「デザイナー、パタンナー」「自社ECプラットフォーム(.st)」を、メタバース上でも活かせる取り組みの実施を検討しているという。
将来的には、様々なメタバースプラットフォームへの展開、メタバース内でのコンテンツ提供、イベント開催、IP(intellectual property)などの展開が予定されているとのことだ。どのようにメタバースとの架橋を図っていくのか、今後の展開に注目したい。
この記事をシェアする