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2023.01.06

匿名アバターで参加できる新たな医療相談サービス:メタバースクリニック

最近では、テレビコマーシャルでも「メタバース」という言葉を耳にするようになり、少しづつ認知されるようになってきた一方で、自分とは関係のないサービスだと思っている人も多いかもしれない。
だが、メタバース上にクリニックがあると知ったらどうだろうか。手軽にスマホやパソコンで直接医療従事者と話せ、待合室での長い待ち時間とおさらばできるならば、使ってみたい人も多いはずだ。
そのサービスこそ、株式会社comatsunaの代表で精神科専門医の吉岡鉱平さんが開院した「メタバースクリニック」だ。これまでにないメタバースの利活用を開拓した吉岡さんに、その狙いを伺った。

既存のクリニックの課題を解決する

「メタバースクリニック」は医療従事者による医療相談、カウンセリング、座談会などを行うメンタル支援サービスだ。
だがクリニックといえども、投薬や診断、診察といった治療は行われていない。メタバースでの医療行為は法律的に認められないからだ。「治療ではなく、ヘルスケアコミュニティと考えていただければ」と吉岡さんは語る。
その言葉通り、「メタバースクリニック」には、座談会による育児やアルコール依存の悩みを打ち明けたり、ストレッチのような軽い運動や隠れ家サロンといった気軽に参加できるコミュニティが多数ある。
オンラインサービスのため、公式サイトかPeatixからチケットを購入してイベントに参加する仕組みになっているが、操作がわからなくても、公式サイトの問い合わせやTwitterからの連絡でも対応してくれるとのこと。
しかし、なぜ治療行為ができないとわかっていながら、メタバース上で開院する必要があったのか。この背景には、吉岡さんが医師として働いていた現場での違和感があった。
「医師として働くなかで、既存の医療システムでは、診察、診断、治療に比重が置かれ、患者さんの不安の軽減、孤独感の解消などまで手が回らないケースが多かったんです。また、心理的な安全性が保たれ、気軽に本音で話せる場所や、周りの人には言いづらい悩みや聞きづらい内容が気軽に相談出来る場所があればと感じていました」
たしかに、クリニックといえども待合室には多くの患者がおり、医師だけでなく看護師にも話を聞かれることを懸念する人も多いはずだ。それがプライベートな悩みであれば尚更だろう。
この課題を解決するために、実証実験として2022年2月からメタバースやアバターを利用した本サービスを開始した。精神科医以外にも、産婦人科医、総合内科医、麻酔科医といった医療従事者の協力を得て、メンタルヘルスにおけるメタバース活用の知見が蓄積されてきたとのこと。

アバターだからこそできること

では、メタバースを利用することのメリットはどのようなものがあるのだろうか。吉岡さんは大きく6つの利点があると語る。
①遠隔通信性
②アバターコミュニケーション
③アバター自由度
④立体視認性
⑤空間構築性
⑥インタラクティブ性1
ここでは、メンタル支援の観点から重要である、②アバターコミュニケーションと③アバター自由度を深堀りしてみたい。
アバターを利用することには、いくつかのメリットがある。匿名性があることは言うまでもないが、重要なのは「プレゼンス(一緒にいる感覚が得られやすい)」こと、そして「心理的障壁の低減」があるようだ。
研究調査によれば、アバターを利用したほうが発話量が増加することが確認されている2。また、アバターならば髪型や服装、姿勢などを気にする必要がないため、HPS(Highly Sensitive Person)という必要以上に相手の表情などを気にしすぎてしまう人にとっても、快適な空間を作り出すことができる可能性があるとのこと。
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