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2022.07.11

伝統工芸のDX化 着物・工芸流通プラットフォーム「ITOGUCHI」

伝統工芸のDX化に取り組む空の目テクノロジーズ株式会社は7月1日、日本初の着物・工芸の流通プラットフォーム「ITOGUCHI(糸口)」 を7月1日にグランドオープンさせた。
「ITOGUCHI」はメーカー、問屋、小売店がブランド・バイヤーとしてオンラインで24時間365日売買したり、展示会を開催できるプラットフォームである。伝統ある商品をオンラインで流通させる取り組みの展開に至るまで、どのような経緯があったのか。着物の制作・販売を手がけており、同サービスがスタートするきっかけとなった株式会社岡野の代表取締役・岡野博一さんに話を聞いた。

伝統文化を未来へ

岡野さんは26歳の時、本家が営んでいた1897年創業(創業126年)の博多織の織元を継ぎ、株式会社岡野として着物の制作・販売を手がけてきた。父も博多織の職人だったこともあり、「良いものを作って、伝統文化を未来へ、世界へつなぎたい」との一念からだったという。
そこで痛感したのは、着物業界の「流通形態の古さ」だった。たとえば、問屋は在庫を積極的に持たず、メーカーから委託で商品を借りて小売店に貸す方式が主流である。メーカーは小売店で商品が売れるまで代金を手にすることができないため、新しい発想で消費者ニーズを取り込んだ商品の開発に挑戦することが難しい状況にあった。着物の流通在庫は3〜4兆円とされており、換金を促進するためにも「デジタルの力で流通形態を改革したい」との思いを抱いてきたそうだ。
ITOGUCHIの特徴は主に3つある。一つ目はオンライン取引をメインに展開することでリアルな展示会に比べて大幅にコスト削減ができること。二つ目は「適材適所市」により、小売店・問屋・メーカーが抱えている在庫を、匿名でオンライン上で換金できること。それと同時に、参考小売価格を提示することで相場形成も進めている。三つ目は受発注・請求・支払など全ての業務がオンライン上で完結し、業務効率を上げることで、これまでの商習慣の改善を目指していることである。

着物・伝統工芸産業が抱える課題

着物産業と伝統工芸産業は1970年から縮小を続けている。コロナの影響で近年はさらに落ち込みが厳しくなっており、職人の仕事が減り、廃業、倒産するメーカーも増えているという。
「コロナ禍で夏祭り・茶会・冠婚葬祭など着物を着る機会が失われ、着物の購入が激減しました。さらに伝統工芸産業の現場は高齢化が進んでいることにより、ITリテラシーが低い方も多く増えています。そのためオンラインを活用した非対面でのコミュニケーションが遅れ、生産性が落ちたことも要因としてあります。」
さらに、デジタル化することで情報をスケルトン化し、ビジネスの透明性を高めることが求められていると岡野さんは話す。特に着物業界ではメーカー希望価格がほぼ存在しておらず、小売店がそれぞれ同じ商品にバラバラの価格設定をし、そこから割り引いて販売する二重価格が横行しているという。
「着物における二重価格は、ますます社会問題化すると思われます。さらに、買取が少なく委託方式での商取引が多いため、消化率の低下によりメーカー、問屋が多くの在庫を抱えなければならず、滞留した在庫の見切り販売を行い、自らの首を閉めるという悪循環に陥っている現状もあります。」
着物・工芸は分業が基本のため、一つの技術が失われるとものづくりができないというリスクもある。アフターコロナ、デジタル化社会に対応し、生産性を上げ、新しい市場をつくるためには、これまでの構造とは違う市場と真正面から向き合った新たな構造が必要だった。
「これまでの時価流通では、デジタル化時代において消費者からの信頼を勝ち取ることができません。事実、二重価格や価格の不透明さに対して消費者から多くの疑問が湧いており、着物産業に対する不信感が大きくなっています。それに対して私たちは相場流通を構築しています。ブランド(メーカー)が希望小売価格を設定した商品開発を行い、ITOGUCHIで限定的に展開することで、加盟店(小売店)も安心・安全の着物を消費者へ提供できることになります。さらに、3〜4兆円とも言われる流通在庫を適正価格で換金して、再投資の機会を増やします。ITOGUCHIが参考小売価格を示すことにより、相場構築に貢献します。業界の浄化を行い、消費者から支持されるサステナブルな産業にしたいと思っています。」
加えて、2025年に予定されている大阪万博の開催時に多くの着物姿が街に溢れることを目標に、全国で着物を着るリアルイベントも開催していくという。イベントを通じてものづくりの現場の人と着物を着る人が直接出会い対話することで、健全な情報の共有化が行われるようにしていく狙いだ。

100年先に工芸文化を伝えること

最後に伝統工芸のDX化について展望を聞いてみると、「伝統工芸産業の7割を占める着物(染と織)からスタートし、次に陶磁器などの全ての工芸へと広げていきたい」と話してくれた。伝統工芸産業の情報をデジタル化することで、海外へも容易にアクセスが可能となる。世界に工芸品を売るためには、現在の製品のままでは難しい場合もあるため素材提案や新商品開発を進めながら、世界のビジネスルールとコミュニケーションできるようにしていきたいそうだ。
「最終的には工芸の技術に基づいたブランドの構築ができればと思っています。デジタルでの流通の共有化にとどまらず、マネジメント、マーケティング、プロモーションなど共有化できるものは全て行い、生産性を上げることに注力したいと思っています。日本は文化大国として世界から尊敬される国になるべきだと思います。文化コンテンツは世界で大きな価値を産み、ビジネスとしても成立すると考えています。
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