同サービスは2023年8月にβ版が公開され、ファッション企業向け生成AI活用支援ツールとして、文章生成AI、画像生成AIの両方が使用可能となっている。
加えて、「AIエージェント機能」という「ファッションデザイナー」や「パタンナー」などの職種に応じたAIが用意されており、分野に応じた専門的な質問に対しても、より精度の高い回答が得られるようになっている。
現在、ワークスペース(ユーザーが、企業やチームなど、情報共有したい単位で「Maison AI」内に自由に作ることができる空間のこと)の数は1,300を超えるなど、業務効率化やアイデア出し、新規事業の創出などを目的とした導入が進んでいるという。
そこで今回、「Maison AI」を開発した経緯や活用状況、現在の課題、今後の取り組みなどについて、同社の代表取締役である上田徹さんに伺った。
ファッション業界向けにAIを応用
はじめに、「Maison AI」をスタートしたきっかけについて教えて下さい。
私自身、もともとAIに注目をしていて、OpenFashion社を創業した2014年頃にはUIデザイナーとしてAIスタートアップであるLeapMind社に関わっていた時期もあるなど、AIの活用を非常にポジティブな視点で捉えていました。その当時から「AIをファッション業界向けに使えないだろうか」と考えていたのですが、そもそも技術的に未成熟であり、AI人材も不足していました。
そのなかで、近年になって画像生成AIである「Stable Diffusion」や「Midjourney」などが登場するとともに、文章生成AI「ChatGPT」が発表されるなど、一気にマス向けのAI活用が広がりを見せてきました。そこで、ファッション業界向けにAIを応用する形として「Maison AI」を開発しました。
ファッション企業としては、どのような点に生成AIを活用したいと考えていたのでしょうか。
まずはサンプルデザインのアイデア出し、キャッチコピーの作成、ECサイトの商品タイトルや説明文の作成など、AIの活用については各社とも同様のイメージを持たれていた印象です。そのうえで、導入企業においては、特に若い社員などは自らプロンプト(AIとの対話において、ユーザーが入力する質問や指示のこと)を作成するなど、積極的に活用しているなと実感しています。
まだβ版ではあ りますが、月に一人当たりで15時間の業務が削減できた事例などが出てきています。
「Maison AI」の課題と可能性
「Maison AI」の導入を進めるなかで、課題としてはどのようなものが出てきましたか。
ある程度の企業規模になると導入後にどれだけ使用されるか、「浸透率」が課題だと感じます。そもそも、生成AIを利用している企業における社内の生成AI浸透率は10〜20%ぐらいと言われていますが、私たちのツールを導入している企業の浸透率も同じくらいだと感じています。若い方々は比較的使いこなせる傾向にあるのですが、やはりファッション業界は歴史のある企業が多く、年次が高い社員も多いので「社内に導入しても使いこなせないかも知れない」とおっしゃられるケースもありました。
具体的には、何がハードルになっているのでしょうか。
現時点では人間の方が優秀な部分もあるので、生成AIを使わずともわからないことがあれば同僚などに聞いて仕事をするケースも多く、「AIに考えさせること」ができなくてもいいという状況がありますし、「そもそもどういうプロンプトを打てばいいかわからない」という人も多くいます。