近年、さまざまなNFTプロジェクトがリリースされるなかで、アル株式会社によるNFT初心者に向けたサービス「sloth(すろーす)」が注目を集めている。slothとは、ナマケモノの「本体NFT」に、「衣装NFT」と「アイテムNFT」を着用させ、さらに着せ替えることで、自分だけのデジタルペットを楽しめる「きせかえNFT」だ。
ホルダーは購入したslothを着せ替えて一つのNFTとして販売できるだけでなく、衣装やアイテムも個別に売買できる。そして、クリエイターが衣装やアイテムをデザインして販売することで、収益を得ることができる機能の実装も予定している。現在、さまざまな個人クリエイターや企業とのコラボ衣装が発表されている。
また、slothは短期的で投機的なNFTを目指すのではなく、中長期的で「所有感を得られる」NFTの可能性を追求するところに特徴があり、現在主流のNFTとは異なる立ち位置となっている。
なぜ、このようなNFTを展開しようと考えたのだろうか。今回「sloth」の事業責任者である川地啓太さんに、プロジェクト立ち上げの経緯からサービスの特徴、今後の展開まで聞いた。
アル株式会社は、「クリエイティブ活動が加速する世界を実現すること」をミッションに、クリエイターを支援するサービスを開発している会社だ。
近年、NFTプロジェクトにも積極的に取り組んでおり、昨年9月にはslothに先駆けて初心者向けNFT「marimo」をリリースし、1万点を完売した。
marimoもまた、投機目的のNFTにならないように、育てる楽しみやホルダー同士のつながりを重視する取り組みを提示したことで、注目を集めた。slothはmarimoでの経験を生かしたサービスになっているという。
「marimoは、弊社がNFTに参入した初めてのプロジェクトで、NFTとして新しい価値を提供するような側面も持っていました。
現在のNFTは、短期的に利益を得ることが目的となっているプロジェクトが一定数存在します。もちろん、NFTの本質として、投機的な楽しみ方もあるので、その点を否定するわけではありません。
しかし、弊社としてはホルダーさんやクリエイターさんが幸せになれるNFTを考えたとき、それ以外の可能性も提案できるのではないかと思い、成長を長期的に楽しんでもらうNFTというコンセプトでmarimoを打ち出しました。
その結果、1万点のNFTが完売しました。さらに、われわれにとって想定外の発見がありました。ユーザーさんのNFTの楽しみ方として『所有感』が大きいことでした。
marimoのコンセプトは『育てる』だったわけですが、ユーザーさんの中には自分のmarimoに『marimo太郎』のように、独自で名前を付けて呼ぶ方が何人も見受けられました。そこで、われわれが公式に名前を付けられる機能をリリースしたところ、多くの方に使っていただき好評となりました。
marimoをご覧になるとわかりますが、シンプルなまんまるで、いわゆるクリエイターさんのアート作品のような表現のNFT作品ではないのですが、ホルダーのみなさんに所有してかわいがってもらえるという想像以上の反響がありました。
ホルダーさんはNFTを単に画像として保存しているのではない、と思いました。所有することに楽しさを感じていて、愛着も生まれている。そこに新しい可能性があるのではないかと考えるようになりました。
そこで、次回のNFTプロジェクトでは所有する楽しさをより実感できるデジタルペットにしたいと考えて、slothにたどり着きました」
slothの特徴である着せ替え機能としては、本体に4つの衣装やアイテムを身につけさせることが可能だ。それぞれ、Clothes(身体に着る服)、Head Items(頭につけるアイテム)、Hand Items(手に持つアイテム)、Foot Items(靴)となっている。
「着せ替えにした意図としては、クリエイターさんが着せ替え衣装やアイテムをつくることで、NFTで稼ぐ一つの手段にしたいと考えたからです。
NFTは、クリエイターさんと非常に相性のいいサービスです。しかし、NFTが分からない人にとってはまったく理解できず、始めるのが大変です。さらに、始めたとしても、長くやり続ける必要があり、そもそもゼロから何かをデザインすることのハードルも高いという課題もありました。
そこで、slothというナマケモノの衣装やアイテムをデザインするという形で、クリエイターさんに参入していただいています。そうすることで、slothというコンテンツとプラットフォームの知名度に乗った形でNFTを始められますし、公式が出している衣装やアイテムもデザインの参考情報になります。
slothは、クリエイターさんがNFTに参入する『最初のきっかけ』になりたいと考えています」
現在、slothはNFTの二次流通プラットフォームである「OpenSea」などにも出品可能となっているが、頻繁に取引されているわけではない。こうした現状も、サービスの設計上、望ましい状態にあると語る。
「現在のNFTは、二次流通が盛り上がり過ぎているなと感じています。その点に関して、われわれのプロジェクトとしては、衣装やアイテム自体の価値について意図的にレアリティなどで差をつけていません。それにより、ユーザーさんの中で、どれが高いとか安いといった反応が起きにくい設計にしています。その結果、slothの価格に一喜一憂する状況も発生しにくいと考えています」
今後、クリエイター向けに「誰でも自由に衣装やアイテムを出品できる機能」の実装を予定しているとのこと。目指しているのは、ナマケモノ本体の売買ではなく、着せ替え衣装やアイテムを気軽に売買して楽しむことで、クリエイターが稼げるようになる仕組みづくりだ。
「二次流通の楽しみ方には、美術品のような高額な作品の売買だけではなくて、メルカリで中古品を安価に売買するようなパターンもあると思っているので、そうした盛り上がり方をして、クリエイターさんの収益につながったらうれしいですね」
slothは4月26日、marimoでも好評を博した「名前をつける機能」をリリースするなど、所有感を得られる機能追加を行っている。今後は育成要素を増やして、デジタルペットとしての「命」も感じてもらえる設計にしたいという。
「昔、みなさんが『たまごっち』でキャラクターを育て、かわいがっていたような感覚で、ホルダーさんを中心にslothに対する愛着が生まれてきています。ここに育成要素を加えて、さらに長期的な楽しみへとつながればいいなと思います。
また、今後はホルダーさん同士でコミュニケーションが生まれるのはもちろんですが、AIを用いてslothと直接コミュニケーションできる世界もありうると思います。
実際に弊社代表けんすう(古川健介)が、TwitterでChatGPTを用いてslothと会話をする動画をつくったのですが、ユーザーさんの反応はとてもよかったです」
今後のslothは、新規の機能追加はもちろん、リアルイベントへの出展なども含め、さまざまな展開を行っていくとのこと。最後に、これまでの話を踏まえて、どのようなサービスにしていきたいのかについて聞いた。
「われわれとしては、あくまでslothを通じた世界で、どれだけクリエイターさんやホルダーさんを幸せにできるかが重要です。
弊社のミッションである『クリエイティブ活動が加速する世界を実現すること』を目指すうえで、中長期的なNFTプロジェクトとデジタルペットは、非常に相性がいいと思っています。
まずは、初心者の方々にとってNFTの入り口となる役割を、果たしていきたいと思います」
アル株式会社
「sloth」担当ディレクター
きせかえできるNFT「sloth」、成長するNFT「marimo」をはじめ、複数の新規事業開発を主導する。財務系コンサルティングファーム、アパレル系スタートアップを経て、2019年7月にアル入社。