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2022.07.30

今だからこそ「音楽とファッション」に「現代的視点」を重ねる意義がある(青野賢一)

ポピュラー・ミュージックとファッションの歴史的・文化的背景を、アイコニックなアーティストとともにたどりながら、ジェンダーなどの現代的な問題意識と重ねて考察した『音楽とファッション 6つの現代的視点』(リットーミュージック)が、7月23日に出版された。
音楽とファッション、そして現代的視点との関係性とは、どのようなものなのだろうか。著者の青野賢一に、本書に込めた想いと合わせて聞いた。
PROFILE|プロフィール
青野賢一

1968年東京生まれ。株式会社ビームスにてPR、クリエイティブ・ディレクター、〈BEAMS RECORDS〉のディレクターなどを務め、2021年に退社、独立する。音楽、ファッション、映画、文学、美術といった文化芸術全般を活動のフィールドに文筆家/DJ/クリエイティブ・ディレクターとして活躍している。著書に2014年の『迷宮行き』(天然文庫/BCCKS)がある。
https://twitter.com/kenichi_aono

単なる「歴史本」にしなかった背景

今回、音楽とファッションだけでなく、現代的視点も合わせた3つをテーマにした理由について教えてください。
これまで、ミュージシャンの音楽性やファッションに関する歴史を描いたり、解説したりすることについては、ある程度やり尽くされているところがあると思います。今更「この楽曲はこうだ」とか「あのファッションはこうだ」という話だけをしても、ピンと来ないのではないでしょうか。
その中で、「今この時代に、音楽とファッションに関する本を出す意義」を考えていったとき、読んだ人に少しでも問題意識を持ってもらえたり、「調べてみる」「聴いてみる」「観てみる」「着てみる」といったアクションのきっかけになったりする1冊を出したいなと思ったんです。
たとえば、音楽について考えてみると、社会生活を営む上での「現実逃避の手段」として楽しむ側面だけではなくて、「現実の社会と向き合うこと」に繋がる面もあります。もちろん、音楽それ自体をただ楽しむだけでも全く問題はないのですが、好きなアーティストのメッセージを見聞きして「自分と似ているな」と感じることや、彼ら/彼女らの行動を見て世の中について考えてみることも、大事だと思うんです。一つの側面として、「そういう見方もあるよ」と伝えることには意義があるなと思いました。
そう考えたなかで、今回選んだ6つの現代的視点は「ジェンダー」から「文化の盗用」まで、普遍的なものからリアルタイム性を重視したものまで選びました。その上で、「この視点に当てはまるミュージシャンは誰か」と考えるケースが多かったですね。
ですから、本書で取り上げているからと言って、必ずしも私個人が熱心に聴いているミュージシャンが選ばれているわけではありません。だからこそ、新しい発見がたくさんあったと思います。
執筆をする中で、特にどんなミュージシャンに発見がありましたか?
レディー・ガガやビリー・アイリッシュなどが面白いなと感じましたね。
彼女たちの楽曲については、選曲の仕事をする際に聴いてはいましたが、熱心なファンだったわけではありません。しかし、「ジェンダー」や「ルッキズム」というトピックを前提に調べていく中で、彼女たちのそうした問題に対する姿勢や発言と、音楽表現やミュージックビデオなどのビジュアル表現が、リンクしていることがわかりました。
ガガについて考えてみると、ミュージシャンと言われる人たちは感覚的に表現しているという軸で切り取られたり、実際にそういう人も多かったりする中で、「今の自分が何者であるか」を理解した上で行動していて、音楽からファッション、社会的な発言も含めて一貫性があります。そのため、説得力をもって受け止められているのだと思います。さまざまな活動が可視化される現代において、そこに自覚的であるところに、クレバーさを感じました。
ビリーについても、彼女自身は自分のやりたいことをやっているだけと語っていますが、同世代を中心にリアリティを持って受け取られているのは楽曲に加えて、全てを知られたくないという想いでルーズフィットの衣装を好んで着たり、ドレスをオーダーする際にはリアルファーを不使用にしていたりする姿など、彼女の態度からどういう人間であるかという信念が見て取れるからだと思います。それが、ひいては彼女のファンに社会的なアクションを促すことにも繋がっていると思いますし、とてもスマートな印象を持ちました。
第一章の「隠さざるを得ない気持ちと共鳴する音楽 ──ビリー・アイリッシュ」より
第一章の「隠さざるを得ない気持ちと共鳴する音楽 ──ビリー・アイリッシュ」より
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