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滝沢直己:「人」のためのファッションデザイン、そこでのテクノロジー

テクノロジーの進化や地球環境の変化によって目まぐるしく変化する、私たちの衣服/身体環境。そんな今日におけるファッションの「作ること・纏うこと・届けること」とは、どういった状況にあるのでしょうか?Fashion Tech Newsリニューアル記念特集として、衣服や身体をとりまく技術的/社会的状況の変容について、また、そこから描きだされる未来像について、5名の方々へのインタビューから考えていきたいと思います。
PROFILE|プロフィール
滝沢直己

ファッションデザイナー、NAOKI TAKIZAWA DESIGN INC. 代表。ISSEY MIYAKE のクリエイティブディレクターを経て2007年に独立。2010年から美智子上皇后陛下の衣装デザインを担当。2011年よりユニクロのデザインディレクターに就任し、2014年からはスペシャルプロジェクトのデザインディレクターとして活動している。2007年フランス芸術文化シュバリエ勲章受章。2009年東京大学総合研究博物館/インターメディアテク寄附研究部門特任教授に就任(2013年まで)。2018年に代官山ヒルサイドテラスに「NAOKI TAKIZAWA FITTING ROOM」をオープン。

今日のファッション文化、および衣服や身体を取り巻く環境

エンターテイメント化するファッション

ファッションを流行服のような感覚で捉えるとすれば、今のファッションの置かれている状況はもうエンターテイメントですよね。例えばラグジュアリーブランドでは、顧客を飛び越えて、K-POP等エンターテイメント業界をメディアとして利用している。いわゆるラグジュアリーブランドがなぜ、そういったアーティストに服を提供するかというと、その情報発信力を期待してるわけです。そうすると、ファッションの在り方は個人のものというより、ひとつのメディアとしての広告宣伝となっていく。
昔は服が良いからお客さんが買っていたけれど、今は「誰が着ているか」というところが重要です。ファッションショーに行っても、Instagramに出てくるのはどんな服だったかというよりも、誰が来場していたか。誰がSNSで発信していたか?というように、購買理由というのが全く変わってきていて、これはもうエンターテイメントのひとつという位置づけになったと僕は思います。ファッションという言葉をどう捉えるかといったら、クチュールとか懸命にコツコツと服を作るような姿は別の世界の話になって、もう得体の知れないものになっている。あらゆるところでお金の臭いを感じるし、やっぱり大資本がないとやっぱりあれだけのパワーは発揮できない。

イメージの世界と実体的な服作り

本当に20年前のファッションとは、全く違ったものになってきていると思います。ただ一方で、「服作り」という面では非常に苦しみながらも志高くやっているデザイナーたち、職人さんたちも存在している。しかし今、そういった人たちが評価されてるかは疑問です。ファッションがイメージの世界になってきて、実質的な服作りが疎かになっているということを今、すごく感じています。
でもそれは、必然的だとも思います。これまで欧米のファッションショーで見る服というのは、まずどちらかと言うとデザイナー個人や、ブランド自体の主張の服作りをされてきた。「私はすごいでしょ」とか「こんな発想ができるんだよ」というアプローチです。それが悪いと言ってるわけではなく、そういった刺激を発信する人がいて、メディアが作ったトレンドストーリーをそれぞれの熱狂的なファン、顧客が市場を盛り上げてきたわけですが、今日はそれだけではなくなってきています。前向きに捉えると、ファッションが楽しくなってきて、より庶民性が出てきたということ。ただ同時に、全てが泡の世界のようで後に何が残るのかが疑問です。もしかしたら残らなくてもいいのかもしれないけれど。
純粋な伝統的服作りや技術は消えていくものもあるけれど、「ファッション」は本質的な衣服に形にならない付加価値という衣を纏いながら、常に変化し進化している。今日のファッションという意味は、明日は違う意味の現象を生み出していくものと実感しています。

「人」のための服作り

ユニクロの仕事で「ライフウェア」という言葉の誕生に立ち会えました。ファッションの中に新しいジャンルを作るってすごいことだと思いました。それまでは自分の創造性とか自分の力、自分達の技術を皆さんに示そうとすることに懸命で、みんなのための服と言っても手に入れられる人はひと握りの人たちで、選ばれた人たちのために作っていたと思います。

ところが逆にユニクロでは、「自分」はなくて「お客様」しかない。もちろん自分独自の美意識はあるけども、「自分が」ではなく、「あなたに」で作っていて、それが本当の意味で「デザイン」ということだと気づきました。寒さや暑さからできるだけ快適にしようとか、相手のために何ができますかというところからすべてのデザインが発生している。

それはすごく本質的なデザイン、デザインの原型だと思います。また東レ社等の企業とのパートナーシップにより高機能繊維のような高度なテクノロジーを基盤にして作られてるというのも重要で、それがいわゆるファストファッションとは違った分野であるところだとも思います。

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