Fashion Tech News symbol
Fashion Tech News logo

蘆田裕史「言葉とイメージ:ファッションをめぐるデータ」

Fashion Tech Newsでは多様な領域からゲスト監修者をお招きし、ファッションやテクノロジーの未来について考えるための領域横断的な特集企画をお届けします。第2弾はファッション研究者/京都精華大学デザイン学部准教授の蘆田裕史氏を監修者に迎え、「言葉とイメージ:ファッションをめぐるデータ」をテーマに5つの記事をお届けします。
今年2月に『言葉と衣服』を刊行された蘆田氏とともに、現代のファッションにおける言葉とイメージの経験について、さらにファッションを取り巻くデータの性質、そしてそれらがファッションの解釈に与えるか/与え得るかを、実践・研究・創造からの視点も交えながら考えていきます。
PROFILE|プロフィール
蘆田裕史

1978年生。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程単位取得退学。京都服飾文化研究財団アソシエイト・キュレーターなどを経て、現在、京都精華大学デザイン学部准教授/副学長。専門はファッション論。著書に『言葉と衣服』(アダチプレス、2021年)。訳書にアニェス・ロカモラ&アネケ・スメリク編『ファッションと哲学』(監訳、フィルムアート社、2018年)などがある。ファッションの批評誌『vanitas』(アダチプレス)編集委員、本と服の店「コトバトフク」の運営メンバーも務める。

「言葉とイメージ」からファッションを考える

ロジカルにファッションを考えるために

僕の基本的な問題意識として、ファッションをどれだけロジカルに捉えられるかということがあります。ファッションを学問として成立させるには、ロジカルに考えなければいけません。Fashion Tech Newsの大きなテーマのひとつであるテクノロジーは工学的なものなので、問題意識を共有できるのかなと思っています。ファッション業界のなかには、ファッションを感覚的なものと捉えている方もいるかもしれませんが、たとえば教育のことを考えてみると、感覚的なものを教育するのは難しいですよね。
学校教育だけでなく、会社で先輩が後輩を、上司が部下を育てることを考えても同じです。教えるためには言語化が必要ですし、「私はこれがかわいいと思う」と言っても、そこに論理がなければ相手に伝わりません。データサイエンスはこれまで感覚的に捉えられてきたことに論理や根拠を与えていくものだと思っています。そういった意味では、Fashion Tech Newsで扱っているテクノロジーやデータサイエンスの問題は、教育や文化につながる話でもあります。
今回のテーマ「言葉とイメージ:ファッションをめぐるデータ」は、テクノロジーだけに関わる話であるというよりも、ファッションを文化として考える時にも必要なのではないかと思っています。

言葉とイメージの相補性

言葉とイメージは相補的なものだと思っています。言葉ですべてを説明することもできませんし、イメージですべてを伝えることもできません。言葉とイメージにはそれぞれ得意な領域がありますよね。たとえば、今僕が着ているジャケットにボタンが3つついていることについて、どんなボタンが、ジャケットのどこに、どのような間隔でついているか、言葉で説明するのは難しい。この場合、絵で描いたり写真を見せた方が伝わりやすいですよね。
一方、視覚以外を働かせるような事象、たとえば布が柔らかいということを伝えようと思ったときに、イメージによるコミュニケーションは難しいですよね。言葉であれば「柔らかい」の一言で終わります。視覚を伴わないもの、抽象的・概念的な事柄の説明は言葉の方が得意です。味覚や聴覚に関わることもそうですよね。味を説明するのには視覚的なイメージを使うよりも、言葉で甘みや酸味を説明する方が確実に伝わりやすい。言葉とイメージは対立するというよりも、相補的なものです。

ファッションをめぐる言葉

「ファッション」と「モード」

大学院で修士論文を書くときに僕が直面した問題は、「ファッション」と「モード」はどう違うのか、ということです。たとえば日本におけるファッションの研究を牽引してきた鷲田清一さんの著作やKCI(京都服飾文化研究財団)の展覧会で、「モード」「ファッション」というふたつの言葉がよく出てくるのですが、定義がきちんとされていないんじゃないか、と感じていました。コミュニケーションにおいては、使われている言葉の定義が共有されていなければ、話が通じないですよね。
そのことは論文でも同様です。書き手と読み手がコミュニケーションを取ることができなければ、論文の内容が伝わりません。ですので、まず言葉の定義をしないといけないとずっと考えていたのですが、修士課程のときにはうまく定義することができませんでした。そう考えると、20年くらい前からずっと言葉の定義にとらわれ続けているのだと思います。
1 / 4 ページ
#Recommendation
この記事をシェアする