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【鼎談】ZOZO研究所×蘆田裕史「データサイエンスとファッション文化」

ファッション研究者の京都精華大学デザイン学部准教授・蘆田裕史氏とお送りする特集企画「言葉とイメージ:ファッションをめぐるデータ」。今回は、ファッションの数値化をミッションに掲げるZOZO研究所のメンバーと共に、ファッションの法則化について議論していきます。
ファッションを解釈するときの「言葉」の性質、データサイエンスにおける対象としての特徴といった視点から、ファッションをめぐる言葉とデータについて考えていきます。
PROFILE|プロフィール
蘆田裕史

1978年生。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程単位取得退学。京都服飾文化研究財団アソシエイト・キュレーターなどを経て、現在、京都精華大学デザイン学部准教授/副学長。専門はファッション論。著書に『言葉と衣服』(アダチプレス、2021年)。訳書にアニェス・ロカモラ&アネケ・スメリク編『ファッションと哲学』(監訳、フィルムアート社、2018年)などがある。ファッションの批評誌『vanitas』(アダチプレス)編集委員、本と服の店「コトバトフク」の運営メンバーも務める。

PROFILE|プロフィール
中村拓磨

早稲田大学大学院先進理工学研究科電気・情報生命専攻修士卒。2016年より株式会社VASILYにてデータサイエンティストとしてファッションアプリのデータ分析業務を担当。同社の買収を経て2018年にZOZO研究所に入所。深層学習を用いたファッション画像の研究や推薦アルゴリズムの開発を担当。

PROFILE|プロフィール
平川稚菜美

九州工業大学工学部卒。表情認識の研究に従事。iOSアプリなどのエンジニアを経て2018年にMLエンジニアとしてZOZO研究所に入所。現在は計測データやファッション画像の調査・分析を担当。

「言葉とイメージ」からファッションを考える

研究対象として敬遠されてきた「ファッション」
蘆田2月に出版した『言葉と衣服』という本では、ファッションをめぐる言葉の定義に焦点をあわせています。たとえば、コレクションで発表される服に対して「この服はとてもエレガントですね」みたいな言い方がされることがありますが、そもそもエレガントってどういう意味なのか、はっきり定義されていません。もちろん辞書的な定義はあるのですが、ファッションの文脈ではただ、「布がヒラヒラしていて丈が長い」くらいの意味で使われていたりすると思うんです。そういった曖昧な言葉を定義しようと試みています。そのために、用法の歴史的な変遷や作り手の言葉の使い方などを紐解いていこうとしています。
情報系の研究者は、おそらく人文系の研究者やデザイナーのような人たちとは違った視点を持っているんじゃないかと思っています。その一方で、中村さんの人工知能学会への寄稿「私のブックマーク:ファッションと機械学習」で、情報系の分野でもファッションというドメインは対象としては敬遠されてきたと書かれているのを見ると、似ている部分もあると感じました。まず、みなさんがなぜ研究対象としてファッションを選んだのかを教えていただけますでしょうか。
中村僕の興味はファッションにまつわる現象よりも、ファッションのデータ構造やコンピューターにおける表現方法の確立です。人が服を着るという現象に対してどうこう考えるというよりは、無機物がおしゃれしたら面白いんじゃないかと。仮に機械やコンピュータが、おしゃれの概念を計算できるようになれば、それによって人の服の選択の幅も広がっていくと思います。そのためにコンピュータでファッションというものを表現できるようにならないといけません。まずはデータとしてどう扱うべきかを考えているところです。
服というのは、まず見た目が大事で、ビジュアルの説得力が何よりも重要です。そういう意味では、画像処理や画像認識技術と非常に相性が良いと思われます。加えて、服の特徴を説明するディスクリプションも多様にあります。また、ファッションにおけるトレンドという概念も、時系列解析を使うことで上手く説明できるのではないかと。そう考えると、ファッションという対象は機械学習の要素を色々と含んでいるように見えます。自分は元々、機械学習が好きだったので、ファッションをターゲットにした研究は飽きることはないのではないかなと思って始めました。
平川私は日常の中で抱いていたファッションに対する疑問を、技術を使って解消したいという思いが始まりでした。数学的な法則が裏にあるのではないかということを、自分で確認してみたいと思いました。そのために画像処理であったり、データから人物の特徴などをグルーピングしたり、そうやって法則を見つけようと試行錯誤しています。
ファッションと企画学習の相性
蘆田データサイエンスのことが全くわからない素人からの質問で申し訳ないのですが、ファッションが機械学習や画像認識と相性がいいという話をもう少し詳しく伺いたいです。服って、丈がちょっと短くなったり、シルエットがちょっと大きくなったりするだけで印象が結構変わりますよね。また、服はどうしても人間の体に合わせるものなので、トップスであれば頭を入れる穴と腕が二本通る穴が必要といったように、形がある程度決まってきます。
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