2021.07.02

【鼎談】ZOZO研究所×蘆田裕史「データサイエンスとファッション文化」

#特集002「言葉とイメージ:ファッションをめぐるデータ」
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ファッション研究者の京都精華大学デザイン学部准教授・蘆田裕史氏とお送りする特集企画「言葉とイメージ:ファッションをめぐるデータ」。今回は、ファッションの数値化をミッションに掲げるZOZO研究所のメンバーと共に、ファッションの法則化について議論していきます。

ファッションを解釈するときの「言葉」の性質、データサイエンスにおける対象としての特徴といった視点から、ファッションをめぐる言葉とデータについて考えていきます。

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蘆田裕史

1978年生。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程単位取得退学。京都服飾文化研究財団アソシエイト・キュレーターなどを経て、現在、京都精華大学デザイン学部准教授/副学長。専門はファッション論。著書に『言葉と衣服』(アダチプレス、2021年)。訳書にアニェス・ロカモラ&アネケ・スメリク編『ファッションと哲学』(監訳、フィルムアート社、2018年)などがある。ファッションの批評誌『vanitas』(アダチプレス)編集委員、本と服の店「コトバトフク」の運営メンバーも務める。

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中村拓磨

早稲田大学大学院先進理工学研究科電気・情報生命専攻修士卒。2016年より株式会社VASILYにてデータサイエンティストとしてファッションアプリのデータ分析業務を担当。同社の買収を経て2018年にZOZO研究所に入所。深層学習を用いたファッション画像の研究や推薦アルゴリズムの開発を担当。

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平川稚菜美

九州工業大学工学部卒。表情認識の研究に従事。iOSアプリなどのエンジニアを経て2018年にMLエンジニアとしてZOZO研究所に入所。現在は計測データやファッション画像の調査・分析を担当。

「言葉とイメージ」からファッションを考える

研究対象として敬遠されてきた「ファッション」
蘆田:

2月に出版した『言葉と衣服』という本では、ファッションをめぐる言葉の定義に焦点をあわせています。たとえば、コレクションで発表される服に対して「この服はとてもエレガントですね」みたいな言い方がされることがありますが、そもそもエレガントってどういう意味なのか、はっきり定義されていません。もちろん辞書的な定義はあるのですが、ファッションの文脈ではただ、「布がヒラヒラしていて丈が長い」くらいの意味で使われていたりすると思うんです。そういった曖昧な言葉を定義しようと試みています。そのために、用法の歴史的な変遷や作り手の言葉の使い方などを紐解いていこうとしています。

情報系の研究者は、おそらく人文系の研究者やデザイナーのような人たちとは違った視点を持っているんじゃないかと思っています。その一方で、中村さんの人工知能学会への寄稿「私のブックマーク:ファッションと機械学習」で、情報系の分野でもファッションというドメインは対象としては敬遠されてきたと書かれているのを見ると、似ている部分もあると感じました。まず、みなさんがなぜ研究対象としてファッションを選んだのかを教えていただけますでしょうか。

中村:

僕の興味はファッションにまつわる現象よりも、ファッションのデータ構造やコンピューターにおける表現方法の確立です。人が服を着るという現象に対してどうこう考えるというよりは、無機物がおしゃれしたら面白いんじゃないかと。仮に機械やコンピュータが、おしゃれの概念を計算できるようになれば、それによって人の服の選択の幅も広がっていくと思います。そのためにコンピュータでファッションというものを表現できるようにならないといけません。まずはデータとしてどう扱うべきかを考えているところです。

服というのは、まず見た目が大事で、ビジュアルの説得力が何よりも重要です。そういう意味では、画像処理や画像認識技術と非常に相性が良いと思われます。加えて、服の特徴を説明するディスクリプションも多様にあります。また、ファッションにおけるトレンドという概念も、時系列解析を使うことで上手く説明できるのではないかと。そう考えると、ファッションという対象は機械学習の要素を色々と含んでいるように見えます。自分は元々、機械学習が好きだったので、ファッションをターゲットにした研究は飽きることはないのではないかなと思って始めました。

平川:

私は日常の中で抱いていたファッションに対する疑問を、技術を使って解消したいという思いが始まりでした。数学的な法則が裏にあるのではないかということを、自分で確認してみたいと思いました。そのために画像処理であったり、データから人物の特徴などをグルーピングしたり、そうやって法則を見つけようと試行錯誤しています。

ファッションと企画学習の相性
蘆田:

データサイエンスのことが全くわからない素人からの質問で申し訳ないのですが、ファッションが機械学習や画像認識と相性がいいという話をもう少し詳しく伺いたいです。服って、丈がちょっと短くなったり、シルエットがちょっと大きくなったりするだけで印象が結構変わりますよね。また、服はどうしても人間の体に合わせるものなので、トップスであれば頭を入れる穴と腕が二本通る穴が必要といったように、形がある程度決まってきます。

たとえば美術作品であればもっと制限なく作れると思うんですが、服は人間が着て生活する道具なので、形や素材の制限がかなりあります。言い方を変えると、服って個体間の差異があまりはっきりしていないように思うんです。それでもなお画像認識と相性がいいものなんでしょうか?

中村:

面白くない答えになってしまうかもしれませんが、データ次第です。たとえば全身スナップ写真における数センチの差異というのは、信号として非常に微弱なので、違いを見出すのは難しいのではと思っています。

ただ、人が見たときにその差異に気づくことができれば、差があるということを追加情報として与えることができます。そうすることにより最初は見えなかった差異がだんだん際立ってきます。なるべく詳細なデータを大量に集めることが肝になるかと思います。

蘆田:

その違いというのは、データを学習させる人間がある程度あたりをつけないといけないのか、違いの識別もコンピュータに任せられるものなのか、どちらなのでしょうか?

中村:

最終的に人間が利用することを想定するのであれば、人間が与える方が確実だと思います。人間が解釈できるような判断でなければ機械としては使いづらく、あまり役に立ちません。なので、なるべく人間が違いの情報そのもの、もしくはヒントを与えてあげるということが必要になってくると思います。

画像認識から捉える「ファッション」

「ファッション」の何に着目するか
蘆田:

おふたりはどんなところに着目して服を見ていますか? たとえばファッションデザイナーであれば、服をシルエットで印象が作られるものと考える人もいれば、フリルやリボンなどの装飾を重視する人もいるし、素材にこだわる人もいたりします。

中村:

自分のアプローチとしては、あまり個別の特徴に注目せず、与えられた情報を公平に使うことが多いと思います。基本的には、差異の発見に寄与する特徴も機械が自動的に獲得してくれることを期待しています。

平川:

今あるデータから何が読み取れるかを考えることが大きいですね。私は調査リリースという画像からのトレンドの分析調査を担当していて、画像から読み取れるトップスとボトムスの割合や、何年でその流行が変わっているかを分析してきました。画像から洋服の情報だけでなく身体的な情報も一緒に取ってきて判断するような進め方をしています。

蘆田:

画像から情報を読み取るときに、衣服や服装をどんな要素から構成されていると考えるかで、読み取ることのできる情報が変わってくると思います。たとえば、今の平川さんのお話だと、丈のバランスを服装 —つまりコーディネート— の重要な要素として見ているという話ですよね。

僕は今、大学のファッション科で「デザインとは何か」を教えているのですが、自分が作るものは、それがどんな要素から構成されているのかを最初に認識する必要があると話しています。目に見えるもの、触れられる実体を持つものもひとつの要素だし、色や柄、素材といった概念的あるいは抽象的な構成要素もあれば、値段や商品名といった要素もある。各要素の重要度はその人の立ち位置 —デザイナー、パタンナー、マーケターなど— によって変わります。

そういったことを踏まえると、平川さんの場合、コーディネートや髪型に関しては「丈」が重要な構成要素としてあるということなのかなと思いましたが、他にも重要なものはありますか? また、中村さんはいかがでしょうか?

平川:

服の形にはならないかもしれないのですが、色について関心を持っていますね。同じ色を使うにしても、それらの割合によってコーディネートの雰囲気は変わるので、単色の色検索だけでは補えないような色のリッチな検索や推薦を考えています。

中村:

僕がコーディネートの自動生成問題に挑戦したときは、商品画像を要素にしました。入力したのは画像だけです。何色であるとか、どのブランドであるとか、そういった情報は一切与えず服の画像だけを使って自然なコーディネートが作れるのか、という問題を解こうとしました。

原始的な手段で解いてみるということを最初は意識します。その結果を見て、例えば組み合わせがいまいちであったらブランドを足してみる、その都度必要と思われる要素を付け足していくことになるかと思います。

「ファッション」の法則の難しさ
蘆田:

平川さんは「ファッションにも数学的な法則があるんじゃないか」という疑問から出発したとのお話がありましたが、現時点でのお考えで、数学的な法則はありそうでしょうか?

平川:

ファッションから少し外れるのですが、計測データを扱う上で難しいなと思うことがあります。同じ計測値だからといって同じ商品を好むわけではないので、身体的要素を好みに反映させるのは難しいなと感じます。こういった相関関係から数学的法則を見つけるのは工夫が必要ですね。

蘆田:

なるほど。すごく雑な質問になりますけれども、「スタイリストによるオシャレの法則」みたいなもので、○○と××の割合を7対3にするとちょうどいいみたいなものがありますよね。そのような形で、数学的な法則とまではいかなくても数値化して何か —「おしゃれに見える」とか「売れる」とか— を提示するようなことはできるのでしょうか?

平川:

そうですね、すでに存在する法則やルールを数式で定義するのは一番シンプルなパーソナライズです。骨格診断やパーソナルカラーのような誰かが決めた基準を数学の問題として扱って、あなたにはこれが似合いますよということは出来ると思います。ただ、その法則に従って薦められた商品をユーザーさんが好むかどうかは別の問題ですね。

蘆田:

なるほど。そういうとき、「似合う」という表現が適切なのか、「今の時代であれば、これが売れていますよ、流行っていますよ」みたいな表現がいいのか、どちらなんでしょう。というのも、「売れている」というのは事実として言えますよね。それこそ数字で出せる。「似合う」というのは何かしらの指標で数値化できたとしても、「解釈」の入る余地が大きいです。それが趣味嗜好みたいなものだと思いますが、「事実」ではなく「解釈」が入る余地があるものを、似合うという言い方が出来るのかと疑問に思いました。

平川:

基本的に、法則として私たちが期待するのは、もちろん流行り廃り関係ない「似合う」であって欲しいですけど、やはりデータというのは、今流行の売られている服に依存しているので、お薦めした商品がそのままずっと似合うということはなく、何年後かに法則自体が変わっていることもあり得ると思っています。

どんなデータが分析されるのか/されないのか
蘆田:

前提としては、画像認識が中心なんですよね。たとえば、色や丈の長さというのは認識しやすいと思うのですが、素材や質感のような要素も画像認識で扱うことってできるのでしょうか?

中村:

素材に関しては現状では扱えていません。画像認識であれば無理ではないですが、非常に手間が掛かると思います。そもそもECサイトで扱うような商品画像の解像度だと、素材の違いというのが画像に表れてこないので、信号に表れてこないということは画像処理だけでは対処出来ません。なので、追加で服の素材情報を付与することを考えます。

ただ、素材の表現も様々で、混合素材や新素材もあり標準化されていない状態ですので、それをコンピュータで扱うことは苦労を要します。

蘆田:

素材以外に、現状では扱うのが難しいものはあるのでしょうか?

中村:

ECサイトに落ちてこない情報が難しいと思います。たとえば、どういう場面でその服を着るのかといったオケージョンは「似合う」の提案をするときも条件に入ってくると思いますが、実際に服がどのように使われているのかはなかなか追えないので欠損しがちな情報であると感じています。

蘆田:

そうですよね。その人に「似合う」だけじゃなくて、どこに着ていくのにふさわしいものなのか、というのも大事ですよね。似合ったとしてもふさわしくない場合もありますので。

平川:

私が今扱っているコスメの領域では、成分のデータが十分にあればいいなと思いますね。その人に害があるかみたいな情報は、最も重要なのではないかなと思います。洋服では素材の情報などが当てはまります。

画一化と多様性との共存

データとデータの行間
蘆田:

唐突な例ですが、『重版出来!』という漫画のなかで、ある漫画編集者にPRの方法を尋ねるシーンがあります。その編集者は「自分の頭の中に架空の読者が住んでいる」と言って、その読者の行動を語るのですが、僕はこのエピソードを、ペルソナの設定方法のわかりやすい例として出すんですね。ペルソナって、箇条書きの情報だけで構成することもできるんだけれど、この漫画の編集者のように、その人の生活を物語にしたほうが情報と情報の行間というか、それらを繋ぐ背景が汲み取ることができるようになります。

箇条書きの情報——WEARのタグなどもそうですね——だけでは語ることのできない物語、データとデータの行間を読むようなことは、データサイエンスとか機械学習的なアプローチではこぼれ落ちていくのかなと想像していたのですが、いかがでしょうか。

平川:

SNSでのコーディネートの投稿は、「撮影するための服装」の投稿も含まれているので、生活からは切り離された情報であると思うんです。こういったデータから行間を読み取るのは工夫が必要ですね。

中村:

個々の情報の集約と抽象化は自動化できますが、それに対する意味付けは人間の役割です。データサイエンスの価値は解釈しやすい情報を提供することだと思います。

以前に「IQON」というファッションアイテムをコーディネートできるアプリサービスがあったのですが、そこではユーザーが自分の好きなブランドをお気に入りに登録できます。このデータを使って、ユーザーの嗜好を抽象化して抽出し、実際にどういうグループが出来上がるかというのを表現する試みを同僚が行いました。結果として、「このグループに所属する人は、このブランド群を好みそう」というユーザー群とブランド群の抽出とそれらの関係性がわかっています。

蘆田:

ブランドからカテゴリーにグルーピングしていくような感じなんですね。

レコメンドによる画一化
蘆田:

流行はいつの時代にもあるものですが、近年、同じような服装をしている若者たちが「量産型」という言葉でくくられることがあったりします。言ってみれば流行が極限にまで行き着いたようなことだと思います。これはECの話だけでもないと思うんですが、データサイエンスによるリコメンド機能を推し進めていくと、流行の画一化がいっそう進んでいくようにも思ったりします。

中村:

まさに、それが今データサイエンス界隈でもホットトピックです。推薦によるバイアスが悪さをしているんじゃないかという観点で議論されています。統計を使った学問なので、データの分布に偏りがある前提でモデルを作っていくのですが、出来上がったものは、そのデータの偏りをより際立たせるようなものになることがあります。マイノリティーなグループには、正確な推薦ができなくなる現象も観測されています。メジャーなグループにしか推薦が提供できず、ユーザーは自然とその推薦結果に染まり、さらに画一化が進むというサイクルが懸念されます。実際に、同じ格好になっていくという現象は起こり得るんじゃないかと。

ただ、現実的には反発する力がいつかは働くとは思いますし、リコメンドエンジンも各所色々なものを作っているので、ある程度は差別化できると思います。モデルを作る人間はそういった懸念が存在することを認識した上で、作ったモデルの特性や実際の推薦結果を理解して運用していく義務があるのかなと考えています。

平川:

統計的に人気なものを推薦していくので収束していくとは思うんですが、肌感覚としては、そこまで収束し続けてはいないかなと思います。現代の多様性への理解の広まりのもとで、自分の好きなものを着ていいという認識が広まっていくと、流行に捉われないような個人の在り方も広まっていくのかなと思います。

画像: 鼎談はオンラインにて収録
鼎談はオンラインにて収録
さらなる可能性へ
蘆田:

みなさんはファッションが今後、どうなっていくと予想していますか? 5年後、10年後の未来予測があれば教えていただきたいです。

平川:

ECの普及によって、店舗を持たずに売ることができるようになり、CtoCが加速していくことでショップがユーザーにパーソナライズしやすい環境が構築されたら良いなと思います。

中村:

ファッションの選択肢を広げられるような取り組みができたら、個人的には嬉しいなと思います。徐々にメジャーになってきているコーディネートサービスとか、レンタルを主軸にするとか楽しみ方が増えてきているので。やはりある程度データがないとデータサイエンスが入りづらいのですが、利用が増えれば分析の対象となってくるので、データとファッションという文脈でさらに価値を提供できるようになるのではないかと思います。

機械と人間との共生
蘆田:

これはファッションからは離れた一般的な質問になってしまいますが、AIやテクノロジーがさらに進むこれからの時代において、人間がすべきこと、人間にしかできないことってあるのでしょうか。

平川:

安心感であったり人の心に寄り添うことは、なかなか人間じゃないと叶わないこと。誰かと支え合いながら生活していくなかで、そういうところは絶対に変わらないし、人間にしかできないかなと思います。

中村:

ジェネラティブな活動というのは、AIにはまだ難しいと感じます。蘆田さんの著書のなかで「デザイン」というワードを取り上げ、それを問題解決の手段であるという風に表現していた箇所があったと思いますが、「問題は何か」ということを決めるのは人間にしかできません。解き方が理解できればいずれはAIで代替可能になると思いますが、時代によって新しい問題は常に湧き続けますし、問題であると認識するまでは解法の構築やそのためのデータ整備もできません。

感性が要求される領域を代替するAIの印象は特に大きいと思いますが、「やってみた」にとどまらずに実際の課題解決に使われた事例はそこまで多くない印象です。どう使うか、どういう問題を定義するか、その辺りが人にできることなのではないかと考えています。

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