パリの南郊外に、フォンテーヌブローの森という世界中からクライマーが訪れるクライミングの聖地がある。この地で日々、巨岩に挑む多くのクライマーの足元を支えているのが、クライミングシューズのリソーラーとしてアトリエ「
デュエル フォンテーヌブロー」を営む、靴職人の塩田康博さんだ。自身もクライマーである塩田さんが、この地へ辿り着いた理由を聞いた。
ビスポーク職人の新たなアトリエを訪ねて
パリから近郊線に乗って1時間。フランスの歴代国王が好んだフォンテーヌブロー城がある同地は、今はパリのベッドタウンのような位置付けになっている。列車内もお城が目当ての観光客と、クライミングの装備を持った人、そしてパリと行き来する通勤客が混在している。当初、筆者が塩田さんについて知ったのは、クライミングシューズのリソーラーとしてではなく、パリで働くシュール・ムジュール(ビスポーク)の靴職人としてであった。しかし後に塩田さんは、そのシュール・ムジュールの現場を離れていたことが分かった。
パリの中心部で都会的なものを作っていた人が、なぜ郊外へ、そしてアウトドアの世界へと移ったのか。塩田さんへの興味をより高めながら、8月の高く眩しい太陽の下、30度過ぎの気温の中をフォンテーヌブローにあるアトリエへ駅から徒歩で向かった。