クリアレンズの伊達メガネが紫外線を浴びると、たちまちサングラスに変化し、室内に入ると再びクリアレンズに戻るという調光レンズのサングラスブランド「Dr.Ray(ドクターレイ)」。
「調光レンズのサングラスは、日本の暮らしに合うのではないか」と語る、同ブランドを運営する有限会社アイエッジ代表の森史郎さんに、ブランドの始まりや展開されているアイテムについて伺った。
「会社を創立して14年ほど経ちます。アイウェアを専門に6つのブランドを展開しており、その中のひとつがDr.Rayというブランドです。Dr.Rayは比較的新しいブランドであり、立ち上げてから4年ほどの歴史があります。ブランドの特徴としては、紫外線に当たるとレンズの色が変わる調光レンズの商品をラインナップしています。
海外では学生や社会人を問わず、サングラスが日常的に使用されています。欧米人は目の色素が薄いため眩しさを感じやすく、サングラスを普段から使用することが一般的です。また、大人よりも外で過ごす時間が長い子どもは、それだけ紫外線の影響を受けやすいため、子どものうちからサングラスをかけることもよくあります。
一方、日本の場合はリゾート地や車の運転時、ファッションなどの限られたシーンでの使用が一般的であり、仕事中にサングラスをかけると不真面目な印象がついてしまうことがあります。
しかし、紫外線は年々増えており、その対策への関心も強まっている状況において、日本の価値観に沿うような、仕事中でもいつでもどこでも使えるサングラスを開発したいという思いから、Dr.Rayを立ち上げることになりました。サングラス自体の普及啓蒙活動に加えて、技術の面でも進化させることを目指しています」
調光レンズはいつからあったものなのか、そしてメガネ・サングラス業界ではポピュラーなものなのか、引き続きそのお話を聞いていこう。
「調光レンズはおおよそ1980年代には国内でもすでに出回っていましたが、当初はイギリスで開発され、『ラピード』という名称で販売されていました。
当時の調光レンズはガラス製であり、割れやすく重たいという特徴があり、そのために徐々に使用が減少し、市場での需要も低下していきました。さらに同時期には、技術の進化によりさまざまな機能を持ったレンズが登場し始めました。
たとえば、乱反射を防ぐ偏光レンズというものがあり、これは水面のぎらつきを抑えることができる釣り用のメガネなどによく使われていたもので、これらのレンズが人気を集めました。その結果、他の機能を持ったレンズに押されて、調光レンズのアイテムは次第に作られなくなっていきました。
そして、2010年代ぐらいから、当時はガラス製しかなかった調光レンズにプラスチック製のものが開発され、軽量化された製品が市場に登場しました。これを見た際に、野外での太陽の下ではサングラスになり、室内、例えばオフィスの中ではクリアレンズになるというギミックは、日本のビジネスシーンにぴったりではないかと考えました。
さらに、ブルーライトをカットする機能を追加すれば、オフィスワークのシーンでの利用を後押しできると考えました。ブランドのコンセプトは『ONでもOFFでも』であり、いつでもどこでも使用できるサングラスを目指し、開発に着手しました。
また、伊達眼鏡をかける文化は日本や韓国、中国などの一部のアジア諸国にしか存在しないため、日本でONの時のサングラスを普及させるにはクリアの調光レンズは適していると考えました。」
ここからはDr.Rayのアイテムについて聞いていこう。 今、全体のラインナップとして20型ほどのバリエーションにそれぞれ3色ほどで展開されているという。デザイン的にはどのようなアイテムが支持されているのだろうか。
「人気のあるアイテムについてお話ししますと、『EREBO X(エレボエックス)』というモデルは、プラスチックとメタルのテンプルを組み合わせたコンビネーションデザインが特徴であり、また『THALASSA(タラッサ)』というモデルは極太のセルフレームが特徴的です。
さらに、軽さにもこだわっており、太く見えるデザインにも関わらず、フレームの内側を削って軽量化を実現しています。また、テンプルは110°ほどまで広がる『バネ丁番』という仕様を採用し、こめかみが痛くなりにくいように配慮されています。
そして、すべてのモデルで特徴的なのは、ノーズパッドが可変式で自分の鼻に合わせられるという点です。これにより、長時間サングラスをかけていても疲れが出にくく、快適なかけ心地を実現しています」
Dr.Rayはレンズからフレームまで提携の工場で作られるオリジナルのものだ。ここからはそのオリジナルの調光レンズに関してもう少し詳しく伺っていこう。
「レンズを作る際に紫外線で反応する薬液を練り込んでいます。この薬液は紫外線を浴びると黒くなり、紫外線が当たらないと色が戻る仕組みになっています。また、このレンズはUV100%カットの性能に加え、ブルーライトをカットするコーティングが施 されたClever Photochromatic Lens(クレバーフォトクロマティックレンズ)というオリジナルレンズを使用しています
紫外線が多いと、30秒~1分ほどでサングラスになり、紫外線のない場所に行くと、5分~7分ほどかけてゆっくりとクリアに戻っていきます。これは気温にも左右されており、気温が低いと変化が早く起こります。色が濃くなったり、クリアに戻ったりするのに時間を要するのは、急激な変化に目がついていかなくなるのを防ぐためです。
目に負担をかけずにサングラスをかけっぱなしでいられるよう、数分かけてゆっくりと変化する仕様が望ましいと考えています」
最後にDr.Rayのこれからのものづくりに関して聞いてみた。
「ここ20年ほどの間、メガネ業界ではクラシックデザインのモデルが主流となっています。ボストンタイプやウエリントンタイプなどクラシックなデザインが世界中で広まりましたが、一方で技術や素材の進化は急速に進んでいます。Dr.Rayでは、調光レンズはそのままに、環境に優しい素材であるバイオアセテートのフレームを開発しています。
バイオアセテートは、微生物等の働きで最終的に二酸化炭素と水にまで分解する生分解性プラスチックです。かつてはセルロイドという素材が使用されていましたが、燃えやすい性質から使用が制限され、現在はアセテートが主流となっています。しかし、アセテートもプラスチックであるため、環境への負荷を減らす方向性が強まっており、次世代の素材としては植物由来の成分でできたバイオマスプラスチックが注目されています。
しかし、色出しや強度などの面での課題もあり、試行錯誤しながら取り組んでいます。今後は、クラシックなデザインに最新のテクノロジーを組み合わせて、進化していくことが予想されます。
そして、ブランドは異なりますが、弊社からはTPE[1]という素材を使用した製品も既に発売されています。TPEは燃やしても二酸化炭素が発生せず、リサイクルも可能な素材であることから、環境に優しい素材として注目されています。また、SDGsの普及により、消費者の意識も以前とは異なり、こうした素材を使用した製品に対する注目や人気も高まっていると感じています」
アイウェアブランドのラインナップの中に調光レンズのモデルが1つや2つ入っているケースはあると思うが、すべてのラインナップが調光レンズというブランドは珍しいのではないか。Dr.Rayの製品が日本のライフスタイルにマッチするならば、その名はますます広まっていくだろう。そしてその後は伊達メガネをかける習慣のない欧米に、この調光レンズの斬新さを提案していきたいと森さんは語ってくれた。
[1]TPE(サーモプラスチックエラストマー):
ゴムのような弾性を持ち、熱を加えると溶け、冷やすと固まるやわらかいプラスチックのこと。 リサイクルができ、環境に優しい素材とされている。
有限会社アイエッジ 代表取締役社長
大学卒業後、商社に就職。光学事業部でアイウェアの販売に従事し、2017年に有限会社アイエッジを起業。Dr.Rayをはじめとするさまざまなアイウェアブランドを世に送り出している。