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2022.12.19

「若者と場所」はいかに語られてきたか? 都市、メディア、そしてファッション(木村絵里子)

ファッションを語る際に欠かせない存在が「若者」だ。一見、現代においても若者はファッションを牽引する存在のように見える。しかし、その「若者」とは何かと厳密に問われると、答えることは難しいかもしれない。そこで、「若者」という存在の複雑な様相を「場所」と言うキーワードとともに文化社会学からアプローチを行ってきた日本女子大学の木村絵里子助教に、「若者」と「場所」が、いかに語られてきたか、そして今どのように語ることが可能かについてお話を伺った。
PROFILE|プロフィール
木村絵里子

日本女子大学人間社会学部助教、専門は歴史社会学、文化社会学、メディア文化論。東京都出身。日本女子大学大学院人間社会研究科博士課程後期単位取得満期退学、博士(学術)。論文に「大学生のソーシャルメディア・コミュニケーション――TwitterとInstagramの同時利用の規定要因に着目して」『メディア研究』(102号、2023年近刊)「、「1980年代、『non-no』の恋愛文化――現在を対象化するために」『現代思想』(9月号、2021年)、共編著に『場所から問う若者文化――ポストアーバン化時代の若者論』(晃洋書房、2021年)、『ガールズ・アーバン・スタディーズ』(法律文化社、2023年近刊)、『大学生の文化社会学――自己・メディア・親密性(仮)』(ナカニシヤ出版、2023年近刊)などがある。

社会変動の先進としての若者

はじめに、先生のご研究の内容を簡単に教えてください。
私の専門は文化社会学です。具体的には若者文化や、女性のビジュアルイメージ、恋愛に関するメディア文化の現代性とは何か、近代性との違いは何かということについてこれまで考えてきました。
そして、これらのことを考える上で、ソーシャルメディアの営みが非常に重要になっていますので、最近では女性のメディア文化として主にInstagramの研究を行っています。この研究については後でお話したいと思います。
社会学における若者と場所に関する研究はどのような動向にあったのでしょうか?
その点については、轡田竜蔵さんと牧野智和さんと一緒に編者を務めた『場所から問う若者文化 ポストアーバン化時代の若者論』でまとめました。社会学の若者論は主に都市の若者を対象にして議論が進められてきたわけですが、若者文化がポストアーバン化するなかでそれは現在でも本当に有効なのかを検討することがこの本の目的でした。
日本の社会学の若者論は、戦後の1950年代に誕生しました。当時の言葉では「青年社会学」と名付けられていましたが、これは心理学の「青年期」という言葉に由来があります。とくに青年心理学では、子供でも大人でもない、その間にいる青年という存在を研究の対象に据えていたのですが、しかし都市化など、戦後の大きな社会変動に直面する青年の問題を捉えるためには、心理学的な視点だけではなく社会学的な視点が必要とされたのです。
戦後は都市に若者が集まる時代でした。農村部に暮らしていた若者が都市に移住することによって、どのような心境や生活の変化、アイデンティティクライシスが生じるのかが議論になります。当初は都市と農村の両方の若者に注目が集まりましたが、高度経済成長期以降は集団就職をきっかけにして、多くの若者が都市に移り住むようになると都市の若者が議論の中心に据えられるようになります。
戦後、都市化と連動しながら、情報化や消費社会化などの大きな社会変動が生じたときに、特に都市の若者がその先進的な存在として位置付けられ、そこで確認された社会意識やライフスタイルが後に他の世代へ、あるいは地方へと全国的に広がっていくという見方がなされるようになります。
Image Credit:undefined
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若者の自己演出のための都市空間

1970年代になると、若者文化は「遊び」の要素を強め、成人文化と非連続性を持ち、自律するようになります。若者が新宿とか渋谷といったような、自宅のある地域や学校、職場以外の場所に集まって独自の文化を形成し始めます。たとえば渋谷センター街に集う若者のサークルを研究している荒井悠介さんは、『場所から問う若者文化』のなかで、物理的に集まることで育まれる若者文化を「ギャザリング文化」と呼んでいます。
若者の遊び場でもある都市空間は、地理的/物理的な場所であると同時にマスメディアによって、そのイメージが語られてきたという側面がある。吉見俊哉さんが論じた1980年代の渋谷の公園通りなどが代表的です。
高度大衆消費社会化が進むなかで若者たちは、自分で身につける商品によって自己表現をしていくことになりますが、都市空間は、その自己表現のための舞台装置でもあったのです。
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