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2024.04.22

イヌが服を纏う意味 ドッグウエアのテクノロジー【Howly】

人間は「服を着る動物」である。私たちは、はだかで外に出ることを禁じられており、生活時間のほとんどをいろいろな服に着替えながら過ごす。人間の社会は「被服」を前提に設計され、だからこそファッションは途方もなく豊かだ。
一方で、人間以外の動物が服を着るとき、そこにはどのような意味が生まれるのだろうか。
今回は「ドッグウエア=イヌ用の服」の制作現場に注目してみたい。飼い主はなぜ、飼い犬に服を着せるのか。人間とはまったく違う可動域と皮膚感覚を持つ動物にとって「良い服」とは何か。そもそも、体毛に覆われているイヌに服は不要ではないのか? さまざまな疑問が浮かぶ。
細密なパターナリングと素材選びで知られるドッグウエアブランド「Howly(ハウリー)」に聞いた。
PROFILE|プロフィール
原 秋実(はら あきみ)
原 秋実(はら あきみ)

Howly代表/デザイナー

イヌにとって「服」とは?

Howlyの活動について教えてください。
Howlyは、2023年11月にスタートしたドッグプロダクトブランドです。群馬県にアトリエを置き、デザイナーの私とブランディング担当のメンバー2人で企画・生産を一貫しながらイヌ用の服、リード、ベッドなどを中心にリリースしています。現在は2つ目のコレクション(2024SS)をリリースしたところです。
FRENCH POLICE WATER PROOF JKT 10,890円(税込)
FRENCH POLICE WATER PROOF JKT 10,890円(税込)
立体的な仕立てで、イヌの体に見事にフィットしています。
パターンはもっとも重要な要素です。ドッグウエアの企画では、人間とはまったく異なるイヌの可動域に着目し、快適な着心地をつくりだす過程に多くの時間を割いています。
デザインも含めてまるで人間の服のようですが、そもそもイヌに「服」は必要なのでしょうか。
主に2つの意味があると考えています。ひとつは機能面(=温度調節やケガの防止)。もうひとつは情緒面(=飼い主とのコミュニケーション)です。
私たち人間と異なり、イヌは体毛で体を守り、夏毛・冬毛が生え変わるなどの温度調節をしていますから、機能面ではすべてのイヌに服が必要というわけではありません。しかしながら、人間と生活するなかで服が大きな手助けとなる犬種があります。Howlyのメインのターゲットである「イタリアン・グレーハウンド」種もそのうちのひとつです。デザイナーである私自身の愛犬でもあります。イタリア原産のこの犬種は軽快で運動も得意ですが、細身で毛も脂肪も薄く、暑さにも寒さにも弱い。
性格は穏やかで室内飼いにも適しますが、ふとしたことでケガや骨折の危険性があります。お散歩のときには特に外の環境の影響を受けやすい。こうした人間には気が付きにくいトラブルを防ぐためにイヌの服が役立ちます。まさに「人間とイヌの共生」のための道具と言えます。

人間とイヌが共生するための服

ECWCS LEVEL7 SNOWSUITS(Jacket) 21,450円(税込)/THERMAL HIGH-NECKED ROMPERS 7,700円(税込)
ECWCS LEVEL7 SNOWSUITS(Jacket) 21,450円(税込)/THERMAL HIGH-NECKED ROMPERS 7,700円(税込)
イヌ用の服には、飼い主とイヌがともに暮らしていくサポートツールとしての役割があると。
その通りです。だからこそ「機能性と美」は私たちにとって大切なテーマです。イヌの活動を邪魔せず快適で、飼い主にとっても美しいと感じられる服を作りたいと考えています。
ウエアはどのような方針でデザインされるのでしょうか。
まずはイヌにとってケガや病気、居心地の悪さのもとになる環境を見つけ、その解決に向けてプロダクトを試作します。着用させた状態で生活してみて、ストレスを感じていそうであれば改良を繰り返して完成に近づけていきます。
イヌが服を着るとき、ストレスを感じやすいポイントは。
多くは、体型に合っていない場合です。例えば人間の子供服は、サイズはドッグウエアとよく似ています。けれど、イヌに着せると肩周りがだぶついたり、逆に突っ張ったりしてしまう。その原因は人間とイヌの腕の角度の違いです。犬は胴体から直角に腕(脚)が伸びているため、人間の服のように身頃に対して平行に袖がつけられていると体にフィットしないため、より立体的に仕立てる必要があります。
MOCKNECK SWEAT SHIRTS 5,940円(税込)
MOCKNECK SWEAT SHIRTS 5,940円(税込)
さらに、犬種によっても体型が異なります。首回りのサイズ感、腕の長さ、背中から尻尾にかけての丸み。イタリアン・グレーハウンドの場合は発達した胸とえぐれたお腹が特徴で、前身頃と後身頃の比率などを調整することで、もっとも着心地がいいパターンを見つけていきます。
けれど、とても難しいですね。イヌは暖かさ・涼しさ・動きやすさについて感想を言ってはくれませんから(笑)。足がふるえていないか、顔つきやしっぽの表情に異常はないか。観察がとても重要です。
デザインテイストはワークやミリタリーに近いですね。
ええ。こうした試行錯誤のなかでたどり着いたのがミリタリーウエアのテクノロジーだったのです。機能性の追求から生まれたカラーリング、素材使い、形状、そしてスピンドル、面ファスナーなどのパーツやギミックも使い勝手がよく、機能美を備えています。
ECWCS GEN3 FLEECE VEST 9,900円(税込)
ECWCS GEN3 FLEECE VEST 9,900円(税込)
私たちの最初のドッグウエアのひとつは防寒性・通気性にすぐれたベストでした。これは米軍が開発した「ECWCS(Extended Cold Weather Clothing System/拡張式寒冷地被服システム)」を応用したもの。ECWCSは寒冷地をはじめ、さまざまな環境に対応するレイヤリングシステムです。このベストもロンパースと重ね着して機能的にも最適なコーディネートができるよう設計しています。
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