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2023.01.14

ファッション業界における「文化の盗用」について考える(家田崇)

近年、ファッション系のニュースにおいて「文化の盗用」という言葉を目にする機会が増えてきている。一般的には「ある特定の文化圏における要素を、他の文化圏の者が流用する行為」を指すことが多い。
たとえば、2022年には「ジュンヤ ワタナベ マン(JUNYA WATANABE MAN)」が2022-23年秋冬コレクションで、メキシコの伝統的な織物である「サラぺ柄」をモチーフとして利用したが、メキシコ文化庁から「文化の盗用」であると非難されたことが記憶に新しい。
ジュンヤ ワタナベ マンは、同国文化庁から協力を仰ぐ形でコレクションを進めていたが、交渉の合意に至る前にコレクションを発表したとされ、その対応が「非倫理的である」と批判された。
そこで今回、ファッション業界で起きている文化の盗用の問題とその背景、それらに対して私たちはどのように向き合っていくべきかについて、南山大学法学部の家田崇教授にお話を伺った。
PROFILE|プロフィール
家田 崇(いえだ たかし)

南山大学法学部教授
名古屋大学法学部卒業後、同大学大学院法学研究科博士課程(後期課程)単位取得退学。
甲南大学会計大学院教授などを経て現職。専門は会社法・商法。

主な業績として、家田崇「ファッションに関連する文化流用と差別表現」南山法学44巻2号(2021年)。

家田先生が文化の盗用に関する研究をはじめたきっかけを教えてください。
私はもともと会社法の研究をしていたのですが、ニューヨークのフォーダム大学で在外研究を行う機会があり、新しいテーマでの研究を始めることになりました。
その際、同大学にはファッション・ロー・インスティテュートというファッションローに関する研究機関があったことや、在米中にプラダ(PRADA)のマスコット「プラダマリア(PRADAMALIA)」シリーズの「オットー(OTTO)」というキャラクターが人種差別的だと問題になった事案を耳にしたことから、ファッション・ロー、特に文化の盗用について研究することにしました。
合わせて、文化の盗用という分野は全くの門外漢ではなく、人権・差別の問題などと密接な関係を持つため、私が本来研究していた会社法の一分野であるコーポレートガバナンスの構築理論の観点から分析ができることも、大きな理由となりました。

「文化の盗用」とは何か

いわゆる「文化の盗用」とは、どのような状況を指す言葉なのでしょうか。
文化の盗用は元来カルチュアル・アプロプリエーション(cultual appropriation)という単語用語の邦訳ですが、この単語の定義は非常に曖昧なものになります。その背景として、盗用される文化の内容や、それに対する非難の度合いが単一ではなく、かなり幅を持ったものであるためです。
たとえば、最も非難される可能性の高い盗用は、侵略した国の有形文化財を自国へと持ち込み、美術館などで展示をすることです。その一方で、文化的なモチーフ(文様や柄)といった知的な文化財などを利用することは、盗用ではなくオマージュと判断されて、非難の対象にならないケースもあります。
このように、非難の度合いが高ければ「文化の盗用」となりますし、その可能性が低いものに関しては「文化の利用」とも呼ばれるわけです。また、「文化の盗用である」と非難されるかどうかは、その時々の状況や環境にも左右されるため、常に起こりうると言えます。
その中でも、文化の盗用として非難の対象となるケースにおいては、多数派が少数派の歴史を理解していなかったり、支配者側が非支配者側について意識が及んでいなかったりすることが背景にあります。さらに、第三者的な立場の人々においては、その関係性すらわかっていないケースもあります。
そのため、「文化の盗用である」という批判がされた場合、なぜそうした批判が起きたのか、まずはその声に耳を傾ける必要があるでしょう。
ファッション業界における文化の盗用には、どのようなものがあるのでしょうか?
ファッション業界では、文様や柄といった文化的モチーフの利用が、まず一番に問題になりやすいと思われます。昨年の「ジュンヤ ワタナベ マン」の事案もこのタイプですね。
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