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2021.08.11

山岡潤一「ものづくりから考える、新しい衣服との関係性」

衣服にコンピューティングの機能を導入していくと、何ができるのか/何をしたいのか。様々なウェアラブルデバイスが登場する一方で、その答えはまだ定かではないように思われる。
今回、取材した慶應大学大学院メディアデザイン研究科専任講師の山岡潤一さんは、そんな衣服や衣服と人間の関係性に様々な可能性を提示する研究を行っている。物づくりのプロセス、素材にテクノロジーを介在させる試み、その背景にある思想についてお聞きしました。
PROFILE|プロフィール
山岡潤一
山岡潤一

2013年、慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了、2015年同大学博士課程修了。日本学術振興会特別研究員(PD), マサチューセッツ工科大学 訪問研究員、東京大学大学院情報学環 特任助教を経て、メディアデザイン研究科 専任講師。 マテリアルの特性に着目した、インタラクティブメディア、デジタルファブリケーションに関する研究を行う。UISTやSIGGRAPHなどの国際会議で発表。またメディアアート作品の制作や、STEM教育向け知育玩具の開発も行う。WIRED CREATIVE HACK AWARD 2014グランプリ受賞 、文化庁メディア芸術祭審査員推薦作品、グッドデザイン賞(2018)、ACM UIST Honerable Mentionなど。

職人的な観察眼から生まれる研究

まず、山岡さんの研究関心、領域みたいなところを教えてください。
基本的にインタラクティブメディア、研究領域で言うとHCI(Human-Computer Interaction)やメディアアートの領域で、研究と作品という両面から活動してます。もともとは、コンピュータグラフィックスをやっていて、映像などを作っていました。そこから、画面の中だけの事象をどのように現実で表現するかに興味が出てきてて、今はバーチャルをいかにリアル化するかというところに活動の軸があります。
バーチャルの世界でしか表現できないこと、例えばVRで空間が変形したりとか、多様な見た目になれるわけですが、そういったことが現実でもできれば、この世界変わっていくんじゃないか。そういったデータを出して実体化するという考えは、デジタルマテリアリゼーションといい、3Dプリンターなどを通じて身の回りに普及し始めています。
僕自身のアプローチとしては、素材の特性を大事にしていますね。素材の特性を知ったうえで、ハックしていろんな形に変えていく。
具体的に、どんな素材を用いてきたのですか?
もともと、大きなものや特殊な素材よりも、身近なものからトライしてきましたね。例えば小麦粘土に電極とLEDを入れて光る粘土を作り、どういう風に伸びたり繋がったかを検出して色に置き換えたものや、ペンを動かして半自動筆記できるツールなど、身の回りにあるものにさりげなくコンピューターを介在させることができないかなと試みてきました。
こういった日用品へのフォーカスと同時に、既存のモノづくりの方法に再注目するようなこともしています。例えばBlowFabは金型を使わずに平面の板から数秒で立体を作る技術です。ブロー成形の手法とレーザーカッターを組み合わせることで実現しています。伝統的な手法には、まだコンピュータが入ってないところも多く、そこにいかにコンピューターを介在させてサポートできるかを考えたりもしますね。
BlowFab
BlowFab
こういったアイデアはどう得ているんですか?
グループの学生達にも伝えていることですが、まず、触れてみないと思いつかないところがありますね。半自動筆記のペンのアイデアも、つねに磁石を持ち歩いて見つけたアイデアだったりしたので。素材の持つ特性をよく観察し、そこで発見する。僕の研究グループである「Future Crafts」という名前も、職人的な観察眼を大事にしています。
また、色々な新素材も数多く研究開発され、そういった新素材は特定の目的のもとで作られていることも多いですが、実際に触れてみて、全く異なる方向で使うとどうなるかといった発想から考えることも大事だとは思います。
ちょうど「Future Crafts」の話が出たので、このプロジェクトの概要と経緯をぜひ、教えてください。
昨年4月から慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)の所属となりまして、そこで新しく研究グループを立ち上げることとなりました。KMDという場所は積極的にコラボレーションをしていくことを重視していて、僕自身もバンダイナムコ研究所、ZOZOテクノロジーといった企業やプロダクトデザイナーの横関亮太さんとのプロジェクトなど、色々なものが同時並行で進んでいます。
具体的に取り組んでいることとしては、デジタルマテリアライゼーションにプラスして、もう少し生活に寄った衣食住に関わる研究を多く手がけています。学生の問題意識も環境問題から健康問題と実に多様ですね。
去年は立ち上げたものの、いきなりコロナ禍でオンラインで進めるような状況となり、それぞれ家でできることからスタートしました。例えば、紙だけで回路を使わずに時間を計測したり、ディスプレイになる新しいデバイスを作ったり、クレイアニメーションを現実で作るための知育玩具を作ったりと、どんどん社会に出してくところを進めていきたいと思っています。
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#Wearable Device
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