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2021.05.17

人間にとっての嬉しさから新たな衣服を描き出す:HCIという研究領域

ファッション領域におけるテクノロジーの導入が進むなか、衣服にコンピューティングの機能を導入していくウェアラブルデバイスなど、新たな試みもなされている。
こういった開発やそこに至る研究の展開を考えるうえで、注目すべき分野にHCI(Human-Computer Interaction)という分野がある。Fashion Tech Newsでも、HCI分野に関連の深い東京大学・筧康明研究室の「What’s the Matter?」というイベントシリーズを配信しているが、改めてHCIとはどんな分野であるのか、また、その分野では衣服へのどのようなのアプローチが登場しているのだろうか。今回は、HCI領域を牽引する若手研究者である東京大学大学院工学系研究科特任講師の鳴海紘也さんにインタビュー取材を行った。
PROFILE|プロフィール
鳴海 紘也
鳴海 紘也

2020年東京大学大学院情報理工学系研究科博士課程修了。博士(情報理工学)。博士課程在籍中に日本学術振興会特別研究員、科学技術振興機構 ACT-I「情報と未来」個人研究者などを務め、2020年4月より東京大学大学院情報学環助教。2021年4月より同工学系研究科特任講師。柔らかいアクチュエータや折りたためるファブリケーション手法の研究に加え、ヒューマン・コンピュータインタラクションに関するトップ国際会議CHI2021では「Wearables, Tangibles, and Fabrics」のセッションチェアを担当するなど、人間と調和する実世界インタフェースの研究に従事。主な受賞歴として2020年度東京大学総長賞など

「人間にとっての嬉しさ」を扱う研究

まず、HCIという領域について教えてください。
HCIはHuman-Computer Interactionの略で、コンピュータサイエンスの分野に属しています。コンピュータサイエンスの分野では、例えば計算の高速化や計算機の小型化というように、計算や計算機の性能を向上させる研究が一般的です。しかしHCIでは、計算「しか」行わない計算機と実世界の人間が意思疎通するための翻訳機(インタフェース)をうまく作るという問題と、人間が計算機のある環境で人・モノ・計算機などとどのようにやりとり(インタラクション)を行うかという問題を扱います。計算機科学の分野ではありますが、その目的は人間の体験を向上させることです。
伝統的なHCIの領域では、文字や画像やタッチパネルを使った計算機の操作方法を扱う研究などが多かったですが、現在ではバーチャルリアリティ(VR)、アクチュエータ(ロボットのように動く物体)、ものづくりなどの分野から、我々が着る衣服や我々が食べる食事まで、非常に幅広い対象を扱うようになってきました。

どういった大学やコースで学べるのでしょうか?
これまでの多くのHCI研究は、人間に使いやすいソフトウェアを作ることができる計算機科学の人間や、iPhoneのような物理デバイスを作ることができる電気工学の人間などによって行われてきました。
その一方で、「人間にとっての嬉しさ」を扱う研究であることから、数字で良し悪しを決めるのが難しい対象を評価できる心理学や統計学の考え方を利用することも多いです。また、最近ではロボットや材料科学などの研究者、さらにはインダストリアルデザイナーなどが業界のトップを走っていることも頻繁にあります。もはや、人間の未来の生活に興味がある人であれば、誰でもHCIの世界に飛び込めるのではないかと思います。

鳴海さんご自身は、どういった研究をしていらっしゃいますか?
僕自身は、かたちが変わることによって人間とやりとりを行うモノ(形状変化インタフェース)の研究や、人間業では作れないような物体を計算機の補助を受けながら作るコンピュテーショナルファブリケーションの研究などをしています。
Koya Narumi, Hiroki Sato, Kenichi Nakahara, Young ah Seong, Kunihiko Morinaga, Yasuaki Kakehi, Ryuma Niiyama, and Yoshihiro Kawahara. 2020. Liquid Pouch Motors: Printable Planar Actuators Driven by Liquid-to-Gas Phase Change for Shape-Changing Interfaces.
Koya Narumi, Hiroki Sato, Kenichi Nakahara, Young ah Seong, Kunihiko Morinaga, Yasuaki Kakehi, Ryuma Niiyama, and Yoshihiro Kawahara. 2020. Liquid Pouch Motors: Printable Planar Actuators Driven by Liquid-to-Gas Phase Change for Shape-Changing Interfaces.
具体的には、紙のように薄っぺらいけど強い力で変形する構造を作ったり、それを使って動く建築や衣服を作ったりしました。また、一度ちぎれたり壊れたりしてもくっつけるだけで自然に治ってしまう素材を使って、ある程度自由に形を変えられるインタフェースデバイスを作ったこともあります。そのほか、通常では大きすぎて作るのに時間がかかるような物体を、折り紙のように折りたたんだ状態で作ることによって、ものづくりにかかる時間や素材を減らすような研究もしています。
Koya Narumi, Fang Qin, Siyuan Liu, Huai-Yu Cheng, Jianzhe Gu, Yoshihiro Kawahara, Mohammad Islam, and Lining Yao. 2019. Self-healing UI: Mechanically and Electrically Self-healing Materials for Sensing and Actuation Interfaces. In Proceedings of the 32nd Annual ACM Symposium on User Interface Software and Technology (UIST '19).
Koya Narumi, Fang Qin, Siyuan Liu, Huai-Yu Cheng, Jianzhe Gu, Yoshihiro Kawahara, Mohammad Islam, and Lining Yao. 2019. Self-healing UI: Mechanically and Electrically Self-healing Materials for Sensing and Actuation Interfaces. In Proceedings of the 32nd Annual ACM Symposium on User Interface Software and Technology (UIST '19).
ここまで計算機、計算機と言ってきましたが、僕の研究はあまりコンピュータっぽさがないかもしれませんね。
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#Wearable Device
#Smart Textile
#FactoryTech
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