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2023.03.01

生産が間に合わない! 中川絹糸の「洗えるシルク」の魅力

シルクには独特の光沢感があり、吸湿性や放湿性に優れた高価な素材だ。その反面、水に弱く、虫に食われやすいという弱点があり、扱いは非常に難しい。
ところが近年、繊維業界ではあるシルクが話題をさらっている。それが中川絹糸株式会社の“洗えるシルク”「プライムシルク」だ。現在は工場をフル稼働しても生産が間に合わないほどの受注があるという。
「シルクを洗濯機で洗う」という常識外の発想はどこから得たのか、その技術はいかなるものなのか。今回、同社の取締役である中川雄仁さんに「プライムシルク」の開発秘話と紡績業界の展望について伺った。
PROFILE|プロフィール
中川 雄仁(なかがわ ゆうじ)
中川 雄仁(なかがわ ゆうじ)

中川絹糸株式会社 取締役
大学卒業後は外部の企業へ就職し、2021年1月に中川絹糸に入社。

国内唯一の絹紡糸メーカー

1940年創業で国内唯一の絹紡糸メーカーとのことですが、どのような事業を展開されているのでしょうか。
当社はマユなどの原料を仕入れ、絹紡糸(けんぼうし)を作る事業を行っています。絹紡糸とは、いわゆる生糸を作る際の残糸や落ち綿などを再加工して糸にしたものです。
歴史を振り返ると、ヨーロッパの人々が日本で「生糸」を生産する際に発生した「落ち綿」を買いあさっていたという記録があるようです。日本の生糸の生産を立ち上げた人たちからすれば、「なんでそんなものを」と疑問に思ったことでしょう。
これを受け、岩倉具視使節団がヨーロッパで調査をしたところによると、彼らが目にしたのは、落ち綿を再加工して製糸するという光景でした。それがきっかけで、彼らは紡績糸を作るための設備を日本にも導入しました。そのおかげもあり、国内の紡績産業は成長していきます。
紡績産業が活発だった当時は多くの企業が絹紡糸と呼ばれる規格品を扱っていました。ところが近年、中国との価格競争によって紡績業全体が衰退していった結果、当社のみが扱っているという状態になりました。
中国に対抗できた強みはどこにありますか。
品質が安定しているのはもちろんですが、「特殊な絹紡糸」を作れることですね。言ってしまえば、機械を使って、あたかも人が手で撚った(よった)ような雰囲気の糸を生産することができます。
手撚りの糸は撚った人の癖が糸に表れるので、それで編まれた生地は独特の風合いが出ます。画一的になる機械による糸の生産ではこの雰囲気を醸し出すことはできません。
そこで当社は紡績機械を改造して、ランダムな撚りやちょっとした節が出る仕組みを開発しました。これが他社にはまねのできない独自の強みとなり、価格競争の波に飲まれることなく生産を続けることができました。

「洗える」からこそ日常遣いに

従来のシルクと「プライムシルク」の違いについて教えてください。
一般的にシルクは非常に繊細で、洗うと摩擦によって「白化」と呼ばれる色が抜ける現象が起こります。そこを克服したのが「プライムシルク」の特徴です。
当社は綿の段階からあらゆる加工を施すため、糸になるまでに薬剤が均一化され、安定性が非常に高くなります。もちろん出来上がった既製品に加工をすることも可能ですが、その場合は薬剤の付着にばらつきが出やすくなります。
また、自社で精練、紡績、仕上げ加工までを一貫して行える事で、コストを抑えながら、品質の良い物を提供することが出来ています。
「プライムシルク」の誕生のきっかけは何だったのでしょうか。
シルクは着物などの和装に使われることが一般的です。そのため、和装が普段着としても使用されていた昭和時代や、平成の初期までは、シルクの需要も十分にありました。時代とともに和装の需要は減少していきましたが、一定のニーズは保ち続けていました。
ところがコロナの影響で、大きく状況が変わります。結婚式や成人式ができなくなり、浅草や京都に観光に来る外国人も減少したことで、着物などの和装を着る機会は激減しました。
社会の変化に対応せず、従来通りの和装を追い求めるだけでは生き残れないということで、普段遣いや洋装でも使ってもらえる方法はないかと模索しました。その際、日常に落とし込むためには家庭用の洗濯機で洗えることが最低条件だと考えた結果、「プライムシルク」が誕生しました。
シルクはタンパク質の繊維なので人肌との親和性が高く、インナーや下着に使用すると最高の着心地を提供できます。実は、枕カバーやシーツといった寝具にも適しているのではないかと思い、現在商品開発を進めているところです。
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#Sustainability
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