ケガ予防とランニングエコノミーの改善を目的として開発され、2021年に発売された「NIKE ZOOM X INVINCIBLE RUN(ナイキ ズームエックス インヴィンシブル ラン)」。そのシリーズ最新作となる「NIKE INVINCIBLE 3(ナイキ インヴィンシブル 3)」が登場。ズームエックス フォームを採用したミッドソールは厚さを増し、アッパー構造が一新された今作は、どのように進化したのだろうか。
カーボンプレートを搭載した厚底のレーシングシューズによって、ランニングシューズシーンを一変させたナイキ。エリウド・キプチョゲ選手による男子マラソンの世界記録更新を筆頭に、数多くの記録更新を支えてきた。マラソンや駅伝の大会を観戦すれば、多くのトップアスリートたちがナイキのシューズを選択していることがわかる。
しかし、ナイキがフォーカスしているのは“スピード”だけではない。ランナーにとってのもう一つの大きな課題である“ケガ”についても解決を試み続けている。「ナイキ インヴィンシブル3」の紹介をする前に、その歩みに触れておきたい。
ケガは本当に避けられないものなのかという疑問から、“怪我ゼロ”を目指すナイキの取り組みの第一歩として2020年に登場したのが、「NIKE REACT INFINITY RUN(ナイキ リアクト インフィニティ ラン)」だ。
それまでのナイキのランニングシューズが、ケガの軽減のためにアプローチしてきたのは、主にオーバープロネーションの抑制についてだった。着地時に踵が内側に過度に倒れ込むオーバープロネーションは、腸脛靭帯炎、シンスプリントなどの原因となるため、それを防ぐためにシューズで足の動きをサポートしてきた。
ケガの原因がプロネーションにあれば、モーションコントロールで十分な対策となるが、それだけでは抑制できないケガもある。
別の解決策を探るために、アスリートの声を聞くという原点に立ち返り、ランナーへのリサーチから開発をスタート。リサーチとテストを繰り返して生まれたのが、ハイクッションで安定性が高く、ソール形状をロッキングチェアのような形状にしてスムーズな足運びを可能にした「ナイキ リアクト インフィニティ ラン」というわけだ。
そして、「ナイキ リアクト インフィニティ ラン」から得た知識をもとに、ケガ予防とランニングエコノミーの改善を目的に作られたのが、「ナイキ ズームエックス インヴィンシブル ラン」となる。
「ナイキ インヴィンシブル 3」は、アッパーが刷新され多層構造に。軽量性、サポート力、通気性をハイレベルで備えることに成功したという。
「フライニットアッパーを進化させ、埋め込まれたフライワイヤー ケーブルと組み合わせることで、柔らかいソックスのような足あたりと高いサポート性を両立しています。今作のフライニットアッパーは多層構造になっており、半透明な素材感のトップレイヤーは、優れた通気性を確保しながら、高い耐久性を提供します。
ミッドレイヤーにはフライワイヤー ケーブルを挟み込み厚みのあるサポート性を実現。そしてベースレイヤーには柔らかい素材を使うことで、足あたりがよい快適な履き心地を提供します。
また、足が熱を持つ部分は通気性を重視し、足を固定する重要な部分はサポートを加えるなど、エリアごとに最適な調整がなされています」とEKIN(エキン/ナイキのプロダクトのテクノロジーやイノベーシ ョン、開発背景やストーリーを伝える担当者)の岡田晶典さん。
軽量で、強度が高く、柔軟性や耐久性にも優れている高密度強化ナイロンの繊維であるフライワイヤーケーブル。従来は、主にシューレースと連動する形で、シューズの中足部をサポートするテクノロジーとして利用されてきた。
そのフライワイヤーケーブルを、強靭なポリエステルの糸を編み上げて構成されているフライニットの間に埋め込み、アッパー全体に採用。既存のテクノロジーを新しいアプローチで活用したというわけだ。
「フライワイヤーケーブルを埋め込んだ仕様は、実はバスケットボールプレーヤーのルカ・ドンチッチ選手のシグネチャーモデル、LUKA 1(ルカ ワン)にも採用されています」
過去の「インヴィンシブル」同様、今作もミッドソールには、ズームエックス フォームが採用されている。ズームエックス フォームは、ナイキのトップレーシングモデルにも採用されているクッション性だけでなく、反発性と軽量性にも優れた素材。
ナイキのフォーム素材の中で、最もエネルギーリターンに優れており、エネルギーリターン率は最大85%。前作よりもミッドソールが6mm厚くなったことで、クッション性も反発性も向上している。
「厚みを増したことに加え、ミッドソールのサイドに凹凸を入れたことで、より衝撃吸収性と弾力性が高くなっています。またロッカー構造も強化されており、着地、前脚部への重心移動、蹴り出しというランニング動作における3つのフェーズがよりスムーズに行えるようになっています。
クッション性の高さ、体重移動のスムーズさは“怪我ゼロ”を目指すために重要なポイントですが、安定性を欠かすことはできません。前作よりも底面の面積を拡大することで安定性も確保しています」
足を入れてすぐに感じるのはミッドソールのフカフカ感。前作よりも6mm厚くなったことで、よりズームエックス フォームの弾力性が感じられる。当然、接地はかなりソフト。硬いアスファルトの上を走っていることを忘れてしまいそうなほど、柔らかな接地感が得られる。
アッパ ーは、説明通り足にやさしくフィットしながら適度なサポート性が感じられ、非常にバランス良く仕上げられている印象。着地時に足が左右にブレる感じはないが、窮屈感もない。走っていて楽しさも感じるシューズなので、コンディション維持やダイエットなどを目的に、ケガなく走りたいという人にはかなり適しているのではないだろうか。
もちろんケガをしたくないというのは、アスリートにも共通するもの。実際「インヴィンシブル」シリーズは、エリートランナーが距離走やリカバリーランなどに愛用しているとのこと。シリアスに走っている方も、ぜひ試してみてほしい。
ナイキジャパン EKIN
EKINとは、NIKEを逆さ読みした造語で、ナイキとそのプロダクトを知りつくしたスペシャリスト。ナイキの店舗や取引先へ赴き、プロダクトに込められたストーリーやイノベーションについて伝えるほか、プロダクトに関する疑問やお客さまからの質問などに答えることを職務としている。ナイキ直営店でストアアスリートとしてナイキでのキャリアをスタートし、店長を勤めた後、より多くの人にナイキの素晴らしさを伝える仕事をするために現職に。日々、プロダクトに込められた想いやイノベーションに魅了されている。
Text by Fumihito Kouzu