オリンピック・パラリンピックが白熱するパリで今夏、スイス発のスポーツブランド「
オン(On) 」が期間限定のラボを構えた。ここで披露したのが、自社開発したランニングシューズのアッパー製造の新技術“LightSpray”である。
自動化されたロボットアームが、極薄でシームレス、シューレースも不要な未来的なデザインのアッパーを、片足わずか3分で製造するという画期的な新技術。“ランニングシューズ界のアップル”と評されるブランドの、夢を追い続ける“Dream On.”のスピリットを体現するイノベーションが話題を呼んでいる。
スイス発、革新的スポーツブランド「オン」の誕生 「オン」の夢がスタートラインに立ったのは、14年前のこと。産業としてスポーツメーカーが盛んではないスイス・チューリッヒで2010年に誕生した。創業者は、トライアスロンのトップアスリートだったオリヴィエ・ベルンハルド(Olivier Bernhard)と、デイビッド・アレマン(David Allemann)、キャスパー・コペッティ(Caspar Copetti)の3人。“動くことを通じて人の心に火を灯す(Ignite the human spirit through movement)” をミッションに掲げ、革新的なテクノロジーとデザイン性 の高いシューズを打ち出し、ランナーだけでなく多くのファンから支持を集め急成長の最中にある。
ブランドの代名詞とされるのが、パワフルな蹴り出しとソフトな着地を実現させた、高いクッション性を持つブランド独自の世界特許技術“CloudTec®”だ。スイス連邦工科大学チューリッヒ校と共に独自開発したCloudTec®のクッショニングは世界特許を取得しており、トップクラスのプロアスリートたちの競技用シューズにも採用されている。
2016年にはアパレルラインもスタート。さらに2019年からは、スイス出身のプロテニス選手ロジャー・フェデラー(Roger Federer)が投資家およびアドバイザーとして同社に参画し、テニスに特化した“ザ ロジャー プロ2 クレイ(The Roger Pro 2 Clay)”を提供する。
現在は、ランニングとアウトドア、トレーニング、テニス、そしてライフスタイルの分野を網羅し、60ヶ国以上で事業を展開中。日本には、2022年4月に原宿キャットストリートにアジア初の旗艦店を構え、商品を購入するストアとしてだけでなく、「オン」のエキスパートであるストアアドバイザーと交流したり、コミュニティに集ったりする場所としての機能も果たしている。
話題となったサブスクサービス 業界の常識を覆す革新的な技術と機能美が光るデザイン。そこに加えて「オン」のコンセプトの中核をなすのが、循環型のモノづくりの実現というサステナビリティへの取り組み。スポーツウェアの消費のあり方を再定義するかのように、サブスクリプションで利用できるサービス「サイクロン」を2022年に打ち出した。同サービスは、月々一定額を支払うことで「サイクロン」専用シューズが利用でき、6ヶ月ごとに新しいシューズに交換される仕組みだ。使い終わってユーザーから返却されたシューズは、新しいシューズの原材料として100%リサイクルされ、新しいシューズを作るというサイクルで運営していく。サイクロンのサービスで利用できるシューズの素材は、トウゴマの種子から抽出されるヒマシ油を原料にしたバイオポリマーのPA11(リルサン)を採用した、環境に優しく軽量で、耐久性と柔軟性に優れた製品だ。
Photo by ELIE INOUE サブスクリプションで利用できるサービスを通して、ランニングシューズを所有から利用へと、抜本的に消費習慣を変えるアイディアである。