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2023.08.18

電気の繊維「PIECLEX(ピエクレックス)」 村田製作所と帝人フロンティアのテクノロジーを融合した新素材の可能性

植物由来の樹脂である「ポリ乳酸」の圧電性に着目し、村田製作所の圧電技術と、帝人フロンティアの合成繊維技術を融合して電気の繊維「PIECLEX(以下、ピエクレックス)」を生み出したのが、株式会社ピエクレックスだ。
同社は、村田製作所と帝人フロンティアの合弁会社として2020年に設立され、人の動きを電気エネルギーに変える電気の繊維の開発と、循環型社会の実現を目指している。
そこで今回、同社のブランディングチームに所属している井上貴文さんに、「ピエクレックス」が生まれた経緯や製品の展開、電気の繊維の可能性と課題、今後の取り組みなどを伺った。

「ピエクレックス」の抗菌における特徴とは

「ピエクレックス」とは、そもそもどのような素材で、どんな経緯で開発されたのだろうか。
「『ピエクレックス』の原料は、ポリ乳酸という植物由来の樹脂です。このポリ乳酸の特性として、力が加わると自ら電気を発する圧電性を持っています。この特性があること自体は知られていたのですが、それを活用した具体的な製品化までは行われていませんでした。
そうしたなか、村田製作所はかねてポリ乳酸の圧電性に着目しており、2007年にはポリ乳酸を使ったフィルムセンサ『Picoleaf(ピコリーフ)』の開発と製品化に成功しました。その後、フィルムセンサを糸状にすれば新たな可能性が生まれるのではないかと『ピエクレックス』の開発が2016年にスタートし、ポリ乳酸の電気抗菌効果の発見に至りました」
素材の特徴としては、人が動くことで繊維が伸縮し、微弱な電気が発生することで抗菌効果を発揮する。抗菌剤を塗布するのではなく、繊維自体が抗菌性を発揮することにある。そのため、人や環境に優しく、洗濯を繰り返しても効果が持続する。抗菌性能に関しても他社製品と同等のデータが取れているという。
「当時、帝人フロンティアも村田製作所と同様にポリ乳酸の繊維を使ったセンサなどを開発していたことから、業務提携として協業がスタートしました。その後ビジネスをするうえで、村田製作所には繊維に関するノウハウがなかったことから、それぞれの強みを生かした開発と製品化を進めるため、合弁という形で株式会社ピエクレックスを設立しました」
今年7月には「ピエクレックス ソックス」や「ピエクレックス タオル」を販売開始するなど、今後は一般的なアパレル商品全般はもちろん、繊維を生かしてカーテンや絨毯などのインテリア類など幅広く生地開発を進めていくとしている。
ポリ乳酸の課題としては、原料としてのコストが高く、生産量もまだ多くないことが指摘される。しかし、それに対する解決の目処は立ってきているという。
「生地を100%『ピエクレックス』の糸で作ってしまうと、コストが高くなってしまいます。しかし、たとえばわれわれが販売しているTシャツの場合、綿が70%でポリ乳酸が30%となっています。さらに、ソックスにおいてはポリ乳酸の混率は数%です。
アイテムによっても変わりますが、少ない割合でも抗菌機能が保てることがわかってきたので、コストも全体として下げていけると考えています」

「ピエクレックス」の自然循環

さらに、同社が抗菌機能と併せて現在注力しているのが、「ピエクレックス」の自然循環を確立する仕組みづくりだ。電気の繊維というテクノロジーに、高い環境保全性を組み合わせることで、さらなる付加価値を生み出したい考えだ。
「ポリ乳酸自体は、トウモロコシやサトウキビなどを原料として作られるので、環境に非常に優しい素材として、各メーカーさんでも作られたり、活用されたりしています。いわゆる生分解性があり、土に戻るとされています。
しかし、単純に適当な土に埋めれば分解されるのかというと、そう簡単ではありません。われわれとしては、どんな微生物がいる土であれば十分に分解できるのかを研究してデータを蓄積しており、適切に処理できるシステムを構築しようとしています。
最終的な目標としては、各地に堆肥場を設け、製品を使い終わった方は最寄りの堆肥場に持ち込んで、土に埋めてもらう仕組みをつくることです。弊社の代表は『地着地消』という言い方をしていて、この2〜3年の間に実現したいと考えています。
さらに、そこで回収した土を肥料として活用いただけないか、いろいろな自治体と相談しているところです」
このように「ピエクレックス」については、電気のテクノロジーである点と、環境に優しい点という二軸で、消費者への認知拡大に取り組みたいとしている。

「電気の繊維」の可能性

それでは今後、同社は「ピエクレックス」で実現した「電気の繊維」をどのように展開していこうと考えているのだろうか。
「『ピエクレックス』に関しては、もう少し電気的な力が上がれば、抗菌以外の可能性が広がっていくと思いますので、その力を上げていくことが大きな目標ですね。可能性のひとつとしては、充電できる洋服や光る服などがつくれるのではないかと考えています。
そして現在、われわれはポリ乳酸以外の素材もいろいろと開発・研究をしているところです。『ピエクレックス』を広めた数年後には、第2弾第3弾のポリ乳酸にこだわらない電気の繊維を提供して、また世の中の人を驚かせたいと考えています」
PROFILE|プロフィール
井上 貴文(いのうえ たかふみ)

株式会社ピエクレックス
ブランディングチーム

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