Fashion Tech News symbol
Fashion Tech News logo
2023.07.24

洗えるだけではない!? 伸縮性を持つ「ゴムゴムシルク」とは

「ゴムゴムシルク」という聞き慣れない名前にすでに驚いている人もいるかもしれないが、私たち消費者があずかり知らぬところで、繊維加工の技術は発展の一途をたどっている。いまやシルクは洗えるだけでなく、ゴムのように伸び縮みするというのだから、この素材に対するかつての常識は通用しないだろう。
今回新しいシルクを提供・開発したのが、日本蚕毛染色株式会社だ。繊維の自社開発を得意としており、これまでにいくつもの機能性繊維を生み出しただけでなく、繊維の加工方法に関する特許も取得している。
そこで同社機能繊維事業 業務3課係長の安部宏正さんに、自社で開発されたシルク加工の技術について語っていただいた。「ゴムゴムシルク」の誕生に至るまでに、どのような開発の流れがあったのだろうか。
PROFILE|プロフィール
安部宏正

日本蚕毛染色株式会社 機能繊維事業 業務3課係長
染色の営業を経て10年前より機能繊維の営業。2022年11月より同事業 業務3課にて洗えるシルク「セレーサカルメン」の販売に携わっている。

蚕毛と染色

1938年の創業時は、どのような事業をされていましたか。
初代社長の冨部要人が、日本蚕毛工業株式会社という社名で起業したのが始まりです。当時の日本は、シルクはあるがウールが手に入りにくい状況でした。そこで擬毛加工の「セリシン定着」という技術を使い、シルクをウール仕立てにして販売をしていました。社名の「蚕毛」は、それが由来となっています。
 
戦後にポリエステルやナイロン、アクリルといった合成繊維が登場し、合成繊維の綿(わた)の染色需要が高まったことから1956年に現在の日本蚕毛染色株式会社へと社名を変更しました。
現在は染色と繊維の2本柱ですが、それぞれどのような事業内容ですか。
染色事業は、合成繊維や天然繊維の紡績メーカーから綿を預かって染める委託事業です。
機能繊維事業では自社開発した機能性繊維の販売を行っています。たとえば、静電気を除電する導電性繊維「サンダーロン®、抗菌防臭繊維「デュウ®」、消臭機能を持つ「デュウ®ホワイト」などがあります。そこに新たに開発したマシンウォッシャブルシルクの「セレーサカルメン®」、伸縮性のあるマシンウォッシャブル「ゴムゴムシルク」が加わりました。それぞれの素材の特性を生かしたまま新しい機能を持たせています。
自社開発ならではの強みはどこにありますか。
機能繊維の開発において、綿への染色加工技術を生かし、導電性繊維にしても抗菌防臭繊維にしても、マシンウォッシャブルシルクにしても綿の段階で加工し、改質しています。綿の段階で加工することで精度の高い品質と機能の安定性が得られます。今の日本には、綿を染める、又加工を加える会社は数えるほどしか存在していません。
綿を加工、開発する確固たる地盤が確立されているのは蚕毛の大きな強みになっています。

洗えるシルクの誕生

「セレーサカルメン®」の開発経緯について教えてください。
よく知られているように、シルクは家庭で洗濯すると繊維が傷んで白化してしまい、素材自体もごわついてしまいます。ですから、皆さんドライクリーニングに出されます。ところが、ドライクリーニングは有機溶剤で洗うので、環境負荷が非常に高いとも言えます。
それならば、「繊維の女王」と言われるシルクを身近なものとして向き合えたらいいなと思い、家庭で洗濯できるシルクの開発に取り組みました。
通常のシルクと「セレーサカルメン®」を比較できるサンプルをお見せします。こちらは洗濯機で30回洗ったものですが、はっきりと色の違いが見て取れると思います。
向かって左側が従来のシルク(未加工)、右側がセレーサカルメン。左側の未加工のシルクは、白化して生地が傷んでおります。右側のセレーサカルメンは、白化しておらず風合いも変わらない。
向かって左側が従来のシルク(未加工)、右側がセレーサカルメン。左側の未加工のシルクは、白化して生地が傷んでおります。右側のセレーサカルメンは、白化しておらず風合いも変わらない。
「洗う」という技術的な問題を解決するために、相当な苦労があったと思います。
シルクが人の肌と親和性が高いのは、人の肌成分に近い18種類のアミノ酸で構成されているからです。そのアミノ酸の分子は、洗濯すると分子間結合が破壊されて白化してしまいます。
それならば、分子同士の結合を強めればいい。専門的には、「高分子化合物の架橋結合」といいますがその方法を開発したことでマシンウォッシャブルが可能になりました。
言葉では簡単に説明できるのですが、それを商品化の品質に持っていくために数年かかっています。社内の研究チームのメンバーは、残業を重ねる日々が続きました。何回も試験を繰り返して取り組んだ技術になりますので、思い入れの強いものとなりました。
1 / 2 ページ
この記事をシェアする