昨今、メタバースやNFTによって、デジタル空間におけるファッションがキーワードになりつつある。テクノロジーが進歩するにつれて、ファッションを取り巻く環境は目まぐるしく変化している。こうした状況を私たちはどのように理解すれば良いのだろうか。
過去を振り返れば、ファッションとテクノロジーの出会いは産業革命以降のことであった。新たな技術と共に衣服の生産体制は大きく変化し、同時に人々の身体的な意識も刷新されたのである。では、私たちは歴史から何を学び、未来へ向けてどう行動すれば良いのだろうか。今回、イギリスの服飾史を専門とし、2021年11月に『ファッションとテクノロジー:英国ヴィクトリア朝ミドルクラスの衣生活の変容』を上梓された長谷部寿女士さんに、ヴィクトリア朝に起こった衣服と身体感覚の変化についてお話を伺うと共に、未来の展望についてお聞きした。
PROFILE|プロフィール
長谷部寿女士
筑波大学大学院人文社会科学研究科 現代語・現代文化専攻修了。博士(文学)。現在、日本女子大学ほか非常勤講師。
著書に『ファッションとテクノロジー −英国ヴィクトリア朝ミドルクラスの衣生活の変容』(春風社、2021年)。訳書に江藤秀一編『帝国と文化–シェイクスピアからアントニオ・ネグリまで』(春風社、2016年)がある。
ヘッダー画像:Sewing Machine Museum,London(2019年筆者撮影)
テクノロジーの進歩とファッション産業の変化
まずは、長谷部さんのご関心やこれまでのご研究について教えて下さい。
イギリスを中心としたヨーロッパの服飾文化を研究対象としています。特に衣服に注目して、過去の時代の生活習慣を追究することから見えてくる当時の人々の身振りや行動様式、身体意識と現代に繋がる自己イメージの変遷に関心があります。なぜなら、身体に纏う衣服は、人間にとって最も身近なモノであり、皮膚を刺激し、姿勢・動作を規定するといった身体への作用とともに、衣服をまとった姿で自分を認識している私たちの自己イメージの形成にも関わるものだからです。