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2022.03.18

長谷部寿女士「服飾の歴史から学ぶファッションとテクノロジーの未来」

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昨今、メタバースやNFTによって、デジタル空間におけるファッションがキーワードになりつつある。テクノロジーが進歩するにつれて、ファッションを取り巻く環境は目まぐるしく変化している。こうした状況を私たちはどのように理解すれば良いのだろうか。
過去を振り返れば、ファッションとテクノロジーの出会いは産業革命以降のことであった。新たな技術と共に衣服の生産体制は大きく変化し、同時に人々の身体的な意識も刷新されたのである。では、私たちは歴史から何を学び、未来へ向けてどう行動すれば良いのだろうか。今回、イギリスの服飾史を専門とし、2021年11月に『ファッションとテクノロジー:英国ヴィクトリア朝ミドルクラスの衣生活の変容』を上梓された長谷部寿女士さんに、ヴィクトリア朝に起こった衣服と身体感覚の変化についてお話を伺うと共に、未来の展望についてお聞きした。
PROFILE|プロフィール
長谷部寿女士
長谷部寿女士

筑波大学大学院人文社会科学研究科 現代語・現代文化専攻修了。博士(文学)。現在、日本女子大学ほか非常勤講師。
著書に『ファッションとテクノロジー −英国ヴィクトリア朝ミドルクラスの衣生活の変容』(春風社、2021年)。訳書に江藤秀一編『帝国と文化–シェイクスピアからアントニオ・ネグリまで』(春風社、2016年)がある。

ヘッダー画像:Sewing Machine Museum,London(2019年筆者撮影)

テクノロジーの進歩とファッション産業の変化

まずは、長谷部さんのご関心やこれまでのご研究について教えて下さい。
イギリスを中心としたヨーロッパの服飾文化を研究対象としています。特に衣服に注目して、過去の時代の生活習慣を追究することから見えてくる当時の人々の身振りや行動様式、身体意識と現代に繋がる自己イメージの変遷に関心があります。なぜなら、身体に纏う衣服は、人間にとって最も身近なモノであり、皮膚を刺激し、姿勢・動作を規定するといった身体への作用とともに、衣服をまとった姿で自分を認識している私たちの自己イメージの形成にも関わるものだからです。
これまでは19世紀半ば以降のイギリスに焦点を当て、消費社会の幕開けとなった時代に衣服と身体の関係がいかに変容していったのかを「テクノロジー」を1つのキーワードにして考察してきました。19世紀は特徴的なシルエットで女性のモードがめまぐるしく変化していく時代でしたが、そうした技巧的なファッションは工業化の中での最新のテクノロジーと結びついて生み出されたものでした。
身体とはかけ離れた造形的かつ装飾的なファッションのためにテクノロジーが活用されたのは、人体や健康に対する知識がほとんどない当時の美意識を反映しています。当時の雑誌や家政本、挿絵や絵画などを調査し、そうした服装に対する意識と衣生活の関わり合いを研究しています。
これまでの服飾史において、ファッションとテクノロジーの関係はどのように受け止められてきたのでしょうか。
テクノロジーの起源を辿ると、ラテン語のtechnologiaに端を発し、18世紀頃まではリベラル・アーツの中での「実践的な技芸(art)や工芸(craft)の専門知識」を意味していました。その後、18世紀後半の産業革命の進展期になると、そうした実践的技術は学問体系における知識から「メカニカルな機械や応用科学分野の専門知識」を指すようになっていきます。
ファッション産業においても産業革命期を境にして受け止め方が変わりました。それまでの衣服作りは、裁断から縫製まですべての工程が手作業だったため、衣服の仕立てには熟練の技と専門知識が必要とされていました。そのため、衣服を仕立てるテーラーは誇り高い職業であり、徒弟制の中で師から教えを受ける技術は重要な機密事項でした。この意味でテクノロジーとはartやcraftに結びついていたのです。
その後、イギリスから始まった産業革命によって、テクノロジーは科学や機械分野の技術という新しい意味で使われるようになりました。機械化の流れは繊維産業において他の分野に先んじて進展し、機械生産の導入により服飾産業がグローバルな規模で活性化しました。つまり、後者の新しい意味での「テクノロジー」の恩恵を大いに受けて服飾産業が興隆し、今日に続くファッションシステムが形成されていったのです。
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