Fashion Tech News symbol
Fashion Tech News logo
2021.10.06

五十嵐悠紀「ものづくり支援テクノロジーが開くユーザーの想像力」

昨今、個人レベルのものづくりを支援するテクノロジーの発展が目覚ましい。今後それらのテクノロジーは社会にどのような影響を与えるのだろうか。
今回取材した明治大学総合数理学部先端メディアサイエンス学科准教授の五十嵐悠紀さんは、ぬいぐるみや3次元ビーズ細工などのものづくりを支援するシステムの研究・開発を行なっている。今回は五十嵐さんに、支援テクノロジーの最適なユーザーインターフェイス、それらのテクノロジーに必要な要素、今後の展望などについてインタビューを行なった。
PROFILE|プロフィール
五十嵐悠紀
五十嵐悠紀

2010年東京大学大学院 工学系研究科 博士課程修了.博士(工学). 日本学術振興会 特別研究員DC2, PD, RPDを経て2015年より明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 専任講師,2018年より同准教授.IPA未踏プロジェクトマネージャ兼任.インタラクティブコンピュータグラフィックス,ユーザーインタフェースに関する研究に従事.書籍「縫うコンピュータグラフィックス」(オーム社)、「スマホに振り回される子 スマホを使いこなす子」(ジアース教育新社)他。

手芸とテクノロジーの融合

まずは五十嵐さんが現在の研究領域に関心を持った経緯についてお聞かせください。
学部生時代に、コンピュータグラフィックスやインタラクティブ技術の国際会議「SIGGRAPH(シーグラフ)」で発表された、現・筑波大学教授の三谷純さんの論文を読んだのがそもそものきっかけです。
その論文はペーパークラフトを題材としており、当時から趣味でぬいぐるみをつくっていた私の目には、論文中に掲載されていたペーパークラフトの型紙がぬいぐるみの型紙に見えたんです。
自動車会社のCADシステムの設計に携わっていた父と家政科出身で裁縫を得意としていた母のもとで育った私にとって、コンピュータグラフィックスと手芸はどちらももともと馴染みのある分野でした。三谷教授の論文の影響もあり、私はそれらの分野を融合させてぬいぐるみの研究をしたいと思い、いまでも続けているライフワークになっています。
五十嵐さんが研究・開発されている インタラクティブぬいぐるみデザインシステム「Plushie(プラッシー)」とはどのようなテクノロジーなのでしょうか?
「Plushie」は、ユーザーが描いた線から3次元モデルとそれに対応する2次元の型紙をコンピューターが自動で生成するシステムです。ユーザーがモデリングする度に型紙がインタラクティブに更新される仕組みで、家庭用PCでもリアルタイムで稼働することを目指しています。
ユーザーが描いた線をそのまま型紙にしてしまうとぬいぐるみにした時に一回り小さいかたちになってしまうため、縫ったあとに綿を詰めた時のかたちが描いた線に倣うよう、膨らみ具合を数秒間に数万回のシミュレーションを繰り返して最終的な型紙を表示しています。
切断面をつくれば、その面に対応した型紙を即座に生成することも可能です。突起部分を追加で描けば、ぬいぐるみの胴体と繋がった腕や足部分のように突起部分と本体の内部がつながっているケースと、ぬいぐるみの耳や尻尾部分のように突起部分と本体が別パーツになっているケースの2パターンを提示して、ユーザーが選択できるような機能も備えています。
ほかにも輪郭線を引き伸ばすことで形状を変化させられたり、縫い目を追加・削除することもできます。また、基本的には3次元モデルだけを操作していればデザインできるのですが、型紙を操作することでも形状を変化させることも可能となっています。
では、インタラクティブ3次元ビーズ細工デザインシステム「Beady(ビーディ)」はどのようなテクノロジーなのでしょうか?
「Beady」は、ユーザーのジェスチャー操作によって3次元ビーズ細工をデザインするシステムです。正多面体モデルの組み合わせでデザインが可能で、それに対応するビーズモデルを提示します。このシステムでは全て均一な大きさ・形状のビーズを用いており、全ての辺の長さが等しい多面体をデザインするという問題に置き換えてコンピュータで計算しています。システム内部では常に全ての辺の長さが等しくなるようシミュレーションしています。
従来の3次元のビーズ細工は専門家がデザインした製作図をもとに制作する必要があり手順も複雑ですが、「Beady」ではユーザーがデザインした3次元モデルから適切なワイヤー経路を自動計算して、1段階ごとに制作手順を表示します。
ビーズをつなぐワイヤーの経路に関しては、一筆書きの要領でビーズモデルの表面をたどって作りますが、一筆書きをグラフ理論のオイラーグラフ問題としてコンピュータで計算しています。
ただ、一筆書きの経路は複数のパターンが存在するので、パターンによっては人間の手だけでは制作しづらい方法もありえます。なので、全ての面を一度だけ通過して始点に戻るようなハミルトンパスをグラフ理論を用いて解くことで、人間の手でつくりやすいよう、多面体の面ごとに完成するような方法をコンピュータで計算して提示しています。
いずれのシステムとも、手芸の設計プロセスを大学の情報系学部で学ぶような数学・物理の基礎的な理論を用いたコンピュータで計算できる問題に置き換えたシステムとなっています。一方で、使用するユーザ側から見ると、そういったことを意識せずにデザインできるシステムになっています。
1 / 3 ページ
#3DCG
この記事をシェアする