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【リレーコラム】着物:「自信」を着る(Yuki_bana)

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PROFILE|プロフィール
Yuki_bana
Yuki_bana

ブダペスト出身のハンガリー人。
カーロリガーシュパール大学で日本語・英語専攻を卒業。日本では大阪大学留学。日本の伝説文学を研究してから、ハンガリーで発行される日本のサブカルチャー雑誌「MONDO」でコラムを10年以上執筆。日本人に英語、ハンガリー人に日本語を教えて、日本の漫画・アニメの公式ハンガリー語版翻訳家(「NANA-ナナ-」、「NARUTO-ナルト-」、「るろうに剣心」など)。石川県金沢市在住歴13年目。着物暦は3年目、着付けは独学。現在、北陸最大級のリサイクル・アンティーク着物屋で働く一方、北陸中心にガイドとしても活躍中。
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ファッションとは何か。服を着ているときというのは、本当は何が起きているのか。ただの布に身を包むだけか。それなら、機能的に服を着ているのと、ファッションとして服を楽しんでいるのとはどう違うのか。そして、結局ファッションというものには何の意味があるのか。人生に不可欠なものではないのか。
時に人はそういった質問を自分に問いかけるときがあるだろう。人はそれぞれ自分の外見を気にする程度は異なるだろうが、外見だけで相手を判断することはできないという意見もかなり重要だと自分も思う。なぜなら、ファッションを重要視しすぎると、ファッションは人のためではなく、人がファッションのために生きているという、目的が反転してしまうようなことになるだろう。
しかし、ファッションが生まれるときに目を向けると、ファッションを生み出す人間の多くは有名なデザイナー、工芸家やアーティストであり、「服を作っている」という面で活躍している。そしてその反面、ファッションを楽しんでいる=「服を着ている」、つまり実際使用している側では、作る側のためになる知識が生まれ、やがてこれらのお互いへの影響によってファッション業界のサークルが動き、進化していく。つまり、ファッションというのは、知識を身に付けて、そしてそれを生かすことでもある

着物もファッション

服を着ることから生まれてくる知識の中で、とても興味深いのは日本の着物文化だ。着物自体文字通り「着る物」にすぎず、機能的に日常で必要としている布のことと言っても間違いではない。しかし、現代では着物を日常的に着ている人は少ないのも確かである。主な理由は、新品の着物の値段が高くて、保管も面倒で、着付けも難しくて、着物のシルエットもレトロで、もう時代遅れだと周りに思われたくないといった辺りだろう。現世代が昔から存在しているタイプの服を着るなんて何の意味がある。ゆえに、着物が着られなくなった大きな原因は、現代の人の着物に関する知識不足と着物の持つ面倒な側面であろう。
しかし、着物は一反物だけではないし、着物を自分で着られるようになることで「着ている」こと以外にも得られるものがたくさんある。時には機能的な服装(つまり、ただの服)にもなりうるし、時には工芸品としてピース・オブ・アート的に楽しめるし、それによって和装文化についてももっと知れるようになる。だから、今のこの時代を、着物もファッションの一部として考えられる時代だと認めるべきだ。
着物が普段着られなくなった今の時代で最初にぶつかるのが「着付けの知識不足」の壁だ。なぜなら、着付けは着物を単に洋服みたいに羽織ったり被ったりするものではなく、「身に着ける」、つまりその着物をいかに自分の体型や姿に上手に合わせられるかという、ちょっと厄介な知識が必要だ。そのために大切なのはまず自分自身の体を知るようになることと、とにかく頻繁に繰り返して着ることであろう。昔の人は日常的に着てその手順に慣れていたからこそ「ただの服」であったものの、今の時代では着付けがルーティン性を失い、着物を自分で着たい、自分のファッションにしたいと思っている人はまずこのルーティン性を目覚めさせて、自分を見直す、再発見する必要がある。
現在の世の中は便利で、おばあちゃんやお母さん世代から直接着付けを習えなくても着付けスクールがある。そこで、大事なのは「着付けは劇的に難しいことではない」ということを常に意識することだ。婚礼などの特別に難しい礼装などの他装を除き、着付けというのは人と着物、つまり一対一の間で行うこと。だから大事なのは自分自身、その体とその服と向き合うこと。着物を繰り返して着て、また脱いで、また着てのルーティンの中で、少しずつ自分の体のサイズ、一番着心地のよい着物の素材、好きな着付け道具、腰紐や腰ベルト、コーリンベルトのポジション、そういった自分にとって一番合う着付けの方法を見つけるであろう。これは独学で少し孤独な道でもある。もちろんちゃんと着付け師の教え、アドバイスや他の先輩の経験などをたくさん聞くのは良いことだ。ただ、結局他の人には教えられない、自分で発見するしかない「セルフ・ディスカバリー」の道でもあることを忘れてはいけない。こうして「着るものを上手に身に着けられたら」、着物姿の自分を鏡で見ながら、新しい自分にも「こんにちは」と言えるであろう。この瞬間に生まれてくるのは「自信」の感情だ。
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