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天才デザイナーとの初タッグから生まれた 「AIR JORDAN 3(エアジョーダン3)」の 知られざる誕生秘話

2025.10.14
「エアジョーダン1」の大成功から3年後の1988年に誕生した「エアジョーダン3」は、天才デザイナー、ティンカー・ハットフィールドとの出会いでもあった。シリーズでも屈指の人気を誇る同モデルの誕生秘話、その魅力、そしてなぜここまでの人気を得て、後のスニーカー業界にどんな影響を与えたのかを、「スニーカーショップSKIT」の代表である鎌本勝茂さんに伺った。

天才デザイナー、ティンカー・ハットフィールドの機転

1988年に誕生した「エアジョーダン3」。後に天才デザイナーと称されることになる彼が初起用されたモデルだが、その開発秘話には興味深い裏話があった。それに関して鎌本さんはこう語る。
ティンカー・ハットフィールドとの初タッグとなった「エアジョーダン3」。ブラックはオリジナルカラーのひとつとして人気を誇る。こちらは2012年にリリースされた5度目の復刻版。33,000円(税込)
「ティンカー・ハットフィールドのインタビュー映像で確認したのですが、実はマイケル・ジョーダン本人は、ジョーダンシリーズの継続に乗り気ではなかったようです。理由はハイカットのデザインが気に入らなかったのと、イタリアンレザーを採用したことで革が硬くて足に馴染むまで時間がかかったから。
しかも『エアジョーダン1』を履いていた時期に骨折してしまったことで、ジョーダン本人は『ナイキ』のライバルの『アディダス』と契約しようと考えていたそうです」
その証拠にジョーダンは、最初の「エアジョーダン3」開発のミーティングに4時間遅刻してきたそうだ。暗雲が立ち込めるミーティングで輝きを放ったのは、ティンカー・ハットフィールドの機転の利かせ方だった。鎌本さんはこう続ける。
後に伝説を生むエレファント柄も当時としてはかなり画期的なアイディアだった
「実は『エアジョーダン3』も、『エアジョーダン1』を開発したピーター・ムーアがデザインを担当するはずでしたが、彼が『アディダス』に移籍してしまったため、急遽、彼の元で修業していたティンカー・ハットフィールドが担当することになったのです。
『エアジョーダン3』で初お披露目となった“ジャンプマンロゴ”は、ピーター・ムーアがマイケル・ジョーダンのダンクシーンをスケッチしていたのを見て、ティンカー・ハットフィールドが独自にデザインしたものでした」
タン部分に大きく刺繍された“ジャンプマンロゴ”。後にシリーズのシンボルマークともなるデザインは『エアジョーダン3』で初登場した
実はこのジャンプマンロゴは、ティンカー・ハットフィールドの独断で入れることになったもの。また最初のミーティングではデザイン画だけのはずだったが、ティンカー・ハットフィールドはプロトタイプを用意していったという。最初は不機嫌だったジョーダンも、このプロトタイプを見て機嫌が良さそうに帰っていったとのこと。
ティンカー・ハットフィールドの機転が、「エアジョーダン」の存続を決定づけたといっても過言ではないだろう。

フィル・ナイト曰く「エアジョーダン3がナイキを救った」

また「エアジョーダン3」の逸話について、鎌本さんはこう続ける。
「マイケル・ジョーダン本人が『エアジョーダン3』を気に入ったのは、そのフォルムがミッドカットだったからなんです。つまり『エアジョーダン3』は、バスケットボールシューズとしては初のミッドカットモデルになったといえるでしょう。
復刻モデルのシューズボックスにもジャンプマンロゴが鎮座している。箱の下部にはエレファント柄が配置される
また、毎試合新しいシューズを履きたかったマイケル・ジョーダンは、足に馴染まない硬いイタリアンレザーを嫌がっていたこともあり、『エアジョーダン3』にはタンブルレザーを使用しました。それはジョーダン本人の希望であった柔らかいレザーに変えるためというのはもちろん、『エアジョーダン3』のデザインの特徴でもある、エレファント柄をエンボス加工するための変更でもあったそうなのです」
今でこそ、アスリートが履くシューズにデザイン的な柄を入れるのは当たり前となっているが、当時はそういった事例は珍しかったため、画期的なデザインだったといえる。ジョーダン本人もこの柄をいたく気に入ったこともあり、上機嫌でミーティングから帰っていったというわけだ。
これもティンカー・ハットフィールドのアイディアが冴え渡ったエピソードといえるだろう。鎌本さんは誕生秘話についてこう締めくくる。
「ティンカー・ハットフィールドのインタビュー映像で彼が語るには、当時の『ナイキ』の社長であったフィル・ナイトからも『エアジョーダン3がナイキを救った』と言われたとのこと。
また『エアジョーダン2』では採用されなかったアッパーサイドの“スウッシュ”も、入れるはずだったのが、ティンカー・ハットフィールドの独断で排除したそうです。タンにはジャンプマンロゴが入っているので、代わりにヒール部分に“NIKE AIR”と入れたと、彼は語っていました」
オリジナルモデルでは、ヒールに“NIKE AIR”の刻印とロゴマークが入っていた。こちらは復刻版のため、ジャンプマンロゴとなっている
「アディダス」と契約したかったマイケル・ジョーダン。その気持ちを逆転させたのは『エアジョーダン3』の完成度が高かったからに違いない。ジョーダンが他ブランドと契約しなかった背景には、天才が生み出した傑作が存在していたのだ。
「エアジョーダン3」は、まさに「ナイキ」の前に現れた救世主だったのだ。

スニーカー史を語る上でこれ以上のものはない

そんな逸話があるものの、実は日本では「エアジョーダン3」の人気はそれほど高くなかった。1994年に「エアジョーダン3」が復刻されたもののあまり売れ行きが良くはなく、早い段階でセールになっていました。2000年代の復刻でもアウトレットなどで見かけるようになっていたと鎌本さんは語る。しかし後にスニーカー業界に与えた影響についてもこう語ってくれた。
ホワイトを基調にブルーとレッドを差し色に使い、細部にはエレファント柄を散りばめた「エアジョーダン3 レトロ OG」。2016年11月発売。29,700円(税込)
「日本ではあまり人気がなかったのですが、本国アメリカでは『エアジョーダン3』とともにジャンプマンロゴを押し出した、『エアジョーダンシリーズ』のアパレルも登場し、当時のヒップホップアーティストにも支持されていきました。
その熱狂は当時のレコードのジャケ写などからも見ることができます。また当時の広告には映画監督のスパイク・リー氏を採用し、監督の映画『SHE'S GOTTA HAVE IT』で監督自身が演じたジョーダンマニアのキャラ、“MARS BLACKMON”はCMで大きな注目を集めました。
エレファント柄や初のミッドカットといった斬新なデザインゆえ、アメリカではファッションアイテムとして認知されたことで人気を獲得していったといえます」
2020年にシカゴで開催されたNBAオールスターのために用意された「エアジョーダン3 SE "UNITE COLLECTION"」。シカゴ・ブルズのチームカラーを落とし込み、ヒールは“NIKE AIR”の仕様になっているのも面白い。28,600円(税込)
日本でファッションアイテムとして認知されているのは「エアジョーダン1」という印象が強いが、本国アメリカではアパレルも登場したことにより、ストリートカルチャーも巻き込んで人気を高めていったのだ。
最後に「エアジョーダン3」の魅力について聞いてみると、鎌本さんはこう答えてくれた。
「自分も高校時代バスケットボールをやっていたので、マイケル・ジョーダンが1988年のNBAオールスターで行われたダンクコンテストで、50点満点を叩き出したシーンのポスターを貼るぐらい、マイケル・ジョーダンに心酔していましたし、本人が履くシューズにも憧れを抱いていました。
オレゴン大学のチームカラーを彷彿させるデザイン。アッパーにはブラックのヌバックレザーを採用。パイングリーンのアクセントと、シュータンに入るジャンプマンの縁取りにイエローが入ることで、“オレゴンダックス”のカラーリングに。30,800円(税込)
なので件のダンクシーンで履いていた“ホワイト×セメント”は、『エアジョーダン3』の中でも好きなカラーのひとつになります。いろいろ考えると、初めてジャンプマンロゴを採用したり、アスリートが履くシューズに柄というデザインを差し込んだりと、新たな試みを注入していったスニーカーの概念を変える一足だったのかもしれません。
 スニーカーの歴史や魅力を語る上でこれ以上のものはなく、真っ先に挙げられるモデルが『エアジョーダン3』だと思いますね」
スニーカーに精通した鎌本さんをして、こう言わしめる『エアジョーダン3』。1988年に発売されたオリジナルモデルが約1億6,200万円で落札されたとも噂されている。スニーカー業界に与えた影響は計り知れないが、「ナイキ」にとってそれ以上の価値をもたらしたシューズといっても大袈裟ではないだろう。

PROFILE

鎌本勝茂(かまもと かつしげ)

SKIT代表

 1978年青森県生まれ。高校卒業と同時に上京し、スニーカーショップでの販売経験を積み、2001年にSKIT1号店を吉祥寺にオープン。スニーカーに関する豊富な知識と業界屈指の目利き力で、ショップには多くのスニーカーファンが訪れる。さらに映画『スニーカーヘッズ』にも出演するなど、その動向は海外のスニーカーヘッズからも注目されている。現在は吉祥寺の他、大阪、仙台、福岡にも出店する。

撮影協力

スニーカーショップSKIT 東京・吉祥寺店東京都武蔵野市吉祥寺南町1-18-1 D-ASSET吉祥寺1F TEL:0422-47-6671 営業時間:11:00~19:00 https://www.k-skit.com/

Photo by Hiroyuki “Lily” Suzuki(STUDIO LOG)

Text by Yasuyuki Ushijima(NO-TECH)

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