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伝統の折り紙と最先端テクノロジーの融合:A-POC ABLE ISSEY MIYAKEが挑む「TYPE-X Inkjet 4D Print project」

2026.01.27
1998年の誕生以来、一枚の布から衣服を構成する革新的な概念で世界を驚かせてきた「A-POC」。その概念を受け継いだ「A-POC ABLE ISSEY MIYAKE」は今、大学の研究室から生まれた最先端の「Inkjet 4D Print」技術を取り込み、さらなる高みを目指している。そしてこの度、「TYPE-X Inkjet 4D Print project」からピアスのプロダクトが発表された。
「2次元の形状から、いかにして3次元のプロダクトを生み出せるか」。この根源的な問いに対し、デザインエンジニア、研究者、そして技術の社会実装を担うスタートアップたちが集結した。数年の歳月をかけて「研究」を「日常のプロダクト」へと昇華させた、異分野共創の舞台裏に迫る。

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鳴海 紘也(なるみ こうや)

慶應義塾大学理工学部 准教授。専門はヒューマン・コンピュータ・インタラクションで、特に特殊な素材と構造を活用したデジタルファブリケーションや形状変化インタフェースなどの研究に従事。主な受賞歴として、2020年度東京大学総長賞、2023年第7回羽倉賞、2024年船井研究奨励賞、2025年マイクロソフト情報学研究賞など。

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宮前 義之(みやまえ よしゆき)、望月 雅斗(もちづき まさと)

A-POC ABLE ISSEY MIYAKE エンジニアリングチーム

A-POC ABLE ISSEY MIYAKEは、作り手と受け手とのコミュニケーションを広げ、未来を織りなしていくブランドです。1998年にスタートしたA-POCは、服づくりのプロセスを変革し、着る人が参加する新しいデザインのあり方を提案してきました。
A-POC ABLE ISSEY MIYAKEは、時代を見つめながら進化を遂げてきたA-POCを、宮前義之率いるエンジニアリングチームがさらにダイナミックに発展させます。一枚の布の上に繰り出すアイデアは多彩に、着る人との接点は多様に。異分野や異業種との新たな出会いから、さまざまな「ABLE」を生み出します。

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杉本 雅明(すぎもと まさあき)

エレファンテック株式会社 共同創業者・顧問。ホルンフェルス合同会社代表。コミュニティーカフェ「Lab-Cafe」(2008)の立ち上げから、東京大学発スタートアップをSXSWへ派遣する「Todai To Texas」の共同設立(2013)など、テクノロジーとカルチャーを横断した活動を展開。エレファンテック株式会社の共同創業者(2014)として、インクジェット印刷による脱炭素電子基板技術の普及に取り組む。

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須藤 海(すとう かい)

Nature Architects株式会社 代表取締役 CEO。2018年、折り紙技術を用いたプロダクト設計支援ツール「Crane」を開発。2023年発表のTYPE-V Nature Architects ProjectにてA-POC ABLE ISSEY MIYAKEとの共同プロジェクトを推進。2024年度ソフトウェアジャパンアワード受賞。

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割鞘 奏太(わりさや かなた)

東京大学大学院工学系研究科で舘知宏研究室に所属。2023年度に修士号を取得し、2024年度より博士課程。専門は建築幾何学や計算機構学で、特に折り紙やテセレーションに基づき形と動きの設計やファブリケーションを行う。2022年よりNature Architects株式会社でアシスタントエンジニアとして従事。2021年度東京大学総長賞。

テクノロジーで「服作りの常識」を再定義する「A-POC」

1998年に「A-POC」が始まった経緯と、そのコンセプトを教えてください。
宮前三宅一生は1970年の活動開始以来、「一枚の布」と身体の関係性を追求してきました。その思想から1998年に誕生した「A-POC」は、コンピュータ技術を駆使した「一体成型」を導入し、あらかじめ服のかたちを一枚の布のなかに編み込み、ハサミで切り出すだけで完成するという服作りの常識を覆す手法を確立しました。
2021年には、この思想をさらに発展させたブランド「A-POC ABLE ISSEY MIYAKE(以下A-POC ABLE)」が誕生します。同ブランドは、異分野の技術や思想を積極的に取り入れ、共に発展することを目指しています。
今回の鳴海先生、須藤さん、杉本さん、割鞘さんのチームとの共創は、まさにその姿勢を象徴する成果です。
これまで、どのような取り組みを協働でされてきましたか。
宮前私たちのものづくりは「一枚の布」から発想し、プロセスを見つめ直すところからはじめます。そこでは、さまざまな領域を縦横無尽に行き交うことを大切にしています。また、イッセイ ミヤケのものづくりの核である「プリーツ」の進化においても、従来とはまったく異なる発想や技術が求められます。
そして外部の異分野・異業種のエキスパートと取り組むことにより新たな視点が加わり、さまざまなアイディアが組み込まれるようになりました。手作業では膨大な時間を要するプロセスを、テクノロジーによって飛躍的に進化させることができ、その成果を「TYPE-X Inkjet 4D Print project」では活用しました。

服作りの概念を覆す「2次元から3次元への直接移行」への挑戦

「TYPE-X Inkjet 4D Print project」発足の経緯を教えてください。
鳴海2017年に、東京大学の研究グループのメンバーとしてイッセイ ミヤケのアトリエを訪問しました。その際、「熱を加えると曲がる折り紙の構造」を提案し、何か一緒にできないかと相談したのが始まりです。
その後、2022年頃に「自動で折れる」技術の可能性を確信し、設計ソフトウェア「Crane(クレイン)」を開発したNature Architectsさんや、初期から単純な形状の試作を共に行っていたエレファンテックさんが集結しました。
開発が進むなかで、富士フイルムさんにも参画いただき、同社の「高輝度メタリックインクジェット技術」を導入し、チーム一丸となって完成まで漕ぎ着けました。
須藤私は以前から杉本さんや鳴海先生たちとは親しい間柄でした。2022年の訪問時には、弊社の「Crane」を活用し、「Inkjet 4D Print」に構造や機能、形状を与える役割として貢献することになりました。同年中にはある程度形が見えてきたため、プロダクトとしての耐久性や意匠性をどこまで突き詰めれば販売可能なレベルに到達できるか、という実装に向けた検討をチームとしてスタートさせました。
杉本私たちの出発点は、服作りから「縫製工程」をなくせないかという問いでした。環境に優しいインクジェット技術でファッション界の課題解決を目指したのです。
2次元の布から3次元の衣服へ移行する際、通常は縫製が不可欠ですが、インクジェット印刷で平面を立体化できればプロセスを革新できます。実験で「折る・曲がる」ことに成功した際、この技術を託すパートナーとして、ファッションに深い情熱を持つ鳴海先生に相談したのが始まりです。

Inkjet 4D Printの技術的仕組みと「折り」の原理

Inkjet 4D Printの基本的な仕様や仕組みについて教えていただけますか。
鳴海ベースとなるのは平らな「熱収縮フィルム」で、その表裏に特殊なパターンを印刷します。パターンの設計を工夫し、「折り線」にしたい部分にだけインクの乗っていないわずかな隙間を空けます。
シートを温めると、インクの乗った部分は収縮が阻害されますが、隙間の部分は収縮するため、その力でシートが折れ曲がります。この表裏の隙間を緻密に設計することで、狙い通りに「折り紙」が折れる仕組みです。
温度設定は、目標の角度と使用温度での収縮率を計算して設計するため、理論上は何℃でも対応可能です。本プロジェクトでは、操作性の良さから主に75℃程度を基準としています。

熱収縮フィルムの徹底したパターン設計により、高度な折りを実現
© ISSEY MIYAKE INC. 写真:高橋マナミ

伝統のプリーツ技術と「自己折り」技術の出会い

イッセイ ミヤケを象徴する技法として「プリーツ」がありますが、今回の新しい技術との出会いをどのように感じますか。
宮前イッセイ ミヤケのプリーツ技法には、従来の「製品プリーツ」やジャカード織技術による「スチームストレッチ」など多様な技法があります。これまではテキスタイルを中心としたプリーツ素材の開発を行ってきましたが、今回の「フィルム」素材を用いたアプローチは、私にとって初めての新鮮な挑戦でした。ただ、構造自体は私たちが服で展開している発想にも近く、デザイン的な親和性を感じたことが共同開発の決め手となりました。
鳴海私の研究目的は「世界一細かい折り紙の自動折り」で、ライバルとして意識したのは研究機関ではなく、A-POC ABLEの「スチームストレッチ」でした。世界中の研究者が挑むなか、もっとも安定して細かな構造を実現しているのは、高度な研究を実践するブランドの技術です。まずはそこに追いつくことが最初のゴールでした。
宮前鳴海先生には、単なるプロトタイプで終わらせず「商品として社会実装すること」を目標に掲げようと伝えました。生活の中で使えるものにするハードルは高かったですが、このメンバーで乗り越えた経験は大きな財産です。今回は「ピアス」から着実に第一歩を踏み出しました。将来的にはさらなる耐久性を追求し、バッグや照明器具などさまざまなプロダクトへの応用も目指したいと考えています。

さまざまなトライ&エラーの末に完成したピアスのプロダクト
© ISSEY MIYAKE INC. 写真:東晃司

試作から「ピアス」への結実──形状設計と耐久性の克服

ピアスの製作に行き着くまでにどのような議論がありましたか。
望月当初パリで発表したのはバングルでしたが、指輪の試作も重ねていました。今回の「自己折り」技術は、小さなサイズほどその特性を際立たせることができると考えたからです。
ですが、指輪は日常生活での摩耗や負荷が大きく、耐久試験の結果、実用化には課題があることが判明しました。緻密な造形を追求したいという気持ちはありましたが、まずは実用性を優先し、負荷の少ないピアスに絞ることに決めました。
宮前開発初期には、割鞘さんが非常に精緻な指輪のプロトタイプをいくつも作ってくれていました。実は、今回のプロダクトは技術的に可能な範囲からすると比較的シンプルな形状で、当初はもっと複雑な形をいくつも検討していました。
割鞘最初は指輪のような円筒形状をベースに、設計ソフト「Crane」を用いて多種多様な折り紙パターンを検討していました。サイズや細かさを微調整しながら、円筒の上で勝手に折れ曲がるように設計したパターンは10種類以上に及びます。今回のピアスの形状も、実はそれら指輪の試作過程で生まれた「この形が良いね」というインスピレーションからピックアップして完成させたものです。

指輪やバングル、キャップなど、さまざまな試作品の中からピアスを選定
© ISSEY MIYAKE INC. 写真:高橋マナミ
試作の積み重ねから、今の形が生まれたのですね。
割鞘設計上の工夫として、折り曲げた際の断面が「三角形」になるようにしています。これにより断面が変形しにくくなり、一辺一辺が固定されて、折れ曲がった状態を安定して保つことができます。
3D上のシミュレーションでは完璧に折れていても、実際に出力してみると、面に若干の歪みが生じることがあります。そうした細かな歪みを目立たせず、より美しく仕上げるために、あえてわずかな「曲面」を持たせる今の造形を最終的に選択しました。

産学連携の真価と「感性×技術」の未来


2024年にはパリにて「Type-X Inkjet 4D Print project」を発表
© ISSEY MIYAKE INC. 写真:Olivier Baco
今回の「Inkjet 4D Print」によるピアスの製作を通じて、産学連携プロジェクトの重要性を改めてどのように感じましたか。
鳴海研究者として論文を書く際は、手法の新しさや、設計図と実物の一致率が主な評価軸となります。ですが、その「論文上では完璧なサンプル」をイッセイ ミヤケの現場に持ち込むと、研究室とは異なる過酷な生活シーンでの扱いに直面しました。インクの剥がれや構造の損壊といった課題が露呈し、製品化には「触れるもの」としての耐久性が不可欠であると痛感しました。そのため、素材選定や改良にはもっとも多くの時間を費やすこととなりました。
宮前私たちの役割は、研究から生まれた素晴らしいアイディアや可能性を、いかにして「生活の中に溶け込むプロダクト」へと昇華させるかという点にあります。今回の共同開発では、私たちが長年取り組んできた「一枚の布」の構造と、鳴海先生たちの技術に強い親和性を感じたからこそ、ひとつのプロダクトとして形にすることができました。
杉本技術側はコストや納期を優先しがちですが、顧客を喜ばせる「感性」の価値は技術だけでは測れません。宮前さんが示す明確な基準に沿って技術を磨き上げることで、研究室の「面白い種」を製品へと洗練させるプロセスは、非常に貴重な経験でした。
須藤最大の課題は、設計ソフトと素材技術の同時開発でした。複雑な設計を可能にするソフトと、それに耐えうる素材のバランスを両立させることは困難でしたが、互いに知恵を絞り最適解を模索した結果、今回のピアス型パターンが完成しました。

今後もさらなる魅力あふれるプロダクトが登場!?
© ISSEY MIYAKE INC. 写真:高橋マナミ
今後も展開されると思います。将来的な展望をお聞かせください。
鳴海まずは今回のアクセサリーのような、手に取った方が喜んでくれるプロダクトを着実に増やしていきたいですね。シミュレーションの段階では、まだまだ多くのデザインの可能性が見えています。構造に適合する新しいマテリアルの探求を続け、このチームでさらに発展させていきたいと考えています。
宮前ファッション業界の速いサイクルに対し、本プロジェクトは数年かけて試行と検証を重ねてきました。こうした取り組みが、シーズンで消費されない新しいものづくりのあり方を示す契機になればと願っています。今後は強度の向上や新たな素材を開発し、ピアス以外のプロダクトへの応用も視野に入れていきたいです。まずは小規模な実装から社会へ浸透させ、日本の研究者とクリエイティブの融合による、さらなるイノベーションを期待しています。
須藤産学連携には、「学」側の「プロダクトにする」という強い意志と、「産」側の「開発時間を共に耐え忍ぶ」という理解の両方が不可欠です。歩み寄りを惜しまないこのメンバーが集まったからこそ、今回の成果が生まれたのだと確信しています。引き続き、さらなる技術発展にむけて、取り組んでいきます。

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