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0.03mmのコーティングに込めた技術──化学素材メーカー小松マテーレが自ら日傘を作った理由

2026.08.27
化学素材メーカーの小松マテーレは、約140gという軽さと高い遮熱性を両立した晴雨兼用日傘『Higassan®』を展開している。
テキスタイルを供給する側の企業が、なぜあえて最終製品である傘を自ら手がけたのか。そこには、自社の技術力を世に問い、素材の可能性を証明するという強い意志があった。
この記事では、同社の開発担当者と販売担当者への取材から、3年にわたる開発の軌跡と、一本の日傘に込められた“素材メーカーのプライド”を紐解く。

素材の力が試される「ギア」としての日傘

うだるような暑さが続く日本の夏。もはや日傘は女性だけのものではなく、性別を問わず多くの人が手にする必須アイテムとなった。特にここ数年、男性がファッションやガジェット感覚で日傘を選ぶ光景も珍しくない。この市場の変化に、ある化学素材メーカーが反応した。テキスタイルの製造販売を主軸とする企業、小松マテーレだ。
同社は、これまでも多くの傘ブランドに生地を供給してきた。しかし本製品においては、彼らは自ら最終製品である日傘『Higassan®』を開発・販売するという道を選んだ。なぜ、素材のプロフェッショナルが、あえて“川下”の製品づくりに乗り出したのか。
その背景には、自社の技術力をもっとも効果的にアピールしたいという強い想いがあった。開発担当者は、数年前から男性向け「ギア」としての日傘市場の可能性に着目していたと語る。
「近年、日傘が男性にとっても実用品やアウトドアギアの一つとして受け入れられ、市場が拡大していることに注目していました。そこで私たちも、メイドインジャパンで、軽量かつ高い遮熱性能を備え、男性が抵抗なく携行できる『ギアとしての日傘』を作れないかと考えたのです」
日傘の役割は、単に日差しを遮るだけではない。夏の突然の雨にも対応できる撥水性や防水性も求められる、多機能性が試されるアイテムだ。だからこそ製品としての開発は、小松マテーレが長年培ってきた技術力を余すところなく注ぎ込める、「最高の舞台」になると考えたのだ。
自社ブランドの製品が売れることで、結果的に「小松マテーレの生地は売れる」という実績にもなり、他の傘メーカーとの関係を深める狙いもあるという。Higassan®は、同社の技術力を世に問うための、いわば“名刺代わり”の一本なのである。
Higassan® 晴雨兼用折りたたみ日傘 /2段折 6,600円(税込)

開発3年、0.03mmのコーティングに宿る執念

Higassan®の最大の特徴は、高い遮熱性能と約140gという驚異的な軽さを両立している点だ。一般的に、遮熱性や遮光性を高めようとするとコーティング層が厚くなり、生地は重く硬くなる。一方でHigassan®は、しなやかさを保ったまま、高い機能性を実現している。
その秘密は、独自に開発した厚さわずか0.03mmの「薄膜遮熱コーティング」にある。一般的な遮熱日傘の多くが、機能を担保するためにコーティングを2層、3層と重ねるのに対し、Higassan®ではたったの1層。この極めて薄い膜が、太陽の熱を効率的に反射・吸収し、傘の下に涼しい空間を生み出してくれる。
独自技術を用いた遮熱コーティングの薄くてしなやかな生地
小松マテーレが出展していた展示会場で、実際に太陽光を模した55℃の熱源ライトの下で傘をさしてみると、その差は歴然。頭上に一枚の“日陰”が生まれたかのように、ジリジリとした熱がすっと消える。これが0.03mmの極薄膜の力かと驚かされた。
55℃の熱をシャットアウトしてくれるような感覚だった
この革新的な技術の鍵を握るのが、極薄シルバーコーティングの樹脂に混ぜ込まれた微細な「アルミ」だ。光を鏡のように反射させるアルミ粒子を、いかに均一に、そして緻密に分散させ、薄い膜として生地に定着させるか。ここに小松マテーレの真骨頂がある。無数の選択肢の中から、最高のパフォーマンスを発揮するまでに要した時間は約3年。素材メーカーとしての執念の証だ。
傘の内側に施されている極薄シルバーコーティング。上品な色合いのシルバーだ

優れた技術の証し。長く使える信頼性

優れた技術も、製品としてユーザーの手に渡り、日々の使用に耐えられなければ意味がない。Higassan®は、単なるスペックの高さだけでなく、「道具」としての信頼性も徹底的に追求されている。
手に取ると、その軽さに改めて驚かされる。著者のスマートフォン(約240g)よりも100g近く軽い約140gだ。軽さを支えるのは、コーティング技術だけではない。
傘のために作られた極細の糸で織り上げた生地を採用し、さらに親骨には軽量でしなやかなカーボンファイバーを一部使用。強度と価格のバランスを追求しながら、男性でも使いやすい直径98cmのサイズを確保している。収納時は直径約4cmとスリムで、毎日バッグに入れて持ち歩いても苦にならない。
傘を開いたときの直径は約98cmと安心感のあるサイズながら、たたむと非常にスリム
軽く華奢な骨ながら、翻っても折れないしなやかさを持つ
そして、この傘の信頼性を支えているのが、小松マテーレが過酷なアウトドアシーンで培ってきたコーティング技術だ。開発担当者は、その背景をこう語る。
「我々はスキーウエアなどに使われる透湿防水素材も長年手がけています。極端な話、それらには命を守るようなスペックが必要とされます。そのコーティングがはがれにくいといったノウハウを、この日傘にも応用した形ですね」
雨にぬれた傘をたたんでおいたら、次に開くときに生地同士がくっついてしまった、という経験はないだろうか。これは「ブロッキング」と呼ばれ、コーティングがはがれる原因となる現象だ。
Higassan®は、このブロッキングが起きないよう、樹脂の設計段階から対策済み。ユーザーが何も気にすることなく、毎日安心して使えること。その“当たり前”を支えるために、見えない部分にも技術と手間が惜しみなく注がれているのだ。

日傘から、暮らしの“涼”へ。遮熱技術の新たな挑戦

小松マテーレの挑戦は、一本の日傘で終わりではない。Higassan®の開発で得た知見と技術は、すでに次のステージを見据えている。
「この薄くて軽い遮熱技術を、他のアイテムにも応用できないかと考えています」と販売担当者は語る。その言葉通り、同社は日傘の枠を超え、より広い領域での技術活用を模索している。
Higassan®は、単なる高機能な日傘ではない。それは、小松マテーレという素材メーカーが、自社の技術力とプライドを懸けて生み出した「作品」であり、未来の可能性を示すプロトタイプでもある。
年々厳しさを増す猛暑を、技術の力でいかに快適に乗り越えるか。この一本の黒い傘から始まる「涼しい暮らし」へのイノベーションに、今後も注目していきたい。

Text by China Sekido(altair inc.)

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