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伝統を守るために変える──綿浴衣「夏色美人」に見る和装文化アップデートの現在地
夏祭りや花火大会の風物詩として親しまれてきた浴衣。しかし近年は、猛暑の常態化やライフスタイルの変化により、浴衣に求められる価値も変わりつつある。
そんななか中、江戸時代から続く呉服問屋をルーツに持つ豊彩株式会社グループで、和装通販サイト「京都きもの町」を運営する有限会社京都きもの町は、同社の浴衣ブランドである「夏色美人」から、接触冷感やUV加工を施した2026年新作浴衣を発売した。伝統的な綿素材を用いながらも、現代の暮らしに寄り添う機能性を取り入れたシリーズだ。
そもそも浴衣は時代とともにどのように変化してきたのか。そして、今の時代に求められる浴衣とはどのようなものなのだろうか。
本記事では、京都きもの町のマネージャーである是永典子氏に話を聞き、変化する浴衣文化と、現代の生活者に向けた新たな浴衣づくりについて探る。
PROFILE
是永 典子(これなが のりこ)
豊彩株式会社 販売事業部マネージャー
2011年入社。WEBデザイナーから複数のECモール運営担当を経験。商品部としてMDも担当。
ネットショップを通じた和装体験の広がり
京都きもの町は、和装をより身近なものにするために設立された。その根底には、全国どこからでも良質な着物や浴衣に触れられる環境を作りたいという思いがある。「ネットショップを通じて、地域に関わらず良いものをリーズナブルにお届けできるというところに、私たちの存在意義があると思っています。お客様に、買ってよかったとハッピーな気持ちをお届けできればと思っています」
是永さんが語るように、製品開発は常に生活者の視点に立って行われている。その姿勢は、「着付けが難しい」という和装の最大のハードルを下げる工夫に表れている。たとえば、キャミソール型のワンピース浴衣が多く販売されるなか、着姿がより浴衣に似ているカシュクールワンピース型の浴衣を展開。さらに、上下が分かれた2部式浴衣なども展開し、一人でも簡単に着ることのできる製品を充実させている。

「特別なシーンで浴衣を着たいと思っても、誰かに着付けをしていただくとなると、やはりハードルが高くなります。家で一人で簡単に着られるということは、洋服と同じように『今日は浴衣を着ようかな』という選択肢の一つとして考えていただける機会が増えるのかなと思っています」
こうした着やすさを追求した製品は、着物に親しみのない層が和装の世界へ足を踏み入れるための入り口として機能している。同時に、日本国内にとどまらず海外の旅行者や初心者に向けても、英語や中国語での着付け・帯結びの動画をYouTubeで配信するなど、多角的なアプローチで和装への間口を広げている。

日常着としての浴衣と移り変わるトレンド
着付けのハードルが下がったことで浴衣を楽しむ人々の層や着用シーンは変化し、浴衣に対する価値観も、より自由なものへと変わりつつある。「夏祭りや花火大会のときに着たいというニーズが高まるのはもちろんのことです。それにプラスして、フォトスポット巡りであるとか、ふらっとカフェに行くとか、日常のおしゃれの一部として浴衣を楽しんでくださる方が増えていると感じています」
デザイン面においても、毎年のトレンドカラーや現代的なデザインを積極的に取り入れている。近年は長く続いたくすみカラーのトレンドから、水色やピンクなどを取り入れた明るい色合いの浴衣にも注目が集まっているという。また、ひまわりなど昔から親しまれてきたモチーフも、色使いや表現を現代的にアレンジしたデザインが増加。洋服のファッショントレンドとも連動しながら、浴衣も少しずつ進化を続けている。

特別な衣装から日常のおしゃれ着へと浴衣の立ち位置が変化するなか、直面したのが日本の過酷な夏の暑さという問題だった。
猛暑に立ち向かう「夏色美人」の機能設計
連日のように猛暑日が続く現代の夏の気候において、衣服に求められる機能性は年々高まっている。涼しさや紫外線のカットといった要素は、洋服を選ぶ際には当たり前の基準となった。浴衣も例外ではなく、消費者は見た目の美しさだけでなく、着用時の快適さをシビアに求めるようになっている。「本当に暑くなってきていますので、少しでも涼しく、紫外線を受けたくないという気持ちにお応えしたいと考えました。ポリエステル素材で機能性を持たせた浴衣はすでに主流ですが、化学繊維が苦手な方や『浴衣は綿がいい』という方もおられます。そこで綿素材に機能性を持たせるという取り組みをしました」

2024年のリリース当初、「夏色美人」は速乾性やイージーケア性に優れた高性能ポリエステル素材を採用していた。対して今回の綿は吸湿性や通気性に優れ、やさしい肌触りであることや、変わり織りによる透け感など涼やかな風合いを表現しやすい。しかし、自然素材である綿に接触冷感やUV加工といった機能を持たせることは、生地メーカーにとって非常に技術的難易度が高いものだった。
「生地を調達していただいたメーカーさん曰く、この加工はとても難しかったようです。綿にどうやって機能性を持たせるかというところで試行錯誤をしていただきました」
この試行錯誤の末に完成した新作は、機能性素材を求めつつも化繊が苦手な層に向け、綿特有の自然な肌触りを保ちながら、接触冷感と80%以上の紫外線カット機能を実現した。近年は浴衣を日中のおしゃれ着として楽しむ人も増えているが、日差しの強い昼間の着用シーンにも応える仕上がりだ。

生活に寄り添うアップデートと残すべき情緒
機能性の追求は、着用中の涼しさだけにとどまらない。日常着として定着するためには、着用後の手入れのしやすさも重要な要素となる。汗をかきやすい季節だからこそ、浴衣は自宅での洗濯が可能になっている。畳んで洗濯ネットに入れ、手洗いコースで洗った後は、物干し竿に広げてシワを伸ばして干すだけでよい。洋服よりも直線的な構造のため、アイロンがけもしやすいという。
一方で、変えずに守り続けるべき「浴衣らしさ」もある。伝統的なパターンが作り出すシルエットの美しさや、着ている姿が周囲に与える涼やかな風情は、和装ならではの価値だ。着物は動きに多少の制約があるものの、そのおかげで自然と所作に気を配るようになり、立ち姿や美しいシルエットが保たれるという利点もある。
「現代に合わせてアップデートしていくことで、伝統を継続していけると考えています。ずっと生活とともにあり続けるためには、そういう変化も適宜必要なのかなと思っています」

日常の一着として未来へつなぐ和装文化
現代の気候やライフスタイルに合わせて機能や形を変えながらも、浴衣はその本質的な美しさを保ち続けている。特別な日の装いから、日常の選択肢へ。京都きもの町のものづくりは、そんな未来の風景を見据えている。時代に寄り添い、生活者の悩みを一つひとつ解消していくその歩みが、結果として日本の伝統的な和装文化を次世代へとつないでいく。
Text by Maho Ueda(altair inc.)








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